小口小売(家庭部門)自由化に伴う副作用

―その対策はあるのか?


Policy study group for electric power industry reform

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 また、電気は、瞬時・瞬時の需要と供給量を一致させる必要があるが、そのためには、設備の故障や猛暑などによる需要の急増に備えた供給力(予備力)を常に確保しておく必要がある。こうした設備は、普段は収入を生まないため、自由競争下ではどの事業者も持ちたくない「重荷」である。現行制度上は、既存の電力会社が法律上の供給義務を果たすために確保しており、自由化部門への新規参入が3%程度であるから、よしんば新規参入事業者が予定の供給量を満たせなくともカバーできている面もある。競争活性化を指向するなら、こうした安定供給に必須なサービス(専門用語であるが「アンシラリーサービス」と呼ばれている)をいかに確保し、そのサービス維持に必要なコストが確実に回収できる仕組みが必要になる。

 この点は、欧米でも試行錯誤が続いている。初期にはアンシラリーサービス市場を形成すればよいというナイーブな議論もあった。しかし、アンシラリーサービス市場を世界に先駆けて構築したカリフォルニアの市場は供給力不足で失敗。かわって米国PJM(ペンシルバニア州など13州にまたがる北米最大の電力市場)が成功例として、論者の耳目を集めた。ところが、PJMでは、市場参加者に「予備力確保義務」を課して、アンシラリーサービスを実現しているのであり、決して市場メカニズムによる需給調整にだけ頼っているわけではないのだ。

 自由化当初は発電設備に余力があった欧州でも、市場メカニズムだけでは必要な電源投資の確保は難しいとの認識が広がっている。例えば、英国では、2011年7月、エネルギー・気候変動省(DECC)が公開した白書で、電気事業制度の抱える課題として次の諸点が指摘されている。
(1)向こう10年の間に、英国全体の電源の4分の1が廃止になる見通しである。供給予備率は、2010年代後半には10%を切り、2020年代初頭には3%を切る見通し
(2)風力発電などの増加に伴い、従来型の火力電源は、これらの変動電源のバックアップの役回りが多くなり、投資をしても収入が見通しにくくなっている
(3)こうした状況にもかかわらず、現在の市場制度は新たな電源投資への十分なインセンティブを提供できていない

このため、英国政府は、PJMと同様の仕組みを含めて、電源投資確保のための政策オプションを検討している。当分の間、需給逼迫が持続する日本では、予備力をどう確保するかの判断無く全面自由化をすることは、われわれの日常生活・経済活動を相当の危険にさらすことになる。諸外国での反省を踏まえた、慎重な議論が必要だ。

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