公取委の発電と小売の分離に関する提言を考える


Policy study group for electric power industry reform

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そして、「東日本卸電力構想」という発想の転換

 国際環境経済研究所の澤所長が提唱している「東日本卸電力構想」は、まさにこの考え方に立っている。かつて地域独占が主流であった電気事業において、発送電分離による自由化が行われるようになったのは、発電分野において規模の経済性が消失したからだと言われている。確かに、単独の発電設備の容量は大きくても100万kW強であり、日本全体の電力需要の規模(約2億kW)と比べれば十分に小さい。発電設備の建設だけを切り取れば、規模の経済性は消失しているといえるだろう。しかし、資源の乏しい我が国において発電事業を長期安定的に行うためは、燃料購買力を確保すること、リスク分散のため電源種を多様化することは必須である。こうした経営的要素を考慮すれば、発電所の発電規模だけで規模の経済性を語ることが正しいのかどうか。また、上流の国際エネルギー市場でピュアな市場原理が機能しているとは到底言えないのに、下流の発電事業だけを市場原理を突き詰めていくことが合理的な政策と言えるのかどうか。

 こうした問題意識を踏まえて、澤所長は、「発電から送電・配電に至るシステムと小売を分離し、前者をつまりは卸電力の分野を共通インフラと位置付け、そこから共通の条件で卸電力供給を受ける多数の小売事業者が、需要側のサービスの分野で工夫をこらして競争するモデル」として、東日本卸電力構想を提唱している。このモデルでは、発電から送電・配電に至るシステムは共通インフラになるので、発送電分離の必要はなく、全体が規制対象に戻ることになる。発電分野の競争は、新規電源建設の際にIPP入札を導入するくらいの限られたものになろう。それでも、公取委も認めるとおり、実態として発電分野への新規参入に多くを期待できないことを踏まえれば、卸電力システムを共通インフラとすることを通じて、安定供給やエネルギーセキュリティ確保に万全を期す体制を構築する方が、日本の国益に適うのではないだろうか。

(参考資料)
公取委提言「電力市場における競争のあり方について」
http://www.jftc.go.jp/pressrelease/12.september/12092101hontai.pdf

澤昭裕「精神論ぬきの電力入門」新潮新書

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