COP18の概要~産業界の視点(第3回)


国際環境経済研究所主席研究員、JFEスチール 専門主監(地球環境)

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(第2回目は、「COP18の概要~産業界の視点(第2回)」をご覧ください)

 これまで見てきたように、対立の構図が激化してなかなか進まない全体交渉に対して、ビジネスの世界では、日々の事業活動を通じて、省エネ技術の世界的普及や激甚災害への適応や対処など、現実のビジネス活動を通じて温暖化対策が進められている。そうした事例を各国の交渉官や国連関係者に紹介し、気候変動問題におけるビジネスの関与、特に世界最高水準の省エネ、省資源技術を持つわが国産業界の貢献拡大について理解を深めると共に、新枠組み交渉にむけて現実的、実効的なアプローチを示すことを目指して経団連を中心に、COPに参加した産業界代表が協力して2つのイベントを実施した。

2.COP18におけるイベント

(ア)ドーハ・ダイアローグ(12月2日 13:30~17:00)

 上述のようにCOPの場で難しい交渉が続いているのに対し、現実の世界では具体的な削減、適応行動は日常のビジネスの投資活動、生産活動などを通して着実に(十分ではないかもしれないが)進められている。今後温暖化対策に必要となる技術移転や民間資金の導入、適応対策の実践にはビジネス、産業界の関与と参画が必須との認識は交渉関係者の間でも次第に広がってきており、「技術メカニズム」、「緑の気候基金」などでは民間セクターの声を聞くためのアクティブオブザーバー登録が招請されている。このような状況の中で、国連交渉プロセスに産業界の知識や経験を生かし、その意向を反映していくため、政府交渉官、国連関係者とビジネス界の対話が必要との問題意識が産業界を中心に高まっており、経団連も主要メンバーとして参画している「気候変動とエネルギー安全保障のための主要国ビジネスフォーラム(BizMEF=Major Economies Business Forum)」を通じて、提言書を発表するなど、2009年のコペンハーゲン以来、産業界の国連プロセスへの貢献拡大を図ってきた。
 こうした背景から、日本経団連、米国国際ビジネス評議会(USCIB)、米国商工会(USCC)、ビジネスヨーロッパなどを中心とし、世界20カ国のビジネス団体のコンソーシアムであるBizMEFと、カタール商工会(QCCI)が共催し、日、米、カタール政府が協賛した「ドーハ・ダイアローグ」が、12月2日の午後、約3時間半にわたり、ドーハ・ヒルトン・ホテルで招待参加者約80人が参加する形で開催された。
 まず開会にあたってカタール政府を代表してAbdullah bin Mubarak bin Labboud Al Aoudadi環境大臣、Remy Rowhani QCCI事務局長から開会の挨拶があり、経団連から進藤地球環境部会長、UNFCCCからDaniele Violetti事務局長、日本政府から石井地球問題担当審議官(大使)、米国政府からPershing気候変動次席交渉官がスピーチ。産業界の国連への関与拡大と貢献への期待が表明された。(カタール政府からは他にFahad bin Mohammed al Attiya食糧安全保障長官(COP18準備委員長)が閣僚として臨席)

