MENUMENU

日本の温暖化は気象庁発表の6割に過ぎない


キヤノングローバル戦略研究所/IPCC第6次評価報告統括代表執筆者(イノベーションとテクノロジー)


印刷用ページ

 温暖化の程度を測定するためには、都市化等の局所的な影響を注意深く取り除かねばならない。これを行った近藤純正東北大学名誉教授の推計では、日本の温暖化は100年あたり0.73度となり、気象庁発表の1.19度の6割とかなり低くなる。主な違いの理由は都市化や測定地点周辺の樹木の成長等の補正によるものだという。都市化による昇温は、東京で2度、大都市で1.5度、中都市で1.0度、 小都市で0.5度前後に及ぶ。東京は100年あたりで2.8度高くなっているが、その3分の2強の2.0度は都市化によるという。
 また北海道の気温は太陽黒点の11年周期変動に同期して0.5度も上下している。メカニズムは諸説あり定まっていないが、太陽活動が地球温暖化と同程度の規模で気温に影響していることは確かなようだ。

1 都市化による昇温量

 地球温暖化を議論するときに、よく「地球の平均気温」や「日本の平均気温」というものが出てくる。しかし、これはいったいどうやって測るのだろうか? じつはこれは一筋縄ではいかない。
 本稿では、日本の温暖化や都市化による気温上昇の推計について紹介しよう。
 いま「測定」ではなく「推計」と書いたのは、単なるナマの測定データを集めるだけでは、長期的な傾向が分からないからである。
 というのは、気温の測定はいわゆる百葉箱または1970年代半ば以後は通風筒内(図1)で行うものの、測定値に影響する因子には以下のようなものがあり、本当の気温はこれらを全て考慮し、補正して推計しなければならないからだ:注1)

(1)
都市化。例えば、建築物、道路などに太陽の熱が溜まる。ビルが立ち並ぶことで風が遮られて熱が籠る。また都市内のエネルギー消費によっても熱が発生する。
(2)
測定機器。機器が変更されると誤差が生まれる。
(3)
統計。統計方法の変更があると補正が必要になる。
(4)
測定地点の移設。同じ地域内であっても測定地点が引っ越すと温度が変わる。
(5)
測定地点の周辺環境変化。周りの木が成長したり、つる草が伸びたり、フェンスが出来たり、周りに建築物が出来ると、風が弱くなり、日中は気温が上がり夜間は気温が下がる。この差し引きで平均気温が上がる(=「ひだまり効果」と呼ばれる)注2)

 以上を20年にわたり綿密に検討して、近藤純正東北大学名誉教授は都市化による昇温量を推計した注3)
 その結果、

(1)
2017年時点における都市化昇温量(概ね1910年~1930年ごろを基準とする)は大都市で1.5℃前後、中都市で1.0℃前後、 小都市で0.5℃前後(図2)。
(2)
東京は関東大震災(1923年)以後の100年間の気温上昇量は2.8℃であり、そのうちの都市化昇温量は2.0℃だった(図3)。

となった。
 なお東京の測定地点は、2014年にビル街の大手町から森林内の北の丸に移転したので、年平均気温が0.62℃低下した。距離にすれば僅かな違いだが、これだけで年平均温度は随分と異なる訳だ。(図3は、大手町に於いての推計値なのでこの移転の影響は除いてある)。


図1 気温センサーを入れる百葉箱(左)と通風筒(右)注4)


図2 都市化による昇温量の分布図(2000年)。都市温暖化量の大きさにより 記号分けしてある: 白・・・・0.3℃以下、青・・・・0.3℃以上、黄・・・・0.7℃以上、赤・・・・1.4℃以上注5)


図3 都市化による昇温量の経年変化(東京大手町、基準年=1910~1925年)注6)
(=推計された平均気温から、バックグラウンドとしての日本の温暖化(すぐに後述)を差し引いたものに相当)。

2 日本の温暖化の推計

 上記のような都市化等の影響や日だまり効果などを除き、バックグラウンドの温暖化量として、日本における地球温暖化量が推計された(図4)注7)
 以下の2点が注目される:

(1)
長期的な温暖化として100年間当たり0.73℃(1881-2017年の間) の割合で温度上昇している。

 これは気象庁の発表では1.19度となっており、かなり開きがある注8) 。このような違いが生じる理由として、近藤先生は2009年に、「気象庁の公表値は諸々の誤差 を補正しておらず、過大評価となっている。現在、世界平均の気温上昇率 も公表されているが、今回のような補正は施されていないので、今後見直す必要がある」と述べている注9) 。また本稿執筆にあたり近藤先生にインタビューをしたところでは、この状況は改善されていないとのことである。もしその通りであるならば、気象庁の推計においても都市化やひだまり効果等について本格的に補正がなされるよう、予算措置を含めて検討が望まれるところである。

(2)
温度のジャンプが起きている

 東北地方を中心として起こった冷夏頻発の時代(大凶作頻発時代: 1869-1884年、1902-1913年、1931-1945年、1980-1984年)の直後の年 (1887年、1913年、1946年、1988年)に平均気温が0.4~1.2℃ほどジャンプ している。この気温ジャンプは高緯度ほど大きい。この気温の低下とそれに続くジャンプは火山活動による温度低下とその戻りであろうと近藤先生は推定している。


図4 1881年~2017年の日本平均のバックグラウンド気温(都市化等の影響を除き補正したもの)の経年変化、1881年~2017年(137年間)注10)

