第9回 日本化学工業協会 技術委員会 委員長/三井化学株式会社 取締役 常務執行役員 生産・技術本部長 竹本元氏
環境問題のソリューション・プロバイダーとしての化学の使命
松本 真由美
国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授
省エネと再エネの技術開発体制構築の必要性
竹本:今後のエネルギー問題を考えていく上で、我々は省エネルギーと再生可能エネルギーの技術開発体制を構築する必要性を訴えています。もちろん再生可能エネルギーは、まだまだコストが高いですが、技術開発いかんではコストをどんどん下げていけるかと思いますので、このイノベーション実現の上で、化学産業の先端素材の果たす役割はかなり大きいでしょう。
ただ先端素材の開発から量産化までには険しい道のりがあり、この研究開発の促進のためには相当な資源投入が必要になってきます。また、再生可能エネルギーの新技術のための製品の安定生産のためにも、再生可能エネルギーの将来の普及を見据えて、日本のエネルギーのコストの低減と安定供給を実現する政策がとられるべきものと考えております。
エネルギーの安全保障体制を確保し、先端技術の開発と工業化を促進する政策が必要です。その実現については、政府はエネルギー政策と環境政策更に経済政策を総合的に丁寧に検討し、すなわち地球温暖化対策・化石燃料の原料調達・研究開発体制の構築・国内外の技術的課題・同じく経済的課題を総合的に整理して、具体的で実現可能なロードマップとして策定し、政策の全体像を明示することが必要です。また計画の遂行については、エネルギーの需給見通しは国内外の情勢や技術開発の進展動向により大きな影響を受けることを認識して、政策を不断に見直せる体制とすることも必要だと考えています。
2013年以降も「低炭素社会実行計画」に参画
――最後にこれからの化学産業の活動についてお聞かせください。
竹本:環境自主行動計画は経団連が進め、それに参画して今までやってきたわけですが、2012年度で終了します。そこで終わったということではなくて、今度は新しくまた目標を掲げ、化学産業は手綱を緩めることなく「低炭素社会実行計画」に参画し、エネルギー効率を改善することにより、さらに温暖化ガスを削減していくことに貢献していきたいと思います。
化学産業の製品はありとあらゆる産業に製品を供給している意味で、産業のもとになる産業ですので、マザー産業と言われています。化学産業の役割は温暖化防止に向けてはソリューション・プロバイダーとしてしっかりやっていくということだと思います。化学産業は現在もエネルギー効率の向上とGHG排出削減に製品を通じて大きな貢献をしていますが、将来はさらに貢献が大きくなるでしょう。
日化協としてはICCAに貢献しながら、協調しながら、国際的にしっかり化学産業の果たすべき役割を明示しつつ、貢献量あるいは化学製品の効果といったものをしっかり皆さんに広めていきたいと思います。
【インタビュー後記】
あらゆる産業に素材を提供している化学産業。化学産業がエネルギーと気候変動問題にどのように貢献していくのか、竹本さんは具体例を豊富にあげてお話くださいました。エネルギー多消費産業と見られがちですが、実は製品化される多種多様なものが、製造時にかかるエネルギー消費に比べて、大きくGHG排出削減に貢献していることを、c-LCAの考えにのっとり分かりやすく説明いただきました。これはある意味、「ものの見方」についてはっと考えさせられました。何事もぱっと見た目だけで判断したり、断片的に見て判断するのは正しくないことなのだと。数字の透明度を高めてライフサイクルで製品を評価していくc-LCAが今後ますます重要になるのは間違いありません。イノベーションの中核技術を担う化学産業の今後の取り組みに注目していきたいと思います!