エネファームからの逆潮
山藤 泰
YSエネルギー・リサーチ 代表
パナソニックは、昨年9月に、ドイツの給湯器メーカーであるフィスマングループと家庭用固体高分子型燃料電池を共同開発したと発表している。今年からドイツで販売を始め、続いて欧州主要国に投入するそうだ。プレス資料に示された仕様を見て気付いたのだが、発電出力が750ワットの定格出力制御になっている。これは、取付先の負荷がこの出力以下になっても定格運転し、余剰分は配電系統に逆流されるということを意味している。これについて英国の専門家に尋ねてみると、欧州、特にドイツや英国などでは、逆潮を可能にすることによって余剰電力を売れることが、数キロワット以下の小型コージェネ(マイクロ・コージェネ)の普及を促進しているということだ。
日本の家庭用燃料電池(エネファーム)の場合、取付先で定格出力以下の電力需要しかないときには、負荷追随をすることによって余剰電力が生まれないように、ということは、系統への逆潮はしない仕様になっている。筆者宅では数年前、NEDOが行った家庭用燃料電池(定格700ワット)の実証試験に2年間参加させて貰ったが、その間、電力消費や発電量がキッチンに取り付けられたモニターにリアルタイムで表示されていた。これを毎日何回もチェックしていたのだが、2人世帯であるということもあって、電子レンジや空調を使わない時の電力需要は平均的には400ワット程度と意外に少なかった。ということは、もし欧州向けのもののように定格運転をすれば、余剰電力が生まれるということだ。
エネファームの出力は1キロワットに満たないものだが、これからの市場拡大で設置数が増えてくれば、それを集めた総出力規模は発電所レベルになる。2013年度末での累積設置数は約5万台だから、全体の定格出力規模は3~4万キロワット。政府は2020年に140万台の設置を想定しているが、その時の総出力規模は100万キロワットを超える。さらには、2030年には530万台を目指そうとしている。
設置される地域は都市部周辺が多いことから、安定した稼働をする小型の発電所が各地に分散設置されたのと同じ効果が生まれる。エネファームはコージェネレーション(熱電併給)で、発電効率は大規模火力発電所のものよりも高く、排熱を給湯暖房に利用することで、総合エネルギー効率は90%程となる。したがって、設置数が増えた地域のエネルギー効率は向上する。また、変動する自然エネルギーによる発電出力を平滑化する制御にも対応できるため、地域の電力供給の安定化にも貢献してくれる。
最近自宅周辺を散歩していて気がついたのだが、新築される住宅の中にエネファームを設置しているところが増えている。メーカーのコストダウン努力と、普及に向けた政府の補助政策の効果が出ていることに加えて、自前の電力を持つことに対する消費者の新しいニーズが背中を押しているのかもしれない。エネファーム市場はテイクオフし始めたと言えるだろう。2015年頃には現行の補助制度がなくなるようだが、それに代わる何かを準備して,市場拡大を続けさせなければなるまい。その一つが、エネファームから余剰電力を売電できるよう逆潮を可能にすることではないか。妥当な価格で売電できれば、エネファームの魅力が高まるのは確実だろう。是非実現に向けて検討して貰いたいと思っている。