3 太陽活動が気温を変える

 更に、近藤先生は、北海道の気温が太陽黒点周期と相関することを発見した(図5)。日本国内で高緯度ほどこの傾向が顕著に現れ、黒点数の多い年と少ない年の平均気温の差は約0.5℃ である、としている注11) 。 ただし、相関の無い時もあり、これは太陽黒点以外にも大気・海洋の十年規模の振動や火山活動などの他の要因によるものであろう、としている。
 この相関は太陽活動の変化が北海道の気温に影響を及ぼしていることを強く示唆する。ただし、そのメカニズムは未解明である。単なる太陽光のエネルギー量の変化だけではこれほど大きな温度変化は説明できない。
 メカニズムに関する説としては、

(1)
太陽光のエネルギー量の変動が、アイス・アルベドフィードバックや水蒸気・雲のフィードバックといったCO2による温室効果で主張されているようなフィードバックで強調される注12)(この場合、高緯度での変動が大きくなることは近藤先生の推計と整合している)。
(2)
太陽の磁場変動に伴って、銀河宇宙線量が変化し雲量を変える(スベンスマルク効果と言われる)注13)
(3)
太陽の紫外線量が変動し気温に影響する。
(4)
上記何れかの太陽の変動に伴って、大気・海洋の十年規模の振動が励起される。

 などのメカニズムがありうる。これらが複合的に作用しているのかもしれない。解明が待たれるところである。
 いま日本では温暖化への適応についての検討がなされているが、北海道を筆頭とした北日本については、この太陽活動の変化による気温の変動も他の要因による変動に劣らず大きいことに留意する必要がある。


図5 太陽の黒点数の変動(下図)と気温変動(上図)注14)
気温の縦軸の基準は1915~1940年の平均をゼロとして表し、5年移動平均値、青印は北海道6地点平均、赤印は西日本12地点平均、上向き矢印 は黒点周期と気温がよく対応する期間、×印は逆相関の期間 を示す

注1)
分かり易く詳しい解説として、K45.気温観測の補正と正しい地球温暖化量、近藤純正ホームページ
http://www.asahi-net.or.jp/~rk7j-kndu/kenkyu/ke45.html
注2)
日本におけるひだまり効果の推計について最近まとめられた論文として Sugawara, H., & Kondo, J. (2019). Microscale Warming due to Poor Ventilation at Surface Observation Stations. Journal of Atmospheric and Oceanic Technology, 36(7), 1237–1254.
https://doi.org/10.1175/jtech-d-18-0176.1
注3)
K174. 都市化による都市の昇温量、再評価2018 近藤純正ホームページ
http://www.asahi-net.or.jp/~rk7j-kndu/kenkyu/ke174.html
注4)
K45.気温観測の補正と正しい地球温暖化量 近藤純正ホームページ
http://www.asahi-net.or.jp/~rk7j-kndu/kenkyu/ke45.html
注5)
M41.日本のバックグラウンド温暖化量と都市昇温 近藤純正ホームページ
https://www.asahi-net.or.jp/~rk7j-kndu/kisho/kisho41.html
注6)
K174. 都市化による都市の昇温量、再評価2018、近藤純正ホームページ
http://www.asahi-net.or.jp/~rk7j-kndu/kenkyu/ke174.html
注7)
K173. 日本の地球温暖化量、再評価2018 近藤純正ホームページ
https://www.asahi-net.or.jp/~rk7j-kndu/kenkyu/ke173.html
注8)
杉山大志、政府報告書「日本の気候変動とその影響」の問題点、国際環境経済研究所
http://ieei.or.jp/2019/05/sugiyama190515/
注9)
K45.気温観測の補正と正しい地球温暖化量 近藤純正ホームページ
http://www.asahi-net.or.jp/~rk7j-kndu/kenkyu/ke45.html
注10)
K173. 日本の地球温暖化量、再評価2018近藤純正ホームページ
http://www.asahi-net.or.jp/~rk7j-kndu/kenkyu/ke173.html
注11)
近藤純正、2012:日本の都市における熱汚染量の経年変化.気象研究ノート、224号、25-56. これと同内容のものは以下で閲覧できる: K48.日本の都市における熱汚染量の経年変化 近藤純正ホームページ
https://www.asahi-net.or.jp/~rk7j-kndu/kenkyu/ke48.html
注12)
この気候システムフィードバック説をとる論文として、Tung, K. K., & Camp, C. D. (2008). Solar cycle warming at the Earth’s surface in NCEP and ERA-40 data: A linear discriminant analysis. Journal of Geophysical Research Atmospheres, 113(5), 1–11.
https://doi.org/10.1029/2007JD009164 
https://pdfs.semanticscholar.org/82da/fa5bce7642907adccbe8b3d1598898f869cc.pdf?_ga=2.15564926.974971426.1568968198-1266821998.1568490984
注13)
スベンスマルク効果および紫外線量の変化について分かり易く書いたものとしては、以下を参照: 杉山大志、「暴れる太陽磁場で気候が変動 書評:宮原 ひろ子 著 地球の変動はどこまで宇宙で解明できるか: 太陽活動から読み解く地球の過去・現在・未来 」
http://ieei.or.jp/2019/07/sugiyama190726/
注14)
K45.気温観測の補正と正しい地球温暖化量 近藤純正ホームページ
http://www.asahi-net.or.jp/~rk7j-kndu/kenkyu/ke45.html


温暖化の政策科学の記事一覧