最終話(3の3)「ポスト『リオ・京都体制』を目指して(その3)」


在ウィーン国際機関日本政府代表部 公使

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(2)途上国支援
 途上国支援は、日本が長年リーダーシップを発揮してきた分野である。環境と開発の両立という課題に直面する途上国を様々な形で支援することは、途上国を取り込みながら気候変動交渉を前進させる上で極めて重要である。
 1997年の「京都イニシアティブ」や、2008年の「クールアース・パートナーシップ」、政権交代後の2009年にそれを再編、上乗せした「鳩山イニシアティブ」は、いずれも京都議定書の採択や2013年以降の将来枠組構築といった気候変動交渉の節目のタイミングにおいて、交渉を前進させるために戦略的に打ち出してきたものである。こうしたイニシアティブは、日本の優れた環境技術にとってもビジネスチャンスにもなり得、日本経済にとってもプラスになるとの狙いもあった。
 現在のコミットメントは、官民の資金を活用し、2010年から2012年までの3年間で総額150億ドルにのぼる支援を実施するというものである。これまでアジアの新興途上国からアフリカや南太平洋の小島嶼国まで、様々なタイプの途上国に対し、再生可能エネルギーや省エネ、防災、水、森林対策、キャパシティビルディングなど、様々な分野できめの細かい支援を行ってきた(図表8-13参照)。その実績は2012年10月末時点で約174億ドルに上り、150億ドルの支援コミットメントを上回る実施を達成した。
 このような積み重ねは、交渉の場での口先だけのレトリックの応酬では揺らぐことのない、日本の国際的影響力を下支えしている。第2章で紹介した、COP16での京都議定書「延長」問題を巡る日本にとって厳しい交渉でも、欧州系メディア・NGOのロジックに引きずられた「日本孤立」論にもかかわらず、大多数の途上国との関係では筆者は何ら心配していなかった。こうした日本の地道だが着実な支援実績がベースにあったが故である。


図表8-13 出典:外務省資料

 COP18の結果を受け、将来枠組の構築に向けた国連交渉は今後も続く。東アジア低炭素成長パートナーシップや二国間オフセット・クレジット制度の推進、TICADの下でのアフリカの低炭素成長・気候変動に強靱な開発戦略の策定・実施など、日本が提唱する「世界低炭素成長ビジョン」の具体化も進めなくてはならない。こうした取り組みは、世界全体の温暖化対策に貢献するとともに、優れた環境技術・ノウハウを有する日本企業や地方自治体にとって大きなチャンスを提供するものでもある。
 本年6月にリオ・デジャネイロで開催された「リオ+20」では、日本政府代表として出席した玄葉外務大臣より、新たな途上国支援策として「緑の未来」イニシアティブを表明した。この支援策は、1)地球に優しく、災害に強く、人に優しい「環境未来都市」の構築を世界各地で進めること、2)グリーン経済への移行を支援するため、再生可能エネルギー分野を中心とした3年間で30億ドルの資金協力、3)強靱な社会構築のために、防災分野における3年間で30億ドルの資金協力、を柱としている(図表8-14)。東日本大震災後のピンチをチャンスに変え、日本の経験、技術を世界で生かしていくための重要な第1歩である。これらに加えて、今後、省エネなどより幅広い分野や、ODA以外の様々な公的資金の活用による2013年以降の途上国支援の全体像を提示していくことが重要である。
 来年以降も切れ目無く途上国支援を継続し、これを戦略的・機動的に活用していくことは、環境外交で日本が引き続きリーダーシップを発揮していく上で不可欠といえる。

図表8-14 出典:日本政府資料