発送電分離問題の再考①
10年経過も効果が見えない米国ISO/RTO
飯沼 芳樹
海外電力調査会調査部長
運用経験なく大停電引き起こしたCAISO
7つのRTOは、いずれも1998年~2002年に運用を開始している。以後、新たなRTOは一つも設立されていない。この事実が、後述するRTOにまつわる問題を物語っている。RTOのなかで比較的早い時期に設立されたのが北東部のISONE、NYISOとPJMである。これらは、もともと電気事業者の協調組織であるパワープールを形成していた地域にできたRTOである。
パワープール制度は米国電気事業の特質であり、その後の電気事業再編の基盤を形成している。もっとも、パワープールごとの協調の程度はさまざまで、北東部のパワープールは参加者に対し広範な義務を課し、参加する電気事業者が単一系統のごとく計画、運用されていた。PJMなどは大恐慌よりも前、1927年にペンシルバニア州とニュージャージー州の電力会社3社によって設立された米国で最初の組織で、わが国の電気事業制度改革でも度々取り上げられている。PJMは全米で最も流動性のある卸電力市場と評価されており、また地点別限界価格(LMP)に基づいた送電線の混雑管理などで有名であるが、運営ノウハウはパワープール時代に培われたものであり、それを基盤にしてノーダル価格制など斬新なシステムを構築したものだ。これまで比較的成功裡に運営されてきた背景にはパワープール時代の経験がある。
加えて、米国では自由化以前から、卸取引が活発に行われていたのもわが国電気事業と異なる点であることを踏まえておく必要がある。投資家所有の民間電気事業者が米国でも主たるプレーヤーであるが、発電設備を持たない小規模な公営配電専業事業者なども多く、古くから卸電力市場が存在していたことが米国電気事業の特徴の一つである。
北東部のRTOに対し、カリフォルニア州のCAISOは同州の電力再編法により、まったく新たに誕生したものである。一夜にして設立し、運用開始したような組織であり、北東部のRTOのような広範な地域を対象にしたパワープール運用の基盤がなかったことも、同州で発生した電力危機の遠因であるといえる。また、現在のRTOは卸電力市場も兼ねているが、カリフォルニア州では電力取引市場(PX)とCAISOが別個の組織として設立されていた。発送電の一体的運用という大前提を無視した制度設計に欠陥があったといえる。現存するRTOは、同州のCAISOを含めすべて系統運用という技術的側面と、卸電力市場という市場運営の双方を兼ねた組織となっている。