第9回 日本化学工業協会 技術委員会 委員長/三井化学株式会社 取締役 常務執行役員 生産・技術本部長 竹本元氏

環境問題のソリューション・プロバイダーとしての化学の使命


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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――c-LCA手法は、社会からの信頼性を高めそうですね。

竹本:c-LCAで評価して将来の産業のあり方や貢献製品をどう生み出していくかなどいろいろな切り口があると思いますが、さまざまな形で社会に役立ていきたいと思います。あるいは、一つの単品の製品ではなく工場全体、あるいは化学産業全体としてどのくらい貢献できているかという数値化がこれから大事になってくるのではないでしょうか。
 
 現在ICCAではこの日本発のc-LCAに基づく貢献量の算出ガイドラインについて、現在、国際的なガイドラインの策定作業を行っていますが、世界レベルでどういうふうに表現してくかということについても、日化協が大きく貢献していけると思います。今、世界でのリーダーシップが取れているところです。この物差しで化学産業の貢献量をしっかり世の中にアピールしながら、化学の良い面を表に出していかなければと思っています。

――数字の透明化ができるのは、大きなメリットですね。

竹本:はい。数字の透明化ということでは、エネルギーデータの取り扱いについても整理をしたいと思っています。日化協では、エネルギーデータを集約し、自主行動計画の進捗を検証し、産業自らのエネルギーの効率化を進めています。実は化学製品は重さや容積、単位面積で、一律に評価しにくいのです。基準製品を決めて、基準製品あたりこれだけだとか、そういう形で表現しながら、将来の技術開発や化学製品の普及も含めて透明にして取り組んでやっていくというのがこれからの方向だと思います。
 このような多様な製品構成を持つ化学では、エネルギー原単位挙動を工場全体としてあるいは工業会全体で把握するには、「基準製品換算方式」という方法を用いています。

 多種多様な製品を扱うのに非常に合理的で便利な方法ですが、数字の透明性を増すために、算出の基礎についての説明書を作成したいと考えています。さらにこの値を用いて、経済動向とエネルギーの原単位の関係を解析できるように理論化を進め、エネルギーの取り扱いがより透明になり、より強い信頼を受けるようにしていきたいと思っております。

――GHG削減の実績は、どのような状況ですか?

竹本:実績としては、1997年から経団連の環境自主行動計画に基づいて省エネルギー、つまり自分で製造する際のエネルギー使用量を削減してきましたが、97年~2011年までで本計画に参加する化学企業の総エネルギー削減の為の投資額は5408億円に上ります。その結果、エネルギーの削減効果が原油換算461万klにつみあがっております。2011年の化学産業の原油の総使用量も2569万klですので、18%のセーブができています。かなり大きく削減できているのではないでしょうか。

 また、日化協は、日本の化学製品のGHG削減への貢献を数字で明らかにしてきています。ICCAのところでお話しましたc-LCAの方法で計算した8品目(太陽光発電、風力発電、自動車、航空機、LED電球、住宅用断熱材、ホール素子、配管材料)と海水淡水化プラントの合計9つの品目を例としてあげます。

 8品目のGHGの排出が2020年ベースで4.8Mtですが、これに対して断熱材などの化学製品によってもたらされるGHGの削減効果の貢献量が112Mtですから、これらの日本の製品品目で貢献量の多いものについては、23倍の貢献量になります。例えば、航空機の場合は炭素繊維により軽量化に貢献しています。

――23倍ですか。すごいですね!

竹本:8品目で112Mtですが、日本発の新規な半透膜を用いた海水淡水化プラントでは、世界全体でGHG 117Mtの削減に貢献しています。公表した内容は、用いたデータや統計データについて詳しく解説し、具体的な化学産業の貢献が数字の上で分かってもらえるようになっています。化学製品の問題解決の力が実感いただけるでしょう。尚、日化協では製品の品目を増やした研究を続けておりまして、これから品目を増やした結果について、下記の冊子で新たに説明を始めていこうと考えております。

(ご参照;日本化学工業協会 2012年12月刊行、『温室効果ガス削減に向けた新たな視点:国内および世界における化学製品のライフサイクル評価』