公取委の発電と小売の分離に関する提言を考える


Policy study group for electric power industry reform

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新電力が石炭火力を建設できない理由

 しかし、石炭火力については、新電力による建設計画が存在した。この計画が頓挫した理由は、環境省から厳しいCO2対策が求められたためである。新電力によるベース電源調達を可能にしたいのであれば、まずはCO2対策に偏った政策を是正して、新電力が石炭火力を建設し、価格競争力のある電気を自ら調達できる環境を整えるべきだろう。公取委が、競争政策の観点から、環境省に対しても意見を述べるべきなのだ。
 加えて、公取委は「電力会社の保有するベース電源は、地域独占体制下で建設・取得したものであるから、新電力にも分配するべき」との論に立っているが、地域独占は一方的な「権利」ではなく、供給「義務」とセットであったことを忘れている。つまり、供給義務を果たすために、高コストの設備であっても保有せざるをえない条件が課せられていた。それでもなお現在、新電力が欲しいと思うような競争力のある電源を電力会社が今持っているとすれば、むしろ、それは地域独占と供給義務という制度の中で、電力会社が適切な経営を行ってきたことを示しているのである。

原子力の開放には国の責任の明確化が不可欠

 国の原子力政策の方向性があまりに混沌としている現在、電力会社であっても新電力であっても、原子力の新増設は困難であろう。原子力の安価で安定的な電力が電力小売事業を行うために不可欠なものであるならば、新電力にも原子力の電気を卸せるような制度設計をすることは可能だろう。しかし、政府がそうしたことを検討しているのであれば、原子力ゼロは民意であると標榜している政府が「原子力は不可欠である」というのは自己矛盾であるから、まずは原子力ゼロ政策の撤回が必要だ。その上で、原子力に関する官民の役割分担について結論を出す必要がある。現状のまま、電力会社が「新電力にも自社グループと同様の条件で原子力を卸供給」するのであれば、新電力も原子力に係るリスクも負う必要がある。つまり新電力は;

政治的理由等で停止した場合でも減価償却費等の固定費を分担し
万一、仕入れ先の原子力発電所が事故を起こした場合は、損害賠償等を分担し
廃炉、使用済燃料の処理等のバックエンドで追加コストが生じた場合は、(受電後数十年後であっても)これを分担することが必要である。

 このリスク負担を新電力が受容するとはとても思えない。かといって、電力会社だけにこれらのリスクを残すのは不公平であるので、これらのリスクは国がとるしかない。つまり、原子力に関する国の責任を明確にすることなしに、公取委の提言は実現しないのだ。