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日本エネルギー政策を支えるグリーンボンド発行拡大へ向けた提言


九州大学工学研究院/九州大学都市研究センターセンター長・主幹教授


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1.日本のエネルギー政策

 平成30年7月3日に閣議決定された第5次エネルギー基本計画は、国連気候変動枠組条約事務局にパリ協定に基づき提出された各国が決めた貢献(英:Nationally Determined Contribution、略称:NDC)に従って、国内温室効果ガスを2030年度に2013年度比26%削減の目標を設定した。また、「3E+S」の原則の下、(1)再生可能エネルギーにより電力需要の22~24%をまかなう(2)2030年に原子力発電への依存度を22~20%にする(3)2030年に化石燃料からの電力供給を56%に減らす(4)省エネ対策を講じて、2013年から2030年の間のエネルギー効率を35%改善する(5)2050年に向けて水素・エネルギー貯蔵と分散型エネルギーシステムなどを促進し、脱炭素化を目ざすという5つの取り組みを進めるとされている。このような目標を達成するため、多目的な財政枠組・投資方法が必要となるに相違ない。

 再生可能エネルギー利用を拡大することを支援する政策として、2009年11月1日から電力会社に太陽光発電の余剰電力の買い取りが義務付けられ、さらに2012年7月から再生可能エネルギーからの電力を買い取る固定価格買取制度(FIT)が導入された。買い取りにかかるコストは電気を使用する消費者の電力料金により負担される制度だが、当初有利な買取価格が設定されたため主として太陽光発電の普及拡大が進んだ。

 太陽光発電量は2009年の買い取り開始から2017年まで、228.5石油換算キロトン(英:kilotonnes of oil equivalent、略称:ktoe)から5,267.5 ktoeまで約22倍に急速に増加した。歴史上、再生可能エネルギーの最大の供給源であった水力発電は、2012年と2015年の間の13%増加(6,580.3 ktoeから7,490.8 ktoe)以来、歴史的な傾向と同じように減少と増加を繰り返している。そして、2012年の買取制度以来、伝統的に再生可能エネルギー供給において2・3位を占めていた地熱と太陽熱もわずかに減り、普及拡大が進んでいるバイオマス(生物資源)と風力発電によるエネルギー供給が多少増加した。FITによる再生可能エネルギー導入支援開始以降、太陽光を除く再生可能エネルギー供給が大きく増加していないことには、様々な理由が考えられるが、更なる経済的又は財政的な仕組みを通した導入支援も必要かもしれない。

2.エネルギー財政を支えるグリーンボンド

 グリーンボンド(環境債)は、環境を改善する事業あるいは環境に優しい事業を推進する資金を調達するため、自治体あるいは企業により発行される債券を指す。債券には柔軟な支払いスケジュール、長期のプロジェクトスキーム、調達コスト削減といった数多くのメリットがあり、企業及び公的プロジェクトの資金調達スキームにおける利用が増えてきている。国際資本市場協会によると、グリーンボンドの対象となる事業は以下の通りである:(1)再生可能エネルギー促進、(2)エネルギー効率向上、(3)公害防止及び管理、(4)環境に優しい生物資源と土地利用の管理、(5)陸上生物・水生物の多様性の保全、(6)排出量の低い交通機関の促進、(7)持続可能な淡水・排水管理、(8)気候変動による影響への適応、(9)環境効率的な循環経済に適合した製品・生産技術・プロセス、(10)国内的又は国際的な認証を満たすグリーンビルディング(建物)。

