望まれる、気候変動・温暖化「適応ビジネス」の活性化


国際環境経済研究所主席研究員、フューチャー・アース関与委員会・委員


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気候変動・温暖化への適応策の重要性

 2015年12月に採択されたパリ協定においては、温暖化の適応に関する世界全体の目標設定や適応行動の必要性が、言及されている。引き続き、適応の範囲や取組の効果の測定方法の策定等、詳細な議論の進展が見込まれる。

 気候変動がもたらす被害を可能な限り小さくするためには、原因となる温室効果ガスの排出を減らす「緩和策」が重要である。しかし、緩和を実施しても温暖化の影響が回避できない時、その影響に対応し、自然や人間社会のあり方を調整する方策が「適応策」である。
温暖化のリスクは国や地域によって多様であり、その国や地域に適した法制度の制定や社会システムの整備などの適応策を講じていく必要がある。
 また、温暖化が避けられない以上、温暖化のリスクというネガティブな側面ばかりではなく、ポジティブな側面を積極的に生かしていくという方策も重要で、長期的な視野に立った「適応策」がきわめて重要と言える。

「気候変動適応情報プラットフォーム」について

 日本国内においては、政府の気候変動の影響への適応計画が、2015年11月27日閣議決定された(http://www.env.go.jp/earth/tekiou.html)。
 すでに、同年8月には、文部科学省の地球観測推進部会において「今後10年の我が国の地球観測の実施方針」が決定されていたが、適応計画の閣議決定を受けて、「地球観測連携拠点(温暖化分野)」はこれまでの取組に加え、観測データを社会課題の解決に結びつける施策として、新たに「気候変動適応情報プラットフォーム」を設置し、政府、地方公共団体・産業界・生活者など様々なセクターが適応策を検討するための行動支援を行うこととなったものである。

 「気候変動適応情報プラットフォーム」(http://www.adaptation-platform.nies.go.jp/index.html)は、環境省からの委託により国立研究開発法人国立環境研究所が運営している、気候変動の影響への適応に関する情報を一元的に発信するためのポータルサイトで、様々なセクターが、気候変動への適応策を検討することを支援することを目的として、必要な科学的知見(観測データ、気候予測、影響予測)や関連情報を収集・整備し、ステークホルダー間の情報共有を促進している。環境省、内閣府、総務省、農林水産省、文部科学省、林野庁、水産庁、経済産業省、国土交通省、国土技術政策総合研究所、国土地理院、気象庁、海上保安庁など関係省庁にリンクが張られている。

出典:気候変動適応情報プラットフォーム ホームページ

出典:気候変動適応情報プラットフォーム ホームページ

気候変動の適応ビジネスに関する考察

 気候変動による影響は、様々な生産や産業活動を行う産業界、ビジネスセクターに及ぶ可能性がある。水害などの自然災害や農作物の品質低下など、生産や産業活動への直接的な影響や、海外の生産拠点やサプライチェーンを通じて日本国内の経済に被害が及ぶ影響(2011年のタイの洪水等)など、間接的な影響も懸念されている。

 産業界の適応に関する取組として、ひとつには、産業活動において、気候変動から受ける影響を低減させる「リスク管理」に関する取組や生産拠点での被災防止策やサプライチェーンでの大規模災害防止対策などが挙げられる。

 これに対して、適応をビジネス機会として前向きに捉え、適応を促進する製品・技術・サービス・システム等を提供する「適応ビジネス」への取組がある。「適応ビジネス」の事例としては、「気候変動適応情報プラットフォーム」でも、災害の検知・予測システム、暑熱対策技術・製品、 節水・雨水利用技術などが挙げられており、その具体的な取組が紹介されている(http://www.adaptation-platform.nies.go.jp/lets/adaptationbiz.html)。

「温暖化適応ビジネスの展望」の概要

 経済産業省においては、「温暖化適応ビジネスの展望」の最終版一式が、2017年2月27日開催の『長期地球温暖化対策プラットフォーム「海外展開戦略タスクフォース」(第5回会合)』にて公表された。
http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/energy_environment/ondanka_platform/kaigai_tenkai/005_haifu.html

「温暖化適応ビジネスの展望」概要版 出典:経済産業省資料「温暖化適応ビジネスの展望」概要版
出典:経済産業省資料
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 「温暖化適応ビジネスの展望」においては、まず、適応ビジネス市場の拡大見通しについて、世界の適応ビジネスの潜在的市場規模は、2050年時点で年間最大50兆円と推計され、大きなビジネスチャンスの到来が予想されると指摘し、具体的に日本の民間企業が適応で国際的に貢献できる有望分野として、「自然災害に対するインフラ強靭化」、「エネルギー安定供給」、「食糧安定供給・生産基盤強化」、「保健・衛生」、「気象観測及び監視・早期警戒」、「資源の確保・水安定供給」、「気候変動リスク関連金融」などが挙げられた。また、気候変動の影響を受けやすい途上国において適応は喫緊の課題であり、既にニーズは高いことが指摘された。企業の取組を「適応対策」「強靭化・レジリエンス対策」としてブランディングすることにより、国際資金の獲得、相手国政府からのサポートといったメリットに加え、企業のブランド力・信頼性の向上等の効果も期待できるとしている。