 ダイアローグは4つのセッションに分かれて進められた。最初のセッションは資金協力で、電気事業連合の前田部長の司会の下、国連地球環境ファシリティ(GEF)の石井菜穂子CEO、韓国環境省のYeon Chul Yoo局長、国際排出権取引協会(IETA)のForrister CEOが議論をリードし、民間資金導入の必要性、期待と課題について議論が行われた。
 第2セッションは技術メカニズムで、ビジネス・ニュージーランドのCarnegieエネルギー環境部長が司会、環境省の島田参与(国連技術理事会=TEC理事)、ウガンダのGwage交渉官、国際電力パートナーシップのKyte博士がリードスピーカーとなり、TECやCTCNといった国連の技術メカニズム関連組織に民間ビジネスの知見を打ち込んでいくことの重要性、仕組みなどについて話し合った。
 第3セッションは適応問題で、経団連の立場で筆者が司会を務め、IPCCのYpersele副議長、フランス電力公社のCarneilマネージャー、国際鉱業金属業評議会(ICMM)のDrexhage理事、オーストリア政府代表で国連適応委員会のRadunski氏が登壇し、激甚災害への対応や伝染病に対して国際ビジネスも現実問題として対処を余儀なくされており、具体的な対策やノウハウを蓄積していること、今後はその個々具体的なケースやノウハウをパブリック・プライベート・パートナーシップを通じ、官民で共有化していくことが必要とのメッセージを打ち出した。
 第4セッションは国連プロセスへのビジネスの関与(engagement)強化を巡り、USCIBのKennedy副代表の司会の下、EUのDebleke気候変動局長、METI鈴木環境技術産業局長、ドイツ産業協会(BDI)のLoesche理事が登壇、国連の各専門機関に、専門的な知見を持つ産業界の代表がオブザーバーとして参画することの重要性、国連へのビジネス界の代表は影響力のある特定の個人が就くのではなく、ビジネス界自身が適切な人材を推挙する自己選択プロセスが重要との見解で一致した。
 最後にBizMEFを代表してBrian Flennery BizMEF Business Engamenent TF委員長が、こうした官民対話の重要性につき再確認し、2015年に向けてこうした官民対話ラウンドテーブルを毎年開催していくことの重要性に言及、特に来年のポーランドで引き続き対話を続けることを確認して閉会した。
 COPのイベントの多くが、招聘大物スピーカーが言いたいことだけ言って帰る形の一方通行の講演会形式になりがちなのに対し、今回のダイアローグでは、それぞれパネリストになりうる官民の代表がラウンドテーブルに座り、ほとんど3時間半にわたって席を立つことなく議論に参加することで、「知見や意見の交換」を行うことができたという意味で、意義のある会合だった。終了後、参加した日、米政府関係者、メキシコ、ニュージーランドの政府代表から、主催者に「大変有意義だった」との声が寄せられ、また閉会後も多くの参加者が引き続きネットワーキングや対話を続けて、なかなか帰ろうとしなかったことから、新しい試みとしては一定の成功を納めたと評価してよいだろう。後日もたれたBizMEFの反省会では、今後ワルシャワでのCOP19でも引き続き同様のイベントを開催するということで、BizMEF参画団体の間で合意がなされた。

(イ)経団連NEDO共催サイドイベント(12月5日 20:15~21:45)

 例年経団連が単独で修正してきた公式サイドイベントが、今年は会場の制約でNEDOとの共催の形で12月5日夜に行われた。
 全体の司会進行を経団連の立場で筆者が務めた。先ず開会挨拶をNEDOの古川理事長が行い、引き続いて長浜環境大臣が、わが国の地球温暖化対策への貢献につき、産業界の自主行動計画の実績や、二国間オフセット取り組みなどを引用しながら紹介した。引き続きキーノートスピーチとしてUNEPのSteiner事務総長が、温暖化問題、環境問題に対する日本の技術貢献への期待について基調講演した。
 パネルディスカッションのセッションでは、新日鉄住金の岡崎環境部上席主幹が自主行動計画、セクター協力の実績、BOCMへの取り組みについて紹介、ベトナム資源環境省のタン国際協力局次長が日本の技術支援とBOCMへの期待を表明。英Vivid EconomicsのエコノミストWard DirectorがCDMの限界と特に大型インフラ投資にはCDMは本質的に不向きであり、それを補完するBOCMのような制度が望まれることを指摘。最後にNEDOの上田理事から、NEDOの環境・エネルギー技術の開発支援の歴史、海外普及支援活動とBOCMのFS事業が紹介された。全体を通してSteiner事務総長から、温暖化対策で技術の重要性と具体的な成果を出すことの重要性が指摘され、日本への期待と共にパネルが締めくくられた。
 終わりに経団連を代表して進藤地球環境部会長(新日鉄住金副社長)が閉会の挨拶を行った。開催時間が夜の9時過ぎという遅い時間にもかかわらず、会場には約百名を越える聴衆が最後まで残り(同会場の直前のイベントが韓国産業界主催だったため、韓国人、中国人など東洋系の参加者が多かったが)、なかなか盛況だった。
 今COPでUNFCCCの技術メカニズムの中心組織である気候技術センター(CTC)のホストを務めることが決まったUNEPのシュタイナー事務局長に、パネリストとして最後まで登壇いただいて、日本の技術アプローチの実態や途上国からの期待などについて直接接していただいたことの意義は大きかった。

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