発送電分離問題の再考①

10年経過も効果が見えない米国ISO/RTO


海外電力調査会調査部長

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電力料金が高止まりしたRTO設立の北東部諸州

 卸電力コストに最も大きなインパクトを与えるのは燃料費である。PJMの例(2009年)では、発電費(設備費を除く)の変動の約70%は燃料費の変動によるものだった。同市場での卸電力価格は、限界プラントによって決められる。限界プラントは一般的にガス火力なので、結局、卸電力価格はガス価格によって決められることになる。したがって、ガス価格が高ければ限界価格も高くなり、石炭、原子力発電事業者は生産者余剰が得られる一方、ガス価格が安いとベースロード電源は固定費を回収できないことになる。

 こうした価格決定方法は、経済学的にいう配分効率(Allocative Efficiency)は得られるが、燃料費が高騰した場合には、原価規制による平均費用に基づく料金よりもかなり高いものとなる。この場合、厚生は最大化できても、便益が消費者ではなく発電事業者により多く配分されることになりかねない制度でもある。また、供給力の確保を価格シグナルだけに委ねると供給力不足になる恐れがある。伝統的な原価規制の下でも、いわゆる供給力の「Boom and Bust(過剰と不足)」のサイクルはあるが、市場に委ねると、この傾向はさらに強まる。自由化市場で、いかに十分な供給力を確保するかについては依然として大きな課題であり、北東部のRTOでは設備市場を開設して試行錯誤している。

 RTO地域の小売料金は以上のような卸電力コストがベースになる。図2は、各州の小売の平均販売単価であるが、北東部のRTO地域やカリフォルニア州の平均単価は、全米の平均以上となっている。現在、小売自由化を実施しているのは18州およびワシントンDCであるが、これらのなかで、北東部諸州は早くから自由化した州である。高コスト州であるがゆえに自由化したわけであるが、皮肉にも、北東部の料金レベルは依然として高い。こうした州ごとの料金格差のパターンは、自由化の動きが活発になる前の1990年代初頭と比較しても変化が見られない。

米国各州の平均小売り単価(2009年)。RTO設立による効果は、小売価格からは読み取れない
米国各州の平均小売り単価(2009年)。RTO設立による効果は、小売価格からは読み取れない

 これまで、RTOに関わる費用便益計算はほとんどなされていないため、純便益がどの程度のものか明らかではない。だが、競争促進の手段としての発送電分離を具現化するために設立されたRTO地域の料金が、設立されていない地域よりも高止まりしていたのでは、その設立意義を問われても仕方ない。市場メカニズムが働けば、電力価格が安いところから高いところに電力供給が流れ価格は平準化するはずであるが、実際には均衡点に向かって収斂するような動きは見られない。RTO設立によって地域ごとの電源の効率的運用が可能になり、その結果、料金の値下げにつながっているわけでもない。これまでのパーフォーマンスを見る限り、RTO設立による発送電分離によって、当初期待していたような確たる成果は見られないのである。

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