 また、今後の日本の取組みの方向性として、多様な適応ビジネスの潜在性を持つ企業は多いが、適応ビジネスに係る国内認知度が低く実際のビジネスに繋がっていない、官民連携で適応をビジネスとして推進するための情報共有・協力推進の場がないなどの課題が抽出された。これに対応して、官民で適応ビジネス機会の認識を高め、様々な具体的方策を包括的に実施し、知識、経験、情報を共有するための場を構築し、官民連携による海外展開に向けた取組推進の母体とすることの重要性が示された。

 適応は緩和との横断的な活動も含まれるなど適用範囲が広いとして、各企業の製品、技術、サービス。システム等を適応ビジネスとして展開するため、各企業内で気候変動リスクへの自社の対策等を進めつつ、適応の課題解決との紐付けを構築する人材が求められる。このような人材育成のために、気候変動の潜在的リスクと機会の理解向上のためのビジネスガイドブック、気候変動の適応技術・サービスのビジネス・モデル、ケーススタディ集等作成の重要性が、方向性として示された。

 また、「持続可能な開発目標(SDGs: Sustainable Development Goals)」が途上国の開発目標のメインストリームになりつつある中、日本企業の適応・レジリエンス活動をSDGsの17の目標に関連づけることにより、その先進性を印象づけられる点が指摘されており、時宜を得ている。

「適応ビジネス」への支援策

 日本政府はこれまで日本企業の製品や技術等の活用を通じた途上国における適応対策事業への日本企業の貢献可能性に関するFS調査を実施してきた。これらの調査を経て特定された支援ニーズを確実に捉え、象徴的な成功事例を創出し続けることにより、市場の活性化につなげることが重要と指摘されている。2017年度は、既に経済産業省による「途上国における適応対策への我が国企業の貢献可視化に向けた実現可能性調査事業」の公募が2017年「6月19日~7月20日実施され、(http://www.sc.mufg.jp/company/news/inform/info20170619.html)、採択案件5件が、8月21日公表された(http://www.sc.mufg.jp/company/news/inform/info20170821.html)。
 途上国を対象に、日本企業による優れた技術等を活用した適応分野での貢献の実現可能性やその効果の測定方法、指標の策定する実現可能性調査に係る提案の公募という位置付けだ。

 また、経済産業省の「適応グッドプラクティス事例集」が2016年11月に公表されており、自然災害に対するインフラ強靭化の分野で清水建設ならびに大成建設、エネルギー安定供給の分野でパナソニック、食糧安定供給・ 生産基盤強化の分野で Dari K 、保健・衛生などの分野で住友化学、シャボン玉石けん、気象観測及び監視・早期警戒の分野で日本電気、水安定供給分野でヤマハ発動機、気候変動リスクファイナンスの分野で損害保険ジャパン日本興亜の事例が紹介されている。
http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/energy_environment/ondanka_platform/kaigai_tenkai/pdf/003_06_02.pdf)。

 2017年度も経済産業省の温暖化適応ビジネスのグッドプラクティス事例募集が始まっており(7月3日~8月31日)、気候変動適応情報プラットフォームで公募情報が紹介されている。
http://www.sc.mufg.jp/company/news/000013271.pdf

 これらは、三菱UFJモルガン・スタンレー証券が、経済産業省より「平成29年度気候変動適応効果可視化事業(途上国における適応分野の我が国企業の貢献可視化事業)」の委託を受け、その一環として、ビジネス事例を募集しているもので、温暖化への適応策には、国連による持続可能な開発目標(SDGs: Sustainable Development Goals)達成にも貢献する重要な活動が含まれ、企業の環境・社会貢献活動を国内外で発信する機会につながると訴求している。

 具体的には、自然災害に対するインフラ強靭化、エネルギー安定供給、食糧安定供給・生産基盤強化、保険・衛生、気象観測及び監視・早期警戒、資源の確保・水安定供給、気候変動リスク関連金融等の分野における、適応ビジネスの事例の募集となっている。

 このような、官民連携による適応ビジネスの好事例が多様に示されることで、より多くの日本企業の適応ビジネスへの進出を後押し、適応ビジネスの活性化に繋がり、日本企業による製品、技術、サービス、システムの途上国への貢献の拡大が期待される。



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