第10回 経済同友会 環境・エネルギー委員会 委員長/帝人株式会社 取締役会長 長島徹氏

停滞し続ける日本経済を改革路線で再生する


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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 第10回目にご登場いただくのは、経済同友会環境・エネルギー委員会委員長で帝人株式会社取締役会長の長島徹氏です。幅広くエネルギー問題や温暖化問題に対して日本や産業界が取り組むべきなのか、率直にお話いただきました。

電源のベストミックスは、省エネ設定を明確にした後に決めるべき

――安倍新政権のもと、エネルギー政策について短期的、中長期的にはどうあってほしいとお考えでしょうか?

長島徹氏(以下敬称略):現在議論を重ねているところでもありますが、経済同友会としては、原子力発電は当分必要だという認識です。原発がいつなくなるかというのは、省エネや再生可能エネルギーの技術がどの程度発達して、どういう政策を打ち出して、それが国全体としてどういう形でなっていくかまだ見えないので、早急にどの程度というのはなかなか難しいのではないかと思っています。今の段階では、理想的に脱原発できるのはいつ頃になるかということではないでしょうか。

長島徹(ながしま・とおる)氏。1965年名古屋工業大学工学部繊維工学科卒業。同年4月帝人株式会社入社。1999年4月機能ファイバー事業本部長。同年6月執行役員(機能ファイバー事業本部長)2000年6月取締役(CESHO兼機能ファイバー事業本部長)2001年6月常務取締役(CMO兼経営企画室長兼法務室、業務監査室、沼津事業所担当)。2001年11月代表取締役社長(COO)。2002年6月代表取締役社長(CEO)。2008年6月取締役会長(現任)。経済同友会環境・エネルギー委員会委員長(現任)。オランダ王国オレンジ・ナッソー勲章勲4等。名古屋工業大学名誉博士。

 電力ソースで言うと、再生可能エネルギー・原子力・火力が主ですが、その割合が何%と皆さんおっしゃるでしょう?それもいいかもしれませんが、全体の電力使用量を国がどの程度に収めて、それぞれの設備でどの程度の電力をつくり出すかという総量をきちんと試算して分析した後に、%(電源割合)を出すべきではないでしょうか。

――具体的にどういうことでしょうか?

長島:2010年の日本国内の総電力使用量は1兆1000億kWhで、そこからスタートするわけです。では省エネ努力の部分はどうするのか、そこから何割と数えるか、例えば2割努力するとすれば、年間の総量は8800億kWhになるわけです。それをベースとして経済成長するとして、半分を火力発電とすると4400億kWhになります。2割程度は原子力発電とすると1760億kWh、残り3割は2600億kWhの再生可能エネルギーで、その内10%程度は水力として、水力の約1000億kWh引いて・・というように、どうやったら達成できるかと掘り下げていく必要があります。

 そこから炭酸ガスの排出量を計算しますが、火力が一番多いでしょうから、出た炭酸ガスを化合物にする等いろいろ方法がありますが、どの程度まで技術で封じ込められるかということでしょう。つまり、技術との兼ね合いです。技術をやるとしたら民間だけでは難しいので、政府・国としてのサポートが要ります。

――当面のエネルギー政策として、何が大事でしょうか?

長島:短期は、国民がエネルギー問題で生活が苦しまないようにするには、やはり原子力は当面要るでしょう。原子力規制委員会がきちっと判断して安全な原子力発電所から動かしていく。最近の新型の原発はより安全になっているので、40年前のものとは違います。それらは地震に対しても大きな影響はないと思われます。

 また、例えば、地面が少々ずれたとしてもちゃんと土の中に原子力施設がフローティング(浮く)できる技術はできないものかとも思います。地中に施設全体が落ちるのではなく、どこかでずれる分には、落ちないところが支えておけばいいわけですから。

――なるほど・・、地中で設備がフローティングするのですね。

長島:リスクが発生した際に完全にストップさせるとしても、他の燃料棒が連続して冷却されるシステムをもっと考えたらいいと思います。放射能が漏れないように、配管を今以上にリスクを考慮した形でつなぐこともできるでしょう。例えば、津波が来た際の備えとして、発電所全体をドームで囲うような造りにしてはどうでしょうか。設備の前に高い壁を作るよりも、津波を受けても波がすーっと引くような構造にするとか。

――ちょっと想像してみましたが、そうした可能性も模索できるように感じます。

長島:例えばということでイメージしてみましたが、技術があれば、どの程度を想定するかだと思います。それから、使用済み燃料の処理問題は別の政策的な面も含んできますが、技術の確立が早急に必要です。

――国がもっと積極的に責任を持ち、原子力問題に関わっていくべきだとお考えですか?

