日本経済が再び世界をリードするために[後編]

電力の安定供給確保が日本経済の浮沈を決めることになる


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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電力の明日が分からなければ企業は投資できない

――電力供給体制がどうなるかわからないと、企業は安心して工場を動かすことができず、投資計画も立てられないということですね。

井手:企業の国内投資計画は、もともと、非常に少なくなっていました。その傾向が加速しているのではないかと思います。当社の場合でも、最近上がってくる案件をみると、国内の投資案件が非常に少なくなっていて、中国や東南アジア、インドネシア、タイを中心とした投資が非常に増えています。
 こうしたなかで、電力不足に陥る懸念があれば、余計に国内への投資を躊躇せざるを得ません。現実に、今年の夏は東日本の生産をやめざるを得なくなり、西日本に生産をシフトしたケースが多かった。ところが、来年からは西日本での生産も厳しくなる。西日本のほうが不足率はむしろ高いのです。
 産業界にとって電力問題は死活問題です。そういう意味では、もちろん、安全を確保したうえでのことですが原子力発電所の再稼働が急がれます。この夏を乗り切ればということで、産業界は無理して何とかやりとげましたが、これを何年も続けるわけにはいきません。自家発電も相当活用していますが、コストを考えると高くつきます。

――需給面だけを考えると、火力発電で代替できるのではないかという意見もありますが。

井手:そこで問題になるのは電力料金です。たとえば三菱マテリアルグループでは、電気代を年間で約200億円支払っています。火力代替で電力料金が2割上がると、コストが40億円増える。利益率がそれほど高くないなかで、費用がいきなり40億円も増えるということになれば、とても厳しいわけです。これは、各社とも同じだと思います。

――安価で安定的な電力を確保することが重要だということですね。

井手:非常に大きいです。製造業にとっては、きわめて大きい。我々よりも電力需要が大きい、たとえば鉄鋼業界などは、もっと大変でしょう。

松本真由美 国際環境経済研究所主席研究員