第6話(3の3)「ポスト『リオ・京都体制』を目指して(1)」


在ウィーン国際機関日本政府代表部 公使

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3.気候変動問題対処のためのグローバル・ガバナンス:3つの視点
 
 それでは、「リオ・京都体制」の経験、教訓を踏まえながら、どのようなグローバル・ガバナンス、国際枠組みを構築していくべきか。
 まずは、環境・気候変動問題を規律する国際枠組みを考えるにあたり、必要と思われる3つの視点について触れることとする。

(1)長期的な(long term)視点
 第1に、長期的視点の重要性である。
 2012年は、リオ地球サミット、気候変動枠組条約が採択されて20年の節目の年であるが、地球環境問題を考える上で10年、20年というタイムスパンも決して長いとは言えない。これは、当然といえば当然である。2050年で世界全体のCO2排出を半減させるとか、2100年で濃度を安定化させるといったタイムスパンで考える以上、将来の国際枠組みをデザインする上で、未来の国際社会の姿に思いを巡らす長期的視点は欠かせない。

 しかし、これは簡単ではない。想像力をフルに働かせたとしても、国際社会の現実は、往々にして我々の想像を上回るスピードで変わっていくことが多いからである。
 たとえば、今から約40年後の2050年に世界がどのようになっているかを考えるとき、今から40年前の1972年の世界がどうであったか、今日の世界の姿を当時予想できていたかを考えてみると良い。1972年はローマ・クラブの「成長の限界」レポートが出された年であり、スウェーデンのストックホルムで国連人間環境会議が開催された年でもある。人口の幾何級数的増加、環境、エネルギー問題など、今日に通じる問題が指摘された節目の年であった。その頃の世界はどうであっただろうか。
 当時は冷戦の真っ最中であり、欧州は東西に分断されていた。現在のEU27カ国のうち半分は東欧の共産主義、南欧の軍事政権による非民主的体制であった。ロシアはプラハの春とアフガニスタン侵攻の狭間、強固な旧ソ連体制の下にあった。中国はニクソン訪中、日中国交正常化など対外政策の変化をみせつつも、国内的には文化大革命の最中にあり、改革開放路線はまだ数年先のことであった。中東では、第4次中東戦争の前年でありエジプト、リビア、シリア3カ国はアラブ連合を形成していた(奇しくも2011年の「アラブの春」に翻弄された国々である)。イランは革命前の親米王制の時代である。米国はニクソン政権、日本は田中内閣、英国は保守党ヒース内閣、フランスはポンピドゥー政権、西ドイツはブラント政権である。国際社会が今日のような姿になると、当時誰が想像できたであろうか。

 こう見てみると、日本、米国、西欧など一部の民主主義国を除き、国際社会の多くの国々がこの40年間で政治、経済、社会の面で激変とも言える変化を経験してきたことが分かる。
 その一方で、当時から予想され、実際その通りに推移した現象もある。人口動態がそうであり、40年前の世界人口は約40億人であったが、当時からの予測にほぼ合致する形で、現在の世界人口は約70億人に増加した。40年後の2050年にはそれが約90億人になると見込まれている。
 人口70億人が90億人時代になるとき、世界はどのような姿になるのだろうか。各国の政治・経済・社会にどのような変化をもたらすのか。今後40年間の変化は、過去40年間の変化に匹敵するマグニチュードになるのか。それはまだ分からない。過去の経験に照らせば、相当の変化があり得ることを念頭におきながら、環境・気候変動問題においても、将来の世界の有り様に相応しい国際枠組みを考えるべきであろう。日米欧3極が中心だった20世紀型の国際社会の残像を引きずったbackward lookingな発想ではなく、将来の国際社会の形に思いを巡らすforward lookingな発想が必要である。