第7話(2の1)「ポスト『リオ・京都体制』を目指して(その2)」
加納 雄大
在ウィーン国際機関日本政府代表部 公使
本年の気候変動交渉もいよいよ佳境を迎え、今月26日からカタールのドーハでCOP18が開催される。
第7話では、今後の国際交渉において日本が目指すべき新たな国際枠組み像について若干の検討を試みることとしたい。
ここでは、COP17でのダーバン合意を受けて現在行われている、将来枠組みを巡る議論とも大いに関連する論点が含まれている。そして、その多くは現行の「リオ・京都体制」の抱える問題点からの教訓に基づく。
なかでも最大の論点は、新たな国際枠組みが「全ての締約国に適用される(applicable to all Parties)」ものであるべきという点である。90年代初頭の国際社会をベースに先進国と途上国に厳格に分ける二分論(dichotomy)が、「リオ・京都体制」の最大の問題点であり、これを如何に克服するかが、コペンハーゲンからカンクン、ダーバンに至る気候変動交渉における最大の課題であったと言える。その論争は今も続いている。
もう一つの重要論点は、国際枠組みが持つべき「法的拘束力」の問題である。COP16、COP17でそれぞれ焦点になった、京都議定書「延長」問題、将来枠組みの法的性格を巡る問題がこれにあたる。現行「リオ・京都体制」における、先進国のみに数値目標による排出削減を義務づけた京都議定書の根幹が、一つの理念型とされてきたが、実効性確保の観点から、改めて再検討すべきではないか。
第6話で述べた、3つの視点(long term, global, pragmatic)を如何に将来の国際枠組みに織り込んでいくか。この課題に対して日本が提示したのが、「世界低炭素成長ビジョン(Japan’s Vision and Actions toward Low Carbon Growth and Climate Resilient World)」である。政策、技術、市場、資金を総動員し、先進国と途上国が連携しながら、世界規模で低炭素成長と強靭な社会の構築を実現していこうという提案である。これは左程目新しい提案ではない。国際社会の長年の課題である「環境と経済の両立/持続可能な発展」を改めて正面からとらえ直したものである。そして、それが非常に実現困難な課題であることこそが、環境外交を尖鋭化させる、「武器無き戦争」の根本原因(root cause)であることを踏まえての提案なのである。
将来枠組みを巡っては異なるアプローチ、「アメとムチ」のムチに傾斜したやり方もある。現在、国際紛争案件となりつつある、EUによるEU−ETSの国際航空への一方的適用がその一例である。好むと好まざるとにかかわらず、こうしたアプローチが今後更に出てくる可能性も排除されないであろう。
本稿が、COP18とそれ以降に今後本格化するであろう、将来枠組みを巡る国際交渉での議論を理解するに際しての一助となれば幸いである。
*本文中意見にかかる部分は執筆者の個人的見解である。
1.ポスト「リオ・京都体制」のイメージ
現時点で考え得る、ポスト「リオ・京都体制」のイメージを図示したのが図表7-1である。なお、現行の「リオ・京都体制」のイメージは図表7-2のとおりである。
このポスト「リオ・京都体制」を考えるにあたって、注意すべきいくつかのポイントは以下のとおりである。