公取委の発電と小売の分離に関する提言を考える


Policy study group for electric power industry reform

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発電・小売の分離は何をもたらすか

 新電力のベース電源調達の問題は、電力システム改革専門委員会でも議論されている。本特集でも「新電力にベース電源を分配する前になすべきこと」と題して取り上げた。公取委の提言は、電力システム改革専門委員会の議論より、更に踏み込んで、電力会社の発電と小売を別会社化した上で、発電会社は新電力にも自社グループと同様の条件で卸供給を行うべきとし、そうしなければ独禁法違反の可能性があるとまで言っている。

 電力会社の発電設備は、いわゆる競争政策上の「エッセンシャルファシリティ(不可欠施設)」なのだろうか。発電設備は誰でも作れるから自由化を進めているはずであるのに、ここに矛盾はないのだろうか。
 この見解が正しいかどうかは置くとしても、実際に、新電力に対する非差別的な卸供給を電力会社に義務づけるならば、懸念されることが二つある。

 一点目は、弱者への影響である。公取委は、電力会社には非差別的な卸供給を義務付ける一方、新電力にはこの義務を課す必要はないとしている。だとすれば、新電力は電源の調達環境において、電力会社よりも有利になりこそすれ、絶対に不利にはならない。加えて、新電力は供給する需要先を好きなように選ぶこと、つまりクリームスキミングが可能である。
 クリームスキミングが可能なのは、新規参入者である新電力には大きなアドバンテージである。競争力のある電源を建設することは困難と公取委も認めている新電力が、自由化範囲の4%程度とはいえ、需要が獲得できているのは、クリームスキミングができるからだ。電力会社の電源は、固定費が大きいが可変費が小さい原子力や石炭火力の比率が大きく、新電力の電源は、可変費は大きいものの固定費は小さいガス火力、石油火力が主体である。前述の「競争力のある電源」は固定費が大きいが可変費が小さい電源を指しているが、このような電源が常に競争力があるわけではない。固定費が大きい電力会社の電源は、24時間稼動の工場等、年間を通してフラットな需要に供給するときに強みを発揮する。他方、固定費の小さい新電力の電源は、電気を使う時間が限られる需要への供給に強みがある。以前、「立川市の競馬場が新電力に切り替えて電気料金が30%安くなった」といった報道が繰り返しなされた。レースがあるときにしか電力需要がない競馬場は、典型的な新電力向けの需要であり、新電力は、このように自分にとって有利な需要に営業の対象を絞り込むことによって、利益を上げることが可能なのだ。

 公取委の提言は、クリームスキミングが可能な新電力に対して、電源調達面でも電力会社以上の有利な条件を確保しようとするものだ。その結果、上記のようなクリームスキミングは更に加速する一方、「クリーム」でない需要家、具体的には、所得も比較的低く、電力消費量も少ない家庭用需要家などは、新電力の営業からは取り残されてしまうだろう。もともと、電力小売を自由化すれば、交渉力のある大口需要家には恩恵がある一方で、競争弱者である小口の需要家には恩恵が及びにくいと言われる。極端な場合は、恩恵が及ばないだけでなく、大口の競争激化のしわ寄せで却って電気料金は上昇しかねない。それがまさに具現化するだろう。現在、日本の家庭用の電気料金は、三段階料金制度によって、消費電力量の小さい家庭の料金は政策的にむしろ低く設定されている。税金で補填するなどの対策を考えなければ、今の電気料金の水準は維持できないだろう。

発電分野は規制に逆戻り?

 二点目は、必要な設備投資が進まず、安定供給に支障を来す恐れが生じる懸念だ。電力会社から見れば、高効率な発電所を建設しても、新電力に同条件で卸すことを義務付けられるのであれば、発電所の建設インセンティブは大きく削がれる。新電力も、電源調達で電力会社と対等以上の条件が制度上確保されているのだから、自ら苦労して電源を建設するインセンティブはない。つまり、この制度の下では、誰も発電所を建設しようとは思わなくなり、いずれは電力の安定供給に悪影響が及ぶことが懸念される。

 小売事業者に自らの需要に見合った供給力を確保する義務を課せばよい、という向きがあるだろう。しかし、そうしたところで、小売事業者は自分が確保できる供給力の範囲で需要家を獲得しようとするだけである。自由化した以上、市場全体で電源が不足していても、電源を建設する義務は誰も負わない。それでは困る、と言うことであれば、政府が誰かに対して、電源を建設する義務を負わせるしかない。その「誰か」に電源を建設させるには、政府は、何らかの制度か補助金を通じて投資の回収を保証する必要がある。ここまで来ると、競争とはかなり遠い世界である。

 このように考えていくと、公取委の提言は最終的には、発送電を分離し、発電分野に新規参入者が自由に参入して競争する、という、当初考えられていた自由化の世界とはほど遠い帰結となってしまうのではないか。公取委は、新電力に競争力のある電源を建設することは困難という実態を踏まえて、この提言を行っているわけであるが、その帰結として、発電分野が競争とかけ離れたものになってしまうのであれば、発電分野の競争導入自体を白紙から考え直してはどうか。