第9回 日本化学工業協会 技術委員会 委員長/三井化学株式会社 取締役 常務執行役員 生産・技術本部長 竹本元氏
環境問題のソリューション・プロバイダーとしての化学の使命
松本 真由美
国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授
第9回目にご登場いただくのは、日本化学工業協会 技術委員会 委員長/三井化学株式会社 取締役 常務執行役員 生産・技術本部長の竹本元氏です。化学産業が、地球温暖化対策やエネルギー問題に対してどのような戦略を立てているのか、率直なお話を伺いました。
化学産業はほぼすべての産業に製品を提供。人類は10万種類の化学物質を利用
――はじめに化学産業の特徴、またエネルギーへのかかわりについてお聞かせください。
竹本元氏(以下敬称略):化学産業は、世間一般の方からは、なかなか分かりにくい産業とよく言われます。化学というのが一般の人は苦手でわかりにくいというのが一つと、化学は他の産業と違い、製品の名前を冠していません。化学製品が最終製品になっているものもありますが、最終製品の素材として用いられる製品が多く、直接目に触れにくいことと、種類の多いこと、化学反応を取り扱っているので物質の変化をともなっており、変幻自在のところがあるからではないかと思っております。
しかし、例えば自動車に磁石を持って乗ってみると、車内で磁石にくっつく物はほとんどないですよね。あれは全部化学製品だからです。化学製品をそのまま一般消費者に使っていただくこともありますが、いろんな素材を提供しており、化学製品を使っていない商品はほとんど見当たらないと思います。実際に、化学産業はほぼすべての産業に製品を提供しており、人類は10万種類の化学物質を利用しているといわれています。
竹本元(たけもと・げん)氏。1974年広島大学理学部化学科卒業後、同年三井石油化学工業(株)入社。 2005年6月MITSUI PHENOL SINGAPORE 社長兼Mitsui Bisphenol Singapore社長、07年4月執行役員市原工場長、09年10月常務執行役員 基礎化学品事業本部副本部長、2012年4月取締役 常務執行役員 生産・技術本部長、2012年5月日本化学工業協会技術委員会委員長。 |
――経済規模的にもかなり大きいのではないでしょうか?
竹本:そうですね。化学工業にプラスチックス製品とゴム製品工業を加えますと、日本の年間の出荷ベースでは2010年で40兆円になります。この額は電子電気工業の31兆円、鉄鋼業の18兆円よりも大きく、輸送用機械工業の54兆円に次ぐ、2番目に大きい産業です。製品の数が多く、規模も大きな産業というのが特徴です。
エネルギーや環境との関わりで申しますと、化学はもともと原料の大半を化石資源に依存しており、それを加工する過程でも燃料として化石資源を使用していることになりますが、出てきた製品そのものは、今度はそうしたエネルギーをセーブし、消費を削減するために役立つ商品だと思います。実際、化学製品は多くの産業で、エネルギー効率を向上させる要の素材として、また再生可能エネルギー製造用の要の素材として使用されております。このような使用は、GHG削減に直接結びついており、化学製品は、エネルギーの効率化と、「気候変動」の「緩和」と「適応」にも大きな貢献をしていまます。
「レスポンシブルケア」活動から始まった化学産業の国際的な取り組み
――国際的にどのような取り組みをされているのでしょうか?
竹本:我々は日本化学工業協会に所属していますが、世界レベルで見ますと、1989年に設立した国際化学工業協会協議会(略称ICCA)は現在55カ国もの化学工業協会が参加している大きな協会です。これが世界的な課題に積極的に取り組んでいまして、「レスポンシブルケア」活動からスタートしました。
「レスポンシブルケア」活動は、環境・安全・健康確保を達成するため、企業が自主的に取り組んで、その成果を自ら公表する仕組みにより、産業全体として大きな成果を挙げ、国連からも賞賛されている活動です。現在、ICCAは、引き続きレスポンシブルケア活動に参加する国と協会の数を拡大することを目指しています。