塩崎保美・日本化学工業協会技術委員会委員長に聞く[後編]
社会のサステナビリティを支える化学産業
松本 真由美
国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授
IEAと共同でクリーン・エネルギーのロードマップづくり
――化学業界はグローバルな温暖化対策としてどのような取り組みをしていますか。
塩崎:世界の化学会社の集まりである国際化学工業協会協議会には、気候変動や化学品の安全などの大きな課題を議論する3つのリーダーシップ・グループ(LG)があります。私たちは気候変動を議論するLGの中心メンバーとして、化学製品はライフサイクルを通してみると温室効果ガス(GHG)を大きく削減していることを示しました。さらに、将来に向けて解決すべき課題とその対策は何かということを議論して、現在、次の3つのテーマについて取り組んでおり、南アフリカのダーバンで開かれた第17回気候変動枠組条約締約国会議(COP17)でも情報発信しました。
一つはバイオ燃料、もう一つはGHGゼロエミッション住宅、そして3つ目が小さなエネルギーで化学反応を起こさせるための触媒技術です。化学反応には、いろいろなところで触媒が使われていて、より効率的に化学反応を進めるために非常に重要な役割を果たしています。これら3つのテーマに関して、日米欧の三極それぞれがリーダーを決めてGHG削減に取り組んでいます。ちなみにバイオ燃料は日本、触媒技術は欧州、ゼロエミッション住宅はアメリカがそれぞれリーダーです。
例えば、バイオ燃料導入にあたっての障壁、課題を整理し、どの時点でどんな技術を開発し、どの時点でどのような政策が必要かなど、現在、IEA(国際エネルギー機関)と共同でロードマップを作っています。
また、日本の化学プラントの省エネ技術は世界最高水準を誇っており、日本の化学会社が海外でプラントを立ち上げたり、海外に技術供与したりする場合は、この最高水準の省エネ技術を用いて、GHG排出を極力削減することに努めています。
――化学製品がクリーン・エネルギーや省エネ技術のカギになるということですね。
塩崎:そうですね。ソリューション・プロバイダーとして、当社を含めた化学産業が、今後大きな役割を果たすと思います。テーマはいくつもあります。太陽光発電におけるエネルギー変換効率一つとっても、もっと上げなくてはいけません。さらにコストを下げることも必要です。
また、技術開発にあたっては先に申し上げたライフサイクル全体で考えるということが重要です。たとえば、電気自動車といっても電気を作るためにどのくらいエネルギーを使っているのかが問題です。走る時はCO2を出しませんが、充電する時には発電所の電気を給電するわけで、全体としてどのくらいCO2が出ているのかという評価が必要です。そして、この評価を公表すべきです。
太陽光発電も同様で、どのくらいの効果があるのかをライフサイクルのなかで押さえることが重要です。そのうえで、何がネックになっているのかを抽出して、その課題の解決をめざすことが大事です。