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欧州主要国、新型コロナ後はEVに力


国際環境経済研究所所長、常葉大学経営学部教授


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(「サンケイビジネスアイ」からの転載:2020年6月30日付)

経済回復策として支援強化

 世界中を席巻する新型コロナウイルスは、各国の電力需要の減少を通じて再生可能エネルギーに影響をもたらしている。

 3月23日に都市封鎖を開始した英国では、電力需要量が封鎖前との比較で4月中旬には20%以上落ち込んでしまった。全電力供給の10%を占める洋上風力を含め、英国の電力供給の約4分の1は風力発電と太陽光発電設備に依存しているが、風力、太陽光は電力需要が落ち込んでも発電量を調整できないので問題が発生する。

 2018年の北海道胆振東部地震により、電力供給量と電力需要量は常に一致していなければ停電になることが広く知られることになった。蓄えるコストが高いため、ためることが難しい電気では、常に需要量に合わせて発電量を調整しなければならない。発電量が需要量を下回れば停電が発生するが、発電量が多過ぎても停電になる。

 英国全土の送電網管理を行っているナショナル・グリッドが発電停止を指示できない中小の風力・太陽光設備が全国にあり、これらの設備からの調整できない供給量を含めると、低迷する需要量を供給量が上回る可能性が出てきた。

 結局、ナショナル・グリッドは再エネ事業者に補償を行い、前日に停止の指示を行える新制度を導入し停電を防ぐことになった。補償に加え、需要量の大幅落ち込みにより需給調整がより複雑になったこともあり、今年の需給調整費は昨年より5億ポンド(約675億円)増え、20億ポンドになると予想されている。

 この状況を受け、英国の大手発電事業者などが電力ガス市場規制庁に対し、電気自動車(EV)が仮に600万台あり送電網とつながる形で今回の需要下落時に活用可能であれば、1億3300万ポンドの需給調整費を節約することが可能だったとする書簡を提出した。

 今、英国にあるEVはプラグインハイブリッド車(PHEV)を含め約27万台なので、600万台には程遠いが、コロナ禍からの経済回復策として、欧州主要国政府はEV導入支援策を強化する構えだ。

相対的に減少幅小

 欧州自動車工業会によると、欧州の自動車産業は27カ国に309工場を持ち、年間1920万台の生産を行っている。製造現場での雇用は350万人、間接雇用を含めると1380万人、EUの全雇用の6.1%を占めている。経済面ではGDPの7%を占める欧州産業の屋台骨だが、コロナ禍で大きな影響を受けた。

 多くの国で都市封鎖が行われた今年4月、EU27カ国の乗用車販売台数は、27万682台、前年同期比76.3%減となった。イタリア97.6%減、フランス88.8%減、ドイツ61.1%減、スペイン96.5%減、EU外でも英国97.3%減と主要国での販売は壊滅状態になった。販売の落ち込みは当然、生産にも影響を与え、ドイツの自動車生産台数は前年比97%減と報じられた。

 乗用車販売が大きく減少する中で、減少幅が小さくシェアを上げているのが、PHEVを含むEVだ。世界のEV市場では購入に強力な支援策を導入した中国が大きく先行していたが、中国国内のEVメーカーがあまりに増えたため、中国政府は昨年6月に性能が低いEV購入への補助金を打ち切り、さらに補助金減額の制度変更を行った。

 その結果、中国EV市場は昨年後半から冷え込んでしまった。欧州ではノルウェー、オランダなどEVに対する支援策が充実している国で販売が増えていたが、昨年から英国、ドイツ、フランスなどの主要市場で手厚いEV購入支援策の導入が始まり、販売台数が落ち込む中国を尻目に欧州市場で販売台数が増え始めた。

 2019年、中国のPHEVを含むEV販売台数は106万台(前年比2%減)に対し、英国7.5万台(49%増)、ドイツ10.9万台(61%増)、フランス6.1万台(31%増)と販売が伸びた。今年になっても、欧州での第1四半期のEV販売台数は16.7万台、前年同期比100.7%増と好調だ。市場シェアは、前年同期の2.5%から大きく伸び6.7%に達した。コロナ禍により乗用車販売が落ち込む中でも、相対的に減少幅は小さくなっている。乗用車販売が壊滅的であった4月でも、EV販売台数は前年比16%減にとどまったと報じられている。

政府補助で流れ加速

 5月下旬、仏マクロン大統領は、大きく販売が落ち込み、40万人の雇用を抱える自動車業界に対する支援策を打ち出した。「5年以内に年間100万台のEVとPHEVの製造を行い、フランスを欧州一のクリーンな車の製造国にする」と大統領は語り、「80億ユーロ(約9700億円)以上の支援額についてルノー、プジョー・シトロエンと話をしているが、支援は無条件ではない。付加価値額の高いものを中心に生産を国内に戻すことが必要だ」と述べている。

 EV購入者に対する補助金も増額されることになった。4.5万ユーロ以下の価格のEVを購入する場合にはそれまでの補助金6000ユーロが7000ユーロに増額される。4.5万~6万ユーロのEVに対しても3000ユーロが補助されるが、6万ユーロ以上のEVについては補助金は与えられない。5万ユーロまでのPHEVへの補助金1000ユーロも2000ユーロに増額された。

 さらに、年収1.8万ユーロ以下の場合、古い内燃機関自動車を買い替えれば3000ユーロの買い替え補助金が出される。EVに買い替えた場合には5000ユーロに増額されるが、適用は今年12月末まで、かつ20万件の申請までとされている。EVの充電スポットを2021年末までに10万カ所設置することも目標として掲げた。

 英国では自動車産業での雇用喪失が懸念されている。6月に既に6000の職が失われたと報道された。昨年3月に導入されたEVに対する3000ポンド(約40万5000円)の購入補助金は維持されているが、自動車業界団体は、付加価値税の減税と燃費の悪い車に対する買い替え補助制度導入を働き掛けている。環境NGOからは内燃機関車への補助金への反対があり、政府に導入の動きはみられない。英政府はEVに関する研究開発支援に1200万ポンド投じることを発表した。1000万ポンドは充電技術開発支援、200万ポンドは中小企業のEV関連の研究開発支援に投じられる。

 ドイツの自動車業界は80万人の雇用を持ち、ドイツ経済を支えている。コロナ禍の影響が大きいことから、自動車業界はかつて1度導入されたことがある買い替え補助金制度の再導入を求めたが、独連邦政府が6月上旬に発表した1300億ユーロの景気刺激策には内燃機関自動車も対象とする買い替え補助制度は織り込まれず、昨年導入されたEV購入に対する補助金のうち政府負担額3000ユーロを6000ユーロに倍増することだけが織り込まれた。

 ただし、付加価値税額の3%と2%減税が今年7月1日から半年間行われることから、自動車販売にも効果が期待できる。また、政府は100万カ所の充電スポットを2030年までに導入する目標を立てているが、この支援に25億ユーロ、自動車産業の研究開発に20億ユーロの支援が織り込まれている。

 欧州では、内燃機関自動車からEVへの流れが加速しそうだが、ドイツ政府のEV導入目標は2020年100万台だった。多くの国で目標達成は遅れている。今度こそ、EVが欧州市場に広く浸透するのだろうか。



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