長島:はい。民間に丸投げしないで、国として技術革新が必要です。ある意味では民間は請け負っただけですから。

――国民の命を守るのは国家の責任ですね。

長島:国家って何だというと政府ですよね。そこが逃げ腰になったらだめですよね。

――安倍新政権はこの問題に責任を取ろうという姿勢は感じますか?

長島:それはやっぱり勉強してきたはずですよ、野党としての時間もあったわけですし。

――しかし、世論として原発の再稼働は厳しい状況にあります。

長島:きちっとした情報が一般の市民に行き渡っていないと思います。私自身も福島事故後、1年前に経済同友会・環境エネルギー委員会の委員長に就き、あらためていろいろ勉強しているところです。いずれにせよエネルギーが無ければ、皆生活できません。薪でごはんを炊き、ろうそくで灯りをともす生活は無理でしょう。

規制緩和、改革、違うやり方で経済成長を図る

――環境と経済をいかにバランスよく両立させるかですが、日本では経済成長が停滞している状況が続いていますが、これについてはどうお考えですか?

長島:適切な経済成長が要ります。5%、6%といったレベルの新興国並みの経済成長はいらないし、もうできません。やはり先進国型の経済成長モデルがいるのではないかと思います。それが2%とか3%と言われている所以です。

――日本はGDPの伸び率が20年間で1.06%と停滞しています。イタリアでさえ2%なのに。

長島:日本は特に停滞したのです。先に行き過ぎて、そこに行った時の成長モデルでずっと続くと思っていた。だから改革が遅れたのです。民もそうだし官もそうだしも政府もそうですが、保守勢力が多いとそうなってしまいます。

――では、どうしたらよいのでしょうか?

長島:規制を緩和する、改革する、違うやり方をするということをしっかりやっていくことです。

――個人的というお立場でも結構ですが、例えば電力改革でしたら、やはり進めていくべきというお考えですか?

長島:これからは環境問題も含めて考えると、9電力会社が大量の電力を作り、一方向に供給する時代ではありません。原子力は国家の運営で、これは既存の大手電力会社が請け負ってオペレーションするというのは有り得るとしても、残りの20%の新しい再生可能エネルギーの部分は、小さいユニットのたくさんの集まりで成っていく方向で考えるべきです。地方や地域である程度完結できる形の集まりが日本中にあるような形にして、ある程度は「分散管理」にしていかなくてはなりません。

――再エネ発電の分散管理ですね。

長島:例えば北海道や東北の風力発電がたくさん発電したとしても、地方でつくって余った電気をどうするかが課題です。風力は電力の波があるので、それをある程度蓄電し、余った電気はどこかに売る仕組みが要ります。電力のデジタル化、電力のネット化をどうやって行い、分散管理するかを考えなければなりません。

 各戸1軒1軒は、できれば太陽光発電で自分のところの電力を全部賄い、エネルギー・ゼロベースで自産自消し、余ったら売り、地域で地産地消して、そこで余ったらそれをまた売る、といった順番で仕組みを考える。スマートメーターを入れて見える化し、省エネしながら発電すると同時に、そのデータを自由に情報としてやりとりできるようにする。そうすれば、もう少し自由に電力のやりとりができるようになり、好きな発電(または配電)事業者から好きな電力を買うことができます。

――そのためには、やはり改革が必要ということですね。

長島:従来の電力会社が、どうやって新たなビジネスモデルを作っていくかということになります。電力会社は原子力事業を請け負うとしても、小さい発電会社との協業関係をどうするか、新しいビジネスモデルを作っていかなくてはなりません。発送電分離もひとつですが、多数の小さい発電業者との仕組みづくりを発達させないと、日本は世界の中で立ち遅れてしまいます。

 またこれを逆手に取り、イノベーションとしてそうした分散型社会を作れば、世界のモデルになります。日本は国土も広くありませんし、多くのユニットの集まりでコンパクトにまとめればいい。ネット社会のように電力もICT化が不可欠です。無数の電力供給者と需要者の集まりをデジタル化して、よりフレキシブルな電力にしていくべきでしょう。

――国が先導して進めていくべきでしょうか?

