第6話(3の2)「ポスト『リオ・京都体制』を目指して(1)」


在ウィーン国際機関日本政府代表部 公使

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(2)「中印問題」~欧米主導の既存の国際枠組みに対する不信感~
 中国とインドは、現在それぞれ世界第1位、第3位のCO2排出国であり、この20年間で気候変動交渉における存在感を飛躍的に増大させてきた。もっともこれは、気候変動分野に限らず、WTO交渉やG20など国際貿易、マクロ経済分野でも同様である。
 ある意味これは自然なことでもある。人類の歴史の大部分において中国とインドは2大経済大国、人口大国であり続けた。欧米に凌駕されたのは産業革命以降の過去250年程度に過ぎない。グローバリゼーションの中で、技術の普及により一人あたり生産性の収斂が世界規模で進めば、2大人口大国の中国、インドのプレゼンスが再び増大するのは自然である。現在の状況は、産業革命前のトレンドに回帰する過程のようにも思える。
 中印両国とも自国の存在感の増大を自覚しつつも、気候変動交渉における自らの立ち位置を未だ明確に描き切れているとは言えない。両国は長らく、途上国世界のリーダーとして振る舞うのをよしとしてきた。「G77+中国」とは、途上国全体を包摂する交渉グループだが、途上国の海の中に自らを置きつつ先進国と対峙する形が、最も居心地の良い立ち位置であったであろう。しかし、中印とも他の途上国に身を隠すには存在感が大きすぎるようになった。コペンハーゲン合意の文言を巡って米国とやりあった中国がCOP15の主役であったとすれば、ダーバン合意の文言を巡ってEUとやりあったインドはCOP17の主役であった。いずれのCOPでも先進国のみならず、一部の他の途上国までが自分達を批判する側に回ったことは、中印両国にとって戸惑いであったであろう。

 また、存在感が増大しているとは言え、貧困削減やエネルギー問題など、中印が様々な国内課題を抱えているのも事実である。一人あたりCO2排出でいえば中国は、日欧の約6-7割、米国の約3割であり、インドに至っては、日欧の約8分の1、米国の約15分の1である。(図表6-1)経済成長の継続が至上命題の両国からすれば、国際交渉の現状は、自らの経済成長を制約する(と思われるような)国際枠組みを、先進国が押しつけようとしているととらえてもおかしくはない。
 今後、中印がそのプレゼンスを高めるにつれ、この「中印問題」の比重は高まる可能性が高い。中印の懸念、関心事項を取り込みつつ、実効的な国際枠組みを構築するかが課題となる。

図表6-1