石炭の簡単な歴史と概要


国際環境経済研究所所長、常葉大学経営学部教授


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 石炭には、様々なイメージがあるらしい。まず、斜陽産業の代表との見方だ。10年ほど前のことになるが、財界の首脳陣に石炭の話をする機会があった。その時の最初の反応は、「まだ石炭を使っているの?」だった。エネルギー産業とはあまり関わりのない財界首脳の方のイメージは石炭、炭鉱は斜陽産業の代表ということだった。
 日本の石炭産業は、第二次世界大戦後の石炭と鉄鋼への傾斜生産の時代に一躍花形となり、九州、北海道などで炭鉱の開発と増産が行われた。昭和30年代生産数量は年産5000万トンを超えた。しかし、やがて安価な石油が石炭を駆逐していく。その現象は流体革命と呼ばれた。固体で扱いにくく、燃やせば灰がでる石炭よりも扱い易い石油が安価となれば、消費者が流れるのは当然のことだった。
 需要の減少に直面したこともあり、石炭業界では合理化努力が行われたが、経営陣と労働組合との間で大きな摩擦を生むこととなり、1959年から60年にかけ総資本対総労働の対決と呼ばれた三井三池争議が発生する。その後も石炭への需要の減少には歯止めがかからず、さらに採炭条件の悪化、炭鉱事故の多発もあり、国内炭の生産量は減少が続き、斜陽産業の代表のようになる。財界首脳が石炭に持つイメージを作る原因になった。
 さて、石炭に少し不思議なイメージを持つ人もいる。城南信用金庫の吉原前理事長は著書で、日本には黒いダイヤ石炭があるから、原発がなくても大丈夫と述べている。(http://ieei.or.jp/2014/05/bookreview140520/
 石炭は化石燃料の中で最も大きい二酸化炭素の排出量があるが、温暖化は発生していないので問題ないとしている。あまりの無知に驚くしかないのだが、日本には現在の技術、経済性で採掘可能な石炭は存在しない。
 1973年のオイルショック発生により、原油の価格は数ヶ月で4倍になった。石炭の価格も石油に引きずられ大きく上昇した。当時、日本は一次エネルギーの4分の3以上を石油に依存していたため、エネルギー安全保障に関し大きな危機感を持つことになり、貴重な国産エネルギーの石炭を年産2000万トンレベルで維持する政策が採用された。
 しかし、価格上昇後でも日本の石炭は国際的な価格競争力を持つことができず、やがて国内の商業生産を行う炭鉱はすべて閉山されることになった。反原発の主張のために、国内の石炭を活用可能と主張することはビジネスに携わる立場ではありえない。
 石炭は多くの国に賦存するが、地域、国によりその採炭コストには大きな差がある。また、当然だが、採炭、輸送コストが安い場所から開発が行われ、生産が進むに従って、コスト高になっていく。採炭条件が悪かったのは日本だけではなく、石炭により産業革命を起こし20世紀初頭には3億トン近い生産を行っていた英国でも昨年最後の坑内掘り炭鉱が閉山された。
 いま世界最大の石炭生産国は中国、次いで米国だ。さらに、インド、インドネシア、豪州、ロシア、南アフリカ、コロンビアと生産国は世界中に散らばり、また政治的に安定している国も多いことが、石油との違いだ。輸出国は、米国、豪州、インドネシア、コロンビア、ロシアなどであり、OPECのような組織が作られる可能性はない。
 石炭の埋蔵量は約200年分あるとされ、いまの生産国は採炭条件に恵まれた国が多く、採炭条件に恵まれなかった日本、英国のように生産数量が減少することは考え難いが、それでも採炭条件は徐々に悪化している。世界最大の輸入国は中国だが、日本は世界第2位の石炭輸入国だ。約2億トンの輸入量のうち、約7割は燃料用一般炭、約3割が製鉄用原料炭だ。
 石炭は、その用途により大きく製鉄用のコークス製造用の原料炭と発電用などの一般炭に分けることができるが、コークス製造用の高品位の石炭の埋蔵量は急速に減少している。このために製鉄会社は、高品位の石炭だけでなく低品位の石炭も利用しコークス製造を行う技術開発に力をいれた。原料炭で重要な品位は炭化度、流動性、硫黄分、揮発分などだ。一般炭では、全水分、発熱量、硫黄分、窒素分などが重要な品位になる。
 石炭から石油へのシフト、流体革命が起こったのは、コストが最大の理由だったが、石炭の取り扱いも問題だった。固体の石炭を受け入れるのには荷揚げ設備、貯炭のスペースが必要になり、さらに燃焼後に発生する灰の捨て場も確保する必要が出てくる。
 第一次と第二次オイルショックにより、石炭は石油に対し強い価格競争力を維持することとなり、取り扱いと灰処理のデメリットを勘案しても多くの場で競争力を維持することが可能になった。このために、多くの国で石油から石炭への転換が行われた。特に、燃焼灰を原料として使用可能なセメント製造では、急速な燃料の再転換が進んだ。
 第一次オイルショック後、40年以上一貫して世界の化石燃料の中で価格競争力があったのは、石炭だ。この価格競争力のために、インドなどの新興国を中心に石炭の需要増は今後も続くものと予想されるが、石炭使用時の問題は化石燃料の中で最も大きい二酸化炭素排出量であり、温暖化問題への影響だ。
 石炭は、数千年前から3億年以上前に植物が火山活動の影響などにより埋まり熱と圧力がかかり、植物中の水素と酸素がH2Oの形で失われ、炭化と呼ばれる残された炭素分が増えることで形成された。炭化度、発熱量が低い石炭は褐炭と呼ばれるが、炭化度が進むに連れ、発熱量も上昇し、亜瀝青炭、瀝青炭、無煙炭となる。欧州、北米、中国などの石炭は3億年前ほどに形成されており、この地質年代は石炭紀と呼ばれる。ちなみに、実験室で植物にいくら熱と圧力を与えても石炭を製造することはできない。そこには時間という要素が必要と理解されている。
 数千万年から数億年前の植物は成長の過程で当時の地球の空気から二酸化炭素を取り入れ光合成を行うことで成長した。何年あるいは何十年に亘り植物が吸収し蓄積した二酸化炭素中の炭素を我々は石炭の形で利用していることになる。長い間に蓄積された炭素を燃焼により一挙に放出することになり、空気中の二酸化炭素濃度は当然上昇することになる。安全保障、経済性の面では化石燃料の中の優等生の石炭も温暖化問題への対処となると、途端に嫌われ者となる。
 このため、世銀、米国輸銀、欧州復興開発銀行など多くの国際金融機関は途上国での石炭火力発電所プロジェクトへの融資を禁止した。石炭を利用する火力発電所は本当に問題なのだろうか。この石炭火力問題は別途解説したい。

表1
表2

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