 日本の最近のグリーンボンドについては、2015年の約900億円(8.4億米ドル)の発行から、2018年には約2.3千億円(22億米ドル)の発行に拡大し、同期間に総額8千億円(75億米ドル)が発行された。図1に日本のグリーンボンドの発行額と使途の推移を占めしている。当該期間の発行額上位5社は(1)日本政策投資銀行の約1.9千億円(18億米ドル)、(2)三菱UFJ銀行の約1.3千億円(12億米ドル)、(3)住友三井銀行の約1.2千億円(11億米ドル)、(4)トヨタ自動車の760億円(7億米ドル)、(5)みずほフィナンシャルグループの約630億円(5.8億米ドル)であった。表1に日本のグリーンボンド発行会社の年毎の発行額、図2に日本のグリーンボンドの発行主体の主要な使途を示している。


図1:日本全国のグリーンボンドの発行額と使途の推移

図1:日本全国のグリーンボンドの発行額と使途の推移


表1:日本のグリーンボンド発行会社の年毎発行額

表1:日本のグリーンボンド発行会社の年毎発行額
出典:Climate Bond Initiativeのグリーンボンドデータに基づき筆者作成


図2:日本のグリーンボンドの発行主体の主要な使途

図2:日本のグリーンボンドの発行主体の主要な使途
出典:Climate Bond Initiativeのグリーンボンドデータに基づき筆者作成

3.世界から見た日本、及びグリーンボンド発行拡大に向けた提言

 2007年の欧州投資銀行のグリーンボンド発行以来、2018年までにグリーンボンド市場規模は約161兆円(1.45兆米ドル)を超えた (Climate Bonds Initiative, 2018) 。その内、グリーンボンドを発行した53の大手民間会社・政府・自治体等は、総発行額約6.5兆円(580億米ドル)のうち2.9兆円(270億米ドル)を再生可能エネルギーに関するプロジェクトと資産へ使用しており、2016年以来毎年グリーンビルディングに関するプロジェクトと資産及び低炭素輸送に関するプロジェクトと資産にも約300億円(3億米ドル)の資金を割り当てていたと公表した。その配分が

(1)
約1千万のCO2換算トンの排出削減、
(2)
1,500GWの再生可能エネルギー容量増加、
(3)
年間再生可能エネルギー発電量573億メガワット時(MWh)、
(4)
年間7千372億MWhのエネルギー節約に繋がっていた (Tolliver et al., 2019a) 。

 総投資額のうち約2分の1が再生可能エネルギーに配布されたことは、エネルギー政策の中でグリーンボンド発行が重要な役割を果たしているということを示している。

 図2から日本のほぼ全てのグリーンボンドが世界の傾向と同様に、クリーンエネルギー・低炭素交通機関・建物の資産・プロジェクトを対象としていることが理解できる。グリーンボンドの発行額増加は、「エネルギー基本計画」における再生可能エネルギーによる発電量拡大を促進し、NDCの排出削減目標を達成するための支援策となりうると言えよう。ただ、図3からグリーンボンド市場が創設された2007年以降、2018年に至るまで日本企業・組織等が世界のグリーンボンド発行額の2%を占めてきたことが見てとれる。日本がグリーンボンド発行の財政的な支援によってエネルギー政策の実現を図るため以下のように提言する:


図3:各地域のグリーンボンド発行額割合、2007年~2018年

図3:各地域のグリーンボンド発行額割合、2007年~2018年
出典:Climate Bond Initiativeのグリーンボンドデータに基づき筆者作成

(1)
グリーンボンドは、資本集約的なインフラ・ストラクチャー・ファイナンススキームの予算不足を補うものとして有用であるため (Clapp et al., 2015)、地方自治体は普通の債券の代わりに環境に優しいインフラに繋がっているグリーンボンドを下記の判断基準により発行すべき。
(2)
発行企業は、グリーンボンド発行によって企業内の環境フットプリントと財務パフォーマンスの改善という恩恵を受ける現在に至るまでの実績及び可能性 (Flammer, 2018) を熟考した上で、効果的な発行を促すべき
(3)
発行者は、グリーンボンドに一般的に付随する税特権、保証、およびその他の利点がインフレ、デフォルト、および市場のボラティリティに対するヘッジを求める人々の長期的な選好を満たす(Veys, 2010)といった知見を参照しながら、日本の市場状況に合わせる手法をとりつつ、更なる発行を促すべき
(4)
グリーンボンドは幅広い社会的責任投資(SRI)および環境利益追求投資を行う投資家にアピールするという好ましい環境上の効果をもたらすため (Chatzitheodorou et al., 2019)、発行者は詳細で透明な発行後レポートを公表する必要がある
(5)
各国が確実な高目標のNDCを採用することは、気候と持続可能性の投資に対応するグリーンボンド発行額に影響を与えるため (Tolliver et al., 2019b) 、日本は引き続きNDCの目標達成のため、エネルギー投資のグリーンボンドファイナンスを促進すべき

