第6話(3の3)「ポスト『リオ・京都体制』を目指して(1)」
加納 雄大
在ウィーン国際機関日本政府代表部 公使
(2)グローバルな(global)視点
第2に、グローバルな視点である。
「グローバルな課題はグローバルな対応が必要(global agenda need global actions)」とはよく言われる。しかし、これは口で言うほど簡単ではない。
世界全体の事情を見通し、世界中の様々な利害を吸い上げて最適な政策決定をする世界政府のシステムは存在しない。環境・気候変動分野に限らないが、各国政府とも自国の事情、自国の利害関係者の声を受けて政策決定をする。世界全体からみれば、その意思決定の構造はあくまで分権的なものであり、中央集権的ではない。そのような中では、国際交渉を通じて各国の政策決定プロセスにグローバルな視点を入れ、分権的な構造ながら、あたかも世界政府があるかのような調整された政策が各国政府により実施されることが本来は望ましい。しかしながら、実際は、国際交渉が各国の政策決定に影響を及ぼす以上に、各国の政策が国際交渉を振り回すことの方が多い。前述の「米国問題」、「中印問題」、「欧州問題」は、いずれも米国、中国、インド、欧州といった主要プレーヤーの国内事情に基づく政策が、グローバルな国際交渉プロセスとの間で軋轢を生じさせているといえる。また、日本についても、グローバルな視点を十分踏まえて、自国の政策決定を行えているとは言い切れないであろう。
それでは、グローバルな視点を踏まえた温暖化対策とはどのようなものになるのか。いわゆる「茅恒等式(Kaya Identity)」をベースに考えてみたい。
茅恒等式とは、茅陽一氏により示された、CO2排出と「人口」、「GDP」、「エネルギー利用」などの諸要因との間で成立する以下の関係を指す。
CO2 = 人口 ×GDP/人口 ×エネルギー/GDP ×CO2/エネルギー
(a) (b) (c) (d) (e)
(a)CO2総排出量
(b)人口
(c)一人あたりGDP
(d)GDP単位あたりエネルギー利用
(e)エネルギー単位あたりCO2排出
この関係は、一国の温暖化対策を議論する上でも、世界全体を議論する上でも当てはまるが、そのマグニチュードは大きく異なる。
現在、日本では、温暖化対策目標とエネルギー・ミックスが表裏一体で議論されている。そこでは、(b)人口は減少傾向、(c)一人あたりGDPは漸増が想定されており、その中で、(d)省エネ、(e)クリーンエネルギー(再生可能エネルギー普及のほか原子力も含まれ得る)をどこまで進められるかで、(a)CO2削減も左右されるという流れで議論がなされている。