長島:国だけではなく、民間参加型にしなくてはいけません。国にやってもらうといっても、国はうまくやるためのルールづくりで、実際のものは民間か個人がやるわけですから。

再生可能エネルギー産業をもっと伸ばしていくために

――太陽光発電では海外メーカーとの価格競争で国内メーカーが苦戦していますが、再生可能エネルギー産業において海外との競争は大変だと感じます。

長島:単に装置、舞台というだけではダメです。太陽光電池は発電しながら、表面は発熱しますから、熱を利用することも考えれば、熱エネルギー利用率は4割くらいになります。太陽光を電力に換え、太陽熱を熱交換してお湯に換える。お湯ではなくても太陽熱をパイプを通じて電力に換えるというやり方もあるでしょう。

――もっと太陽エネルギーを高効率に利用していくべきだとお考えなのですね。

長島:ただコストダウンは今すぐに必要です。

――価格競争に勝てない状況はどうしたらよいのでしょうか?

長島:安いものは海外から買ってきて、ユニットにして、システムにして、いろんなサービスを付けていく。全部日本でやって安ければいいですが、安いものは調達して組み合わせるようにすればいい。単に太陽光パネルだけではなく、同時に違った熱エネルギーも利用するような技術にしていけば、技術特許にならなくとも、新興国が早々には追い付かない技術になるのではないかと思います。

――日本での再生可能エネルギー分野は太陽光がけん引する形が望ましいでしょうか?

長島:いや、太陽光はユニットとしては小さいですね。太陽光パネルがたくさん集まって個々の家や学校ではいいですが・・。これからは、大型の洋上風力や地中熱、中小水力発電に大きな可能性があると思います。海流発電や海洋発電にも期待がありますが、まだ実験段階で技術がどこまでいくかまだちょっと読めないですね。しかし、海流は1年中あります。「海流は方向が変わることがある」と言いますが、方向が変わればそれに伴ってプロペラが自由に回ればいいのではないでしょうか。

――太陽光だけでなく、風、海、水と、大きな可能性がありますね。

長島:そうです。このビルの窓から外を見ると、ビル群の屋上にどれだけの太陽光パネルが置いてあるかと言うとまだまだですよね。

――屋上にはかなりのスペースがありますね。

長島:そのうち宇宙太陽光発電のような最先端技術が実用化される時代が来るかもしれませんよ。

――コストと発電効率等について太陽光発電には批判もありますが、あらゆる可能性を追求した技術開発は続けるべきでしょうか?

長島:開発の手を緩めてはなりません。ドンといきましょう。お金をかけられる企業や人は、少々お金を使ったっていいじゃないですか。

エネルギー問題ですぐ取り組むべき課題は「省エネ」

長島:今後のエネルギー問題を考える上で、本当にすぐやるべきは省エネです。

――方策をいくつかご提示いただけますか?

長島:日本で遅れているのは、建物の省エネ化です。大中小すべての大きさの建物がそうです。このビルは真空2重窓ガラスですが、これだけでだいぶ違います。壁材から屋根材から全部入れて、既存のものも改築していく必要があります。そうすると、そこにまた部材の開発があってビジネスチャンスも生まれてきます。

――EU(欧州連合)では、新築と既存の建物について省エネ表示を義務付けていますね。

長島:日本は、産業の中で省エネ化を1970年代後半頃に一生懸命皆でやって、ある程度省エネにしました。だからそれで省エネ先進国と思われていたのですが、開けてみたら住居建物・オフィスビル含めてやってなかったわけです。耐震については最近一生懸命やっていますが、省エネはほとんど進んでいません。

 ある人が、一般住宅を夏場にクーリングするのに屋根から水をぽとぽと落とすだけで結構冷えると話していました。水の豊富なところはそれができますよね。屋根の上に穴をあけた水道管を入れて、ぽとぽと水を落とすだけです。

――シンプルな、ちょっとした住まいの工夫ですね。

長島:ローテクです。水の蒸発熱を使っています。屋根が冷えたら全体が冷えるという単純なことです。融雪道路は水を撒きますが、これもローテクですね。ヨーロッパの家は、どちらかというと石造りが多いですよね。石は熱伝導率が低いので、全体に冷えやすいというのもあるのかもしれません。

 フランスでは水の使用量なんかも一日に何ℓと決まっています。アパートのような部屋は、この部屋で一日に使用可能な水の量は何ℓですと書いてあり、小さいアパートなどは一日の使用量が20ℓくらいで、シャワーはちょっとしか使えません。そういうことが結構当たり前になっています。

――使用量が限られているわけですね。

長島:また、ローテクといえば、僕も「すだれ」はいいと思っています。うちはマンションですが、将来すだれか、ゴーヤすだれでもやろうかなと思っています。

――住まいを省エネすると、全体的なエネルギー消費量は大きく減りそうですね。

長島:そんなの無理という前に、そういうことをやるべきです。年間電力消費量の1兆kWhの10%と言えば1000億kWhですが、今の日本の住宅5000万戸とオフィスビル、学校、などの1000万棟で省エネをやれば、それだけの電力消費を減らせる可能性があります。