 技術のある企業と行政が繋がることで、より地域の持続可能性を高めることが出来る(馬奈木, 2019)。近年、政策決定の指標として、新国富指標という新たな指標が注目されている。新国富指標は、人工資本、人的資本、自然資本と呼ばれる資本を足し合わせ、国や地域全体が保有している多様な「富(豊かさ)」を総合的に測る指標であり、地域経済・社会政策の評価や目標をつくる際の地域・企業レベルでの活用が進んでいる(馬奈木、2017a)。自治体はこの新たな指標を通して、公的財政の予算負担にグリーンボンドの収益を適切に分配することが可能になる。

 近代のグリーンボンド発行額の傾向から、短・中期的には、日本において発行額は増加し続けると予測され、低炭素エネルギーインフラ事業への使途も増加するに相違ない。グリーンボンドをエネルギー財政の一つとして利用することは、国内・海外の社会的責任投資家への呼び出す効果によって市場を拡大させ、エネルギー政策・排出削減目標の達成に貢献し得るだろう。

【参考文献】

経済産業省新エネルギー庁、2018.「第5次エネルギー基本計画」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/others/basic_plan/
馬奈木俊介、2017a.「インフラ整備の優先順位付けを可視化」. 独立行政法人経済産業研究所
https://www.rieti.go.jp/jp/papers/contribution/managi/03.html
馬奈木俊介、2017b.「新たな経済指標「新国富」教育・健康・自然の価値重視」.日本経済新聞「経済教室」
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO16080740Y7A500C1KE8000/
馬奈木俊介、2019.「福岡県久山町、九州電力株式会社、九州大学は持続可能なまちづくりに関する包括提携協定を締結- 新国富指標を活用した地域・社会の課題解決に向けた取組み -」
https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/notices/view/1216
Chatzitheodorou, K., Skouloudis, A., Evangelinos, K. and Nikolaou, I., 2019. Exploring socially responsible investment perspectives: A literature mapping and an investor classification. Sustainable Production and Consumption 19, 117-129.
https://doi.org/10.1016/j.spc.2019.03.006
Climate Bonds Initiative (CBI), 2018. Bonds and Climate Change: The State of the Market 2018. CBI: London, UK.
https://www.climatebonds.net/resources/reports/bonds-and-climate-change-state-market-2018
Clapp, C.S., Alfsen, K.H., Torvanger, A. and Lund, H.F., 2015. Influence of climat science on financial decisions. Nature Climate Change 5(2), 84.
https://doi.org/10.1038/nclimate2495
Flammer, C., 2018. Corporate green bonds. Working paper for Boston University. Boston University, Boston, Massachusetts, USA.
Tolliver, C., Keeley, A.R., Managi, S, 2019a. Green bonds for the Paris Agreement and sustainable development goals. Environmental Research Letters 14(6), 064009.
https://iopscience.iop.org/article/10.1088/1748-9326/ab1118
Tolliver, C., Keeley, A.R., Managi, S., 2019b. Drivers of Green Bond Market Development: The Importance of Nationally Determined Contributions to the Paris Agreement and Implications for Sustainability. Journal of Cleaner Production. (In Press).
Veys, A., 2010. The sterling bond markets and low carbon or green bonds. E3G, London, UK.