第9回 日本化学工業協会 技術委員会 委員長/三井化学株式会社 取締役 常務執行役員 生産・技術本部長 竹本元氏
環境問題のソリューション・プロバイダーとしての化学の使命
松本 真由美
国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授
原発を含めた多様なエネルギー源を用いたエネルギーの安定供給を望む
――安倍政権が発足しましたが、今後の政府に対してのエネルギー政策に対する期待、また化学産業としての見解はいかがですか?
竹本:3.11が起こる前までは、原発を推進してGHGガスを削減していくことがエネルギー戦略でしたが、3.11以降、旧政権でエネルギーミックスのあり方が活発に議論され、昨年9月14日には旧政権のエネルギー・環境会議では2030年代に向けて原発ゼロ社会を目指すという革新的エネルギー・環境戦略をとりまとめました。しかし、これは新政権では見直しを行うことが伝えられていますので、今後のエネルギー政策の見直しがどのようになるか注目しております。
日本化学工業協会は日本が置かれている現状からみて、原発を2030年ベースで、あるいは将来的にゼロにすることは日本化学工業協会としては反対の立場です。
――主な理由は何ですか?
竹本:原発をなくすと、火力発電と再生可能エネルギーでエネルギーを賄っていくことになります。日本には資源がなく、エネルギー源の大部分を国外資源に依存しておりますので、火力発電には国際的な地政学リスクによる原料供給停止のリスクと海外からの原料調達難のリスクがあります。原子力発電をゼロとするならば、リスク対応策の重要な柱を失うことになります。火力用の原料調達においては、安価調達がより困難になることになります。エネルギーの安全保障、またコストという意味でも、かなり厳しいことになってまいります。
再生可能エネルギーは、コストが高く、導入する場合も別の安定したエネルギー源によって不足時に応援を受けることが必要になるので、自ずと電力源としての限界があります。エネルギーの安定供給がなければ、産業は安全で安定した操業が阻まれるので、化学製品の国内生産を難しくしていきます。
また、エネルギーのコストアップは、国内生産の競争力を喪失させてしまいます。海外への生産移転あるいは操業の中止を余儀なくされれば、技術流出や雇用の減少が生じ、国内の産業は脆弱化し、日本経済は大きなダメージを受けることになります。原発を含む多様なエネルギー源を用いることが安定した操業に必要と考えております。
――しかし現在、原発の再稼働は難しい状況です。
竹本:今、原発が1つしか動いていませんが、おかげで日本の電力料金が非常に上がっています。国際的に見ても電気料金はかなり高いわけです。化学だけじゃなく、日本の産業全体がかなりのコスト負担を強いられている形になっています。
そのような中で今、日本の6重苦7重苦と言われている中の大きな一つとしてエネルギーの問題がありますが、やはり海外に出て行くしかなくなってくる。そうすると日本の空洞化、産業の空洞化が起こり、雇用も技術も外に出て行ってしまい、日本の経済のバランスという意味でもかなり問題だろうと考えています。将来的なエネルギー政策は新政権で真剣に考えてほしいと思いますが、そういう経済的な切り口、あるいは環境の切り口を加味した上で実現可能なロードマップをしっかり描いて欲しいと思います。