最終話(3の3)「ポスト『リオ・京都体制』を目指して(その3)」
加納 雄大
在ウィーン国際機関日本政府代表部 公使
5.日本の取り組み(4):切れ目ない排出削減と途上国支援
前述の世界低炭素成長ビジョンの下での様々な取り組みを具体化する上で、日本自身の取り組みが重要なのは言うまでもない。特に、2013年以降も切れ目無く、日本が排出削減努力と途上国支援を行っていくことは、新たな枠組みについての日本の考えを説得力をもって国際社会に浸透させていく上で極めて重要である。
(1)排出削減目標
排出削減については、まず、本年末までの京都議定書第一約束期間における「マイナス6%」の目標達成に向けて様々な努力を継続することが重要である。現在のところ、2008年から2011年までの4年間の実績は、国内排出削減、森林吸収源、海外クレジット取得をあわせ、年平均でマイナス約9.2%であり、まだ「貯金」がある状況である(図表8-11参照)。もっとも、これは2008年のリーマン・ショック後の景気後退によりエネルギー需要、CO2排出が下がっている要因も大きい。また東日本大震災後の原発停止により、電力供給を火力発電で代替したため、2011年のCO2排出は1990年比3.6%増に上昇した。
「マイナス6%」目標が達成できるか否かは、今後の経済状況とエネルギー需要、原発の火力代替、省エネ、再生可能エネルギーの伸びなど、様々な要因に左右されるため、予断を許さない。しかし、日本として最大限の排出削減努力を行うことは、3/11後も気候変動対策に取り組む姿勢に変わりはないとの日本の主張が説得力を持つ上で極めて重要であろう。
2013年以降の排出削減目標の設定も重要な課題である。2009年にCOP15に向けて日本が表明した「前提条件付マイナス25%目標」については、国際交渉の進捗からすれば、その前提条件である「全ての主要国が参加する公平かつ実効的な国際枠組の構築と意欲的な目標の合意」が本年末までに満たされる見込みは殆どない。切れ目ない排出削減努力のため、2013年以降、前提条件がなくても、日本が如何なる目標を掲げるかを早急に固めなくてはならない。
国内では、昨年の3/11を受けて、原発の大幅増の想定に立ったエネルギー基本計画は白紙からの見直しを余儀なくされた。新たなエネルギーミックスと排出削減目標を表裏一体で検討するために設置されたエネルギー・環境会議は、一年あまりにわたる検討と国民的議論を経て、本年9月に革新的エネルギー環境戦略をとりまとめた(図表8-12参照)。同戦略が、総選挙、政権交代を受けて、今後どのように扱われるかは未だ分からない。いずれにせよ、エネルギーミックスも排出削減も日本のみならず世界全体にとっての共通課題であり、省エネ大国である日本が世界に対しモデルを提示していくことの重要性については変わらないだろう。
国内の実施体制の整備も重要である。2010年に提出された「地球温暖化対策基本法案」は、諸般の事情により、本年秋の臨時国会で結局廃案となった。同法案に明記されていた再生可能エネルギー全量固定価格買取制度は本年7月に、地球温暖化対策税は本年10月にそれぞれ個別に導入されたが、様々な地球温暖化対策を総動員していくための体制構築が必要である。なお、基本法案に盛り込まれていた国内排出量取引制度については、東京都など一部自治体レベルでは導入されているが、様々な事情により国レベルでは検討が進んでいない。しかし、域内排出量取引制度を運用しているEUのみならず、中国、韓国でも国内排出量取引制度導入の動きがある。海外の動向に目を配りつつ、研究は続けておく必要があると思われる。
なお、言うまでもないが、こうした排出削減努力においては、長期にわたる日本の経済ビジネスモデル、ライフスタイルの転換が求められる。これは何も電力、鉄鋼といった重厚長大産業だけではない。例えば、代表的サービス産業であるマスメディアについても例外ではないであろう。日本は全国で毎日約5000万部以上の新聞が発行される世界有数の新聞大国だが、これに使われる森林資源は年間約2000万本分に上ると言われる。原材料の輸入から製紙、印刷、配達に至る一連のプロセスでも相当のCO2排出を伴う。日本が低炭素社会に移行していく中、この伝統的ビジネスモデルを如何に変えていく必要があるのか、日本の環境ジャーナリズムにも自らの将来像についてのビジョンの提示が求められよう。