 それから、日本では熱エネルギー利用がまだ十分されていません。排熱利用を進めるべきです。スカイツリーは地中熱システムを利用し、40%ほどのエネルギーをカットできています。冬は暖かく夏は涼しく過ごせます。熱利用としては下水もあります。下水は20度近くあるらしいですから、廃熱を利用しない手はないでしょう。

――下水の廃熱は全国にありますね。

長島:それが活かせていません。下水の流れているところにパイプを通し、その温度を取り出して戻せば、20度くらいの室内温度で年間を通して過ごせます。

――廃熱は利用しないと、もったいないです。

長島:創エネ、蓄電池による蓄エネ、それから省エネをやって、排熱などの熱エネルギーを利用して、全体のエネルギー消費量の2割は削減できるのではないでしょうか。個人的意見ですが、全体の2割を省エネし、電源のベストミックスは、残りの5割で火力発電、3割は水力を入れた再生可能エネルギー、2割を原子力発電にする構成がいいと思います。

――納得できる選択肢かと思います。

長島:火力発電については、石炭からシェールガス含めてLNGへとシフトして、相当CO2ガスの排出量を減らしています。しかし、炭酸ガスは出るので、これをどう処理するのか、それもひとつの大きな技術がないといけません。火力発電で使うエネルギーのひとつに水素エネルギーがあり、水素エネルギーをもっと活用しようという案も出ています。

――水素エネルギーの活用ですね。

長島:笑い話として聞き流していただいても結構ですが、南米のパタゴニアなど強風を常時活用できる地方で、風力発電機で電気を起し、さらにこの電気を使って水の電気分解で水素を製造します。水から取り出した水素は化合物にして、体積を500分の1程度の安定した液体の状態にして船で日本に運び、貯蔵し、日本でもう一度水素ガスに戻します。それを火力発電設備でガスの成分として、例えば2割程度の補助に使ってやると、その分CO2排出量は減ってきます。

 その他の水素の活用として燃料電池があります。ガソリンスタンド、水素ボンベなど、用途は広がりそうです。人間の知恵を合わせたら、世の中ずいぶん変わってくるのではないでしょうか。原子力についても、次世代原子力のようなものを自国だけでの技術開発が無理ならば、米国やインドなどと協力する形で、政府としてプロジェクトに参画してはどうかと思います。

――エネルギー問題の解決に貢献できる技術開発はいろいろありますね。

長島:CCS(二酸化炭素回収・貯留)は炭酸ガスを地上に出さない重要な方策のひとつです。CO2を使って化合物を作るといった方法、それから水中で太陽光と炭酸ガスを放り込んで藻を促進して作り、その藻からエタノールを取り出すバイオエタノール技術もあります。

 これは今はコストがかかって大変ですが、工業生産化できる技術ができるといいですね。あくまでイメージですが、直径1mくらいのガラス管かプラスチック菅をたくさん並べて横、もしくは下から炭酸ガスを供給しながら、太陽光かLEDで照らして藻の成長を促し、藻を取り出すことができるといいかもしれません。

温室効果ガス排出削減に向けて日本が貢献できることは

――温室効果ガスの削減について、日本はどのような貢献ができますか?

長島:90年比25%の削減目標については、いわゆる主要な炭酸ガス排出国も世界中で取り組むという前提ではありますが、その目標を2020年に実現するのは難しいと思っています。だから、ここまでならチャレンジャブルにできるという目標を設定し直すべきでしょう。経済同友会としても、この目標については時間をかけて考えていきたいと思っています。

 もうひとつの方策としては、排出量の二国間オフセット・クレジット制度を積極的にやるべきです。アジア諸国を中心に省エネ技術を移転し、その貢献分の排出量の権利を日本が取り入れるべきです。新しい枠組みで制度化を目指して、国際的に認められるようにしてほしいと思います。

【インタビュー後記】
時間があっという間に過ぎて、お話を伺うのが本当に楽しかった!というのが、インタビューを終えた素直な感想です。一つひとつのテーマについて、「こんなイメージならば、その技術は可能になるかもしれない」と例を挙げて話してくださいましたが、私にとって想像もつかないようなアイディアもありました。従来のやり方にとらわれない姿勢、発想の柔軟さには脱帽です。物腰穏やかにお話くださいましたが、「保守(守り)のままでは成長は停滞する」という言葉がいつまでも心に残っています。何事も必要あれば、改革を恐れず、前進しなくてはいけないのですね。日本再生に向けた直球の言葉の数々に元気をいただきました。

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