電力システム改革専門委員会で置き去りにされた議論


(株)伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー代表取締役 兼 アナリスト

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 電力システム改革専門委員会は、1年余りにわたる議論を反映した報告書を2月に作成し、終結した。この報告書の内容に関しては、賛否両論、様々な評価が与えられているようで、議論に参加させていただいた私のもとにも、各方面からいろんな意見や感想が届けられている。そこで、私がこの委員会においてどのような主張を行ったかを紹介させていただき、その内容が妥当だったかどうかを読者の皆様に再検証していただきたいと思う。

 まず、第1回電力システム改革専門委員会で私が主張した主な内容は以下の通りである。

国民の大多数が電気事業の現状を正確に理解しているかどうか疑問を感じている。例えば、3.11以降、電気事業者は、懸命に(自らの利益を度外視して)、停電を起こさないよう、供給力の不足を補う努力をしているが、これすら正確に理解されていない。電力システム改革に関する議論は国民が理解した上で行っていかないといけない。
この専門委員会には、事業者、需要家の代表が参加していない。関係者の意見を聞いて、議論に反映していくべき。
エネルギーはあらゆる経済活動、国民の暮らしと切っても切れない関係にある。エネルギー資源の調達は、常に国家戦略の中核たるべきもの。特に、電気は、その需要が経済活動とパラレルな関係にあり、例えば、大口電力需要は実質GDPが1%変動することによって約3%変動する。電力の供給力が不足する事態が、日本経済全体、そして国民の暮らしに極めて甚大な悪影響を及ぼしている。従って、まず供給力が不足している足元の状況を踏まえた短期、それから向こう2~3年の期間、さらに電力関係のインフラストラクチャーの形成に必要な期間を考慮した2020年前後をターゲットにした中期、需給構造を大きく変えられる長期といった時間軸に分けた議論が必要ではないか。
需給両面での対応が必要だと言われているが、電力あるいはエネルギーは需要の価格弾性が低いので、需給調整を価格機能によって発揮させるためには、価格の自由度を高く設定しなければいけない。果たして、そのような状況(=著しく高い電気料金の設定)を経済界とか国民が受け入れられるかといったことも考える必要がある。
供給安定性の確保、経済合理性の確保はあらゆる時間軸においても極めて重要な課題。環境性については中期・長期において重要な課題。再生可能エネルギーの導入・利用の拡大は中期・長期で考慮し、短期的には、経済界・暮らしにできるだけ負担を与えない形での省エネと、火力をはじめとする既存電源の供給力の拡大を図るなどにより、経済性、環境性の優れた電源を入れる工夫をしていかないといけない。
電気事業は、今までのままでは当然いけないわけで、変えていかないといけない部分がある。例えば、他産業では当たり前で電力業界で当たり前でないものが、業務提携、事業統合、合併。これらが検討の課題に上がるような状況を作っていかないといけない。
これまで事業所単位、あるいは発電設備単位で競争力の評価がほとんど行われていない。(電力会社毎に)一つの固まりとして経営のコントロールがなされていた面についても、当然メスを入れていくべき。電源の確保という観点で考えるなら、自前の電源だけではなくて、他電力の電源、あるいは他事業者の発電設備の電源も含めて競争原理が発揮されるような状況を作っていく必要がある。
ただ、足元は供給力が不足している状況なので、それを補うために、キャパシティをどうすれば拡大することができるかということを優先的に考えて、それが十分に図られた段階で、自由化の論議も含めて、あるいは事業形態の変更も含めた議論を行っていく必要があるのではないか。

 また、システム改革の進め方などについては、以下のような主張を行った。

現状に比べてより良くするための改革にすべき。規制・制度はすべて理由があって作られたものなので、撤廃すべきもの、大幅に見直すべきものもあると思われるが、小幅な修正で十分なものや、修正の必要のないものもあるはず。システム全体を抜本的に見直す必要があるとは思えない。
電力システムの改革は失敗が許されない。システムの変更にどれだけコストおよび時間がかかるのかを十分に検証して議論に反映すべき。
典型的な設備産業である電気事業を健全に運営するためには一般産業に比べて多額の資金が必要である。このため、資金調達に関わる問題は、そのまま事業全体のリスクに直結する。従って、金融事情には十分に配慮すべき。
安定供給の確保、経済合理性の確保、安全性の確保など公益的課題の達成に支障を及ぼしたり、サービスの低下につながったりするような行為規制は行うべきではない。
非対称規制は、コストの押し上げ要因となったり、既得権となったり、事業者間の公平性も阻害したりして、産業全体の合理性や健全性を損なってしまうので、設定する場合には過大にならないように配慮する必要がある。

 これらの主張のうち、金融事情については全ての委員の理解が得られたが、他の多くの主張に関しては、複数の委員から、「電力会社の既得権益を守ろうとしている」と評されたり、考えてもいない内容を付け加えられたうえで、批判されたり、揶揄されたりした。私は、現時点においても上述した発言内容のすべてにおいて間違った主張をしたとは思っていないのだが・・・。今後のシステム改革の詳細設計においては、上記のような視点に立った検討が行われていくことを期待したい。

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