COP22と日本が本当に注力すべきこと


国際環境経済研究所主席研究員、東京大学公共政策大学院 教授


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 11月7日からマラケシュでCOP22が始まっている。パリ協定が当初の予想を大幅に超えて早期発効したこともあり、会議は祝賀ムードで幕を開けたが、会議3日目には米大統領選の結果に冷や水を浴びるというジェットコースターのような展開になっている。筆者は今回、現地に行くことを得なかったが、「岡目八目」の観点からCOP22の位置づけと日本の対応について述べてみたい(トランプ氏のエネルギー環境政策とその影響については別途投稿する)。

パリ協定は詳細ルールがなければ動かない

 COP22ではパリ協定の発効と第1回締約国会合(CMA)の開催というエポックメイキングな出来事があったが、逆にそれ以外の成果は期待できない。パリ協定が発効したといっても、その根幹をなす様々な事項に関する具体的なルール作りはこれからであり、これなしにはパリ協定を実際に動かすことはできないからだ。
 パリ協定特別作業部会(APA)においては、各国が決定する貢献(NDC: Nationally Determined Contribution)の特徴(比較可能性、定量化可能性等)、盛り込むべき情報、温室効果ガス排出・吸収の計測方法、目標の進捗状況をモニターする「透明性フレームワーク」の進め方、グローバルストックテークのガイドライン、進め方等について先進国、途上国1名ずつから成るファシリテーターが議論を行っている。交渉テキストのようなものは存在せず、それぞれのイシューについてフリーディスカッションを行っているような状況だ。
 様々な立場の違いを乗り越え、パリ協定が合意されたわけだが、当然ながら難しい事項は具体的なルール、ガイドラインでの議論に先送りされている。例えば透明性フレームワークについてはパリ協定13条第2項では「途上国の能力に応じた柔軟な運用を認める」とされ、関連するCOP決定パラ90では「透明性のスコープ、頻度、報告の詳細度、レビューのスコープの面で柔軟性を認める」とされている。これは共通のフレームワークを主張する先進国と、先進国・途上国で二分化したフレームワークを主張する途上国の妥協の産物であったが、案の定、COP22では中国、インド、フィリピン、サウジアラビア等が差別化を透明性フレームワークにがっちり組み込むことを主張しており、柔軟性の付与は個別具体的に検討すべきと主張する先進国と鋭く対立している。今回のCOPにおいてAPAは11月14日に公式日程を終了することとなっており、その後は非公式の議論が行われる見込みだ。

COP22で決まるのは作業計画

 上記にあげた事項のいずれも今回のCOPで合意できるとは誰も考えていない。COP22ではルール作りに向けた作業計画(各国のサブミッション、ワークショップの開催等を含む)を採択することになるだろう。京都議定書の詳細ルールの策定には5年を要したが、今回は2018年頃までの詳細ルール策定を目指すのではないか。2018年にはIPCCの1.5度安定化に関する特別報告が予定されており、促進的対話(facilitative dialogue)が開催されることになっており、事実上、2023年から始まるグローバルストックテークの予告編と位置づけられている。「2020年までに発効」という作業前提であったパリ協定が予想を大幅に上回るスピードで発効したのだから、できるだけ早く使えるものにしよう、グローバルストックテーク予告編が開催される2018年にはルールを採択できるようにしよう、というモメンタムが働くのは自然なことである。

「日本蚊帳の外」論はナンセンス

 「日本の批准が遅れたためルール作りに参加できない」という新聞論調が見られるがナンセンスだ。日本の批准が発効に間に合わなかったため、第1回CMAにはオブザーバー参加せざるを得ないのは事実だ。しかし今回の第1回会合でルールを採択することはない。そもそも採択されるべきルールの具体的議論は、日本を含む全ての国が参加するAPAで行われるからだ。APAにおける議論は今後2年程度続くと見込まれる。その結果、ルールが合意され、CMAでの採択に付される頃には日本はとっくに締約国になっている。国会スケジュール上の問題により1ヶ月ほど批准が遅れたことを大騒ぎするのは無意味である。

日本が本当に注力すべきこと

 パリ協定の中核となるプレッジ&レビューは各国の多様性を認め、懲罰的にせず、促進的な枠組みにすることが成否のカギを握る。ボトムアップという性格上、各国の目標値の努力のレベルは国によって大きく異なる。野心的な目標をかかげて実現できなかった国が非難され、楽な目標を掲げて実現した国が賞賛されるようなものにしないことが肝要だ。そんなことになれば目標を引き上げようという国などいなくなってしまうだろう。日本は産業界の自主行動計画を通じてプレッジ&レビューに多くの知見を有しており、その経験をシェアすべきだろう。
 日本の批准のタイミングよりも、筆者はむしろ日本の26%目標達成に不可欠な原発の再稼動が遅々として進んでいないことに懸念を覚える。自給率を回復し、電力コストを引き下げ、他国に遜色ない削減目標を掲げるという要請を満たすためには原発が不可欠なことは明らかだ。「電気が足りているから原子力はいらない」という議論はエネルギー安全保障や温暖化防止の視点を決定的に欠いている。更に日本が温室効果ガスの大幅削減に真剣に向き合うのであれば、再生可能エネルギーだけでは不十分だ。原発の再稼動、更には既存原発のリプレースに向けた議論を避けて通れない。
 またパリ協定が目指す温度目標に近づくためには現在の技術やその改善だけでは全く不十分であり、革新的技術開発がその成否を握る。これこそ技術立国日本がその強みを活かし、世界に貢献できる分野だ。本年4月のエネルギー・環境イノベーション戦略では重点技術を特定したが、その具体的進め方や産業界におけるイノベーション促進の方策等については今後、検討されることになる。
 外形標準的な批准のタイミングやパーセンテージの目標数値にばかりこだわるのは京都議定書時代の発想から一歩も出ていない。温室効果ガス削減に向けた行動の中身とそれを可能にする環境づくりこそが大事なのである。

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