第5回(前編)日本製紙連合会 技術環境部 専任調査役 池田直樹氏/株式会社日本製紙グループ本社 技術研究開発本部 エネルギー事業部長 野村治陽氏

製紙業界の循環型社会と創エネへの貢献。電力自由化に向けた動きも加速


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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RPS制度への対応は各社でさまざま

――2003年に施行されたRPS制度(電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法)を利用した売電はどのような状況ですか?

池田:業界全体として動いていたかというと、そういう意識はなく、意思統一はしていませんが、結果として同じようなことをしていました。大口の自由化の話が出る以前から、各工場は大口のユーザーでもあり、自家発の所有者でもありますから、各電力会社と個別に余剰の契約を結ぶことが多かった。

 意識を始めたのは、大口の自由化が始まってからです。RPS法の前に、「自己託送」という、要はある工場で電気が余ったら、同じ会社の工場で同じ電力会社管内であれば送れる制度ができました。バイオマスなどの再生可能エネルギー電力を買ってもらえるわけですから、自家発で余剰が出る会社は「売ろう」ということで、各社がそうした動きを始めました。

 しかし、余剰電力がないと売れませんので、会社によって対応は違います。王子製紙はRPS法の制度を利用している工場がけっこうありますが、日本製紙はそれに比べると少ない。逆に言うと、工場での生産能力の方が少ないと、自家発の方が勝って外に出せるわけです。余剰電力を売るか売らないかは、どちらが良いということではありません。

――日本製紙のRPS法への対応はいかがでしたか?

野村:勿来工場が一番早かったです。富士工場は今年の初めから始めましたが、十数工場ある中でこの2工場だけです。基本的には受電をして、つまり発電コストに比べて受電コストが安いときには電気を買って、高いときには受電を減らす、あるいはゼロにする運用となっています。

 また、RPSで認定してもらうためには、RPSとは関係ない発電設備の電力量計なども検定付のものを付けないと認めてもらえません。その設備費がけっこうな金額になります。3.11以前は、比較的電気の買取価格も安かったので、そこまでして送り出してもあまりメリットがありませんでした。バイオマスボイラーや新エネボイラーはもっと増やしたいのですが、なかなか増やせない状況もあります。

――それはどういう意味ですか?

野村:燃料となる原料が集まらないのです。例えば、タイヤ、RPF、バイオマスにしろ、余っている燃料は基本的にありませんから。

――廃棄物を確保するのは難しいのですね。

池田:大変です。全国にある60基近くの新エネボイラーにはさまざまな燃料を使っていますが、要するに集荷ができず、計画どおりの運用が厳しい状況です。確かに余っている廃棄物もあるのですが、それは例えば塩素が非常に多いもので、燃やすとボイラーが傷むというような制約があります。

野村:新エネボイラーは、内部で高温の砂と一緒に燃料が攪拌されている状態です。不安定な水分を含んでいるため、砂と一緒に高温で燃やします。ボイラーそのものは伝熱管というボイラー鋼管が炉の格好に形成されていますが、そこに砂や燃料が渦巻いていますので、内側が砂で削られてしまい、噴破してしまうリスクがあります。

 穴が開いてしまったら、ボイラーを止めて修理しなければなりません。そうならないように耐火材などで保護してありますが、集中的に内側がえぐられると、保護材が削れてしまい、ボイラーが噴破してしまうような事象も過去に起きました。現在はその対策のノウハウは蓄積していますが、いったんボイラーが噴破して止まると、古い重油ボイラーを立ち上げてコスト掛けて、その間に修理する必要が出てしまいます。

――3.11以降の製紙産業の自家発電はどれくらいですか?また発電に余力があれば、売電していますか?

池田:今、自家発の日本の製紙会社の総発電電力は約550万kW程度です。550万kWというと四国電力もしくは北海道電力の総使用量とほぼ同じくらいで、年間でいうと全国の使用電力量で0.7%程度になります。

 震災後の東京電力と東北電力の域内で需給が厳しかったときには、同電力管内の製紙工場では約36.6万kWの電気を使っていますが、供給した余剰電力は約15.8万kWでした。自分たちが使う量の1/3程度は出す、という姿勢です。緊急で出せる電力はこの程度でしたが、その気になれば焚き増しして、出す能力は持っていると思います。電力会社の需給が落ちつくまでのレベルまで、2011年夏前からその年いっぱい余剰電力を提供しました。