塩崎保美・日本化学工業協会技術委員会委員長に聞く[前編]

温暖化問題とエネルギー問題は表裏一体。政府には現実的な解を求めたい


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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ハードだけでは限界。これからのリスク対応にはクライシス・マネジメントが必要に

――東日本大震災に伴い、原発事故が起きたことをどう思われますか。

塩崎:難しいですね。難しいというのは、原子力発電所自身は建設時点における国の基準を満たして造られていて、想定される災害への対策も講じていたわけです。しかし、それを超える災害が襲い、非常に困難な状況に陥ったのだと思います。原子炉については専門家ではありませんので詳細に語ることはできません。我々製造メーカーは、軽々しく「想定外」とは言ってはならないと思っていますが、今回の場合は、想定をしていた事象を超えるような事態が発生してしまったということでしょう。

――震災や原発事故に関する国の情報発信については、どのような印象を持たれましたか。

塩崎:今回のことは前代未聞で、これまで経験がないことでした。しかも、被害があまりにも大きかったため、情報収集体制が混乱を極めたのではないかと思います。当事者の東京電力にしても、当然、情報発信も必要ですが、現場をどう収拾するかが非常に急を要することでした。それを同時にやっていかなくてはならなかったわけですから、大変だったと思います。

――リスク管理はとても難しいことだと思います。今回の震災を契機に、業界として、もしくは御社として見直されたことはありますか。

塩崎: 当社はリスク対策の重要項目として、地震対策と津波対策について、長期的な取り組みを実施しています。従来、私どもは法律などで定められた対策はもちろん、自主的な地震対策としてかなり長期間にわたってリスク評価を実施し、その結果を踏まえて優先順位を決めて、順番に対策を講じてきました。津波については、従来の想定に対して設備が浸水することによるトラブルがないか確認を進めています。こうした見直しは一部完了しましたが、今も継続しています。

――企業にとって、新たな対策にはコストがかかりますが、避けては通れませんね。

塩崎:リスクに対して何もかもハードで対応しようとすると、莫大な資金がかかります。ある程度のところまではハードで、それ以上のことが起こった時にはクライシス・マネジメントで対応するという方針が正しいと思います。

 たとえば、工場の地震対策はハードの問題としてきちんと実施します。また、津波などによる水害に対しても、やらなくてはいけない対応が何かをもう一度検討し直し、水に濡れないようにする対策が必要だと考えています。たとえば、地面近くにある発電機やモーターなどの回転機器は水に濡れないように高い位置に設置しないといけません。人命第一を前提に、具体的な水リスクへの対応を現在検討しているところです。