高市政権でエネルギー政策はどう変わるのか

―必要な短中期の具体策―


国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授

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(「政策研究フォーラム「改革者」2月号 令和8年2月1日発行」より転載)

高市政権は、原子力の再稼働、新型革新炉の利用、核融合と原子力の活用に関する政策を打ち出す一方、再生可能エネルギーについては設備、原料を海外に依存する安全保障上の問題もあり、政策を見直す方向だ。しかし、その具体策については、不透明な部分も多い。

2024年9月に行われた自民党総裁選挙では、候補者の関心の低さを反映したのだろう、エネルギー・環境政策が大きなテーマになることはなかった。総裁に就任した石破茂前首相も、エネルギー政策に関心がなく、理解もなかった。もっとも石破前首相はエネルギー政策に限らず、全ての政策に遂行者としての関心はなかった。ジャーナリストからは、「政策通との評価があったが、エネルギーに限らずどの政策にも通じていない」との辛辣な評価もあった。

総裁選の議論と石破前首相の所信表明演説を通し聞こえてきたのは、地熱の推進だけだった。日本の総発電量の0.3%しか担わない地熱を推進してもエネルギーミックスに大きな影響を与えることはないが、エネルギー供給の全体像に関する方針、政策が首相の口から語られることはなかった。

洋上風力のコスト上昇により2023年から世界各地で事業者の撤退が相次ぎ日本にも波及したが、そんな中で2025年5月に洋上風力の最大限の導入に向け排他的経済水域での浮体式洋上風力に言及したのは、経産省のシナリオ通りかもしれないが、思考しない石破前首相を象徴しているように思えた。

就任中の2025年2月に第7次エネルギー基本計画が閣議決定された。第6次エネルギー基本計画では、将来のエネルギー、電力供給量の減少が想定されていたが、第7次では電力供給量の増加が想定され、原子力発電が「可能な限り依存を低減する」から「最大限の活用」に変更される大きな変化があった。電力需要の増加が想定されたのは、生成AIの普及を支えるデータセンターの急増が予想され、電気自動車、電化の進展と合わせ大きな電力需要が生じると見込まれたためだが、各電源の比率は示されたものの、電源の新設を実現するための具体的施策は示されなかった。

2025年10月の総裁選の議論では、5人の候補全員が原子力推進の立場からエネルギー政策にも触れたが、やはり全体像を示した候補者はいなかった。その中では、高市首相はエネルギー問題に最も関心を持っているように見えたが、その大きな動機は経済成長と安全保障にエネルギー政策が大きく係わるからだった。しかし、高市首相がエネルギー問題に触れる時も全体像が示されることはなく、安価なエネルギーの安定供給の目的に加え、目標とは直接関係のないペロブスカイト太陽電池、核融合に断片的に触れる程度だった。安価、安定的な電力料金を目指すとしているが、目的は経済成長を支える製造業、データセンターの強化にある。高市首相のエネルギー政策の背景にある経済の現状から見てみよう。

失われた30年間を引き起こした産業構造の変化

1990年代初頭のバブル崩壊以降、日本の民間企業で働く人の平均賃金は波を打ちながら減少した。2010年に底を打ち上昇に転じるが、そのスピードは遅く、1997年の過去最高の年収を超えるには2024年まで27年間必要だった。年収は上昇しているが、生活実感は上向かない。2024年に生活が苦しいとする国民は約6割だ。(図1)児童がいる世帯で生活が苦しいとする世帯は、2023年調査で3分の2になる。

図1 年収と生活実感の推移
注:生活実感は左軸、年収右軸
出典:厚労省国民生活基礎調査の概況、国税庁民間給与宴態統計謂査

賃金が上昇しても、それ以上のインフレがあり実質賃金は上がらない。なぜ、これほど賃金が上がらない世界でも珍しい国になったのだろうか。大きな理由は、産業構造の変化だ。

90年代半ば製造業で働く人は、約1500万人いたが、今は約1000万人だ。この間日本で働く人の総数は少し増えている。定年の延長と女性の働く比率が増えているためだ。それでは、製造業で「リストラ」された就業者は、どこにいったのだろうか。雇用を増やしたのは介護の分野だ。

製造業の中でも、大きく付加価値と雇用を減らした産業は、化学、鉄鋼などのエネルギー多消費型産業だ。日本の産業別の生産性(一人当たり付加価値額)に示されている通り、多くのエネルギー多消費型産業の生産性は高く、給与も高い(図2)。一方、機械化、自動化が難しい介護産業の生産性は低く、給与も相対的に低くなる。生産性の高い分野の雇用が減り、低い分野の雇用が増えれば、平均給与は下がるしかない。

図2 産業別1人当たり付加価値額
注:2023年度の数字( )の業種は製造業の内数
出典:法人企業統計

平均給与を増やすには、生産性が高い分野を成長させ、雇用を増やせば良い。米国トランプ大統領は、関税を通し輸入品の価格を上昇させることで、国内に製造業を呼び戻し、給与増を実現しようとしている。例えば、自動車が典型だ。しかし、輸入される自動車部品も多く、しかも製造工場の建設には時間が必要なことから、トランプ関税により米国の製造業での雇用が増えるかどうかは見通せない。

高市総理が考えているのも、製造業の国内回帰だろう。生産性が高い産業を国内に呼び戻せば、給与も上がる。そのために必要なのは、エネルギーコストの引き下げだが、ただ引き下げるだけでは問題は解決しない。エネルギー安全保障、安定供給も同時に実現しなければならない。価格を下げ、安定供給も実現し、さらに温暖化対策まで考える必要がある。同時に達成することが可能だろうか。まず、温暖化問題から見てみよう。

高市首相は温暖化対策には関心が薄い

高市首相が温暖化対策を語ることはあまりない。所信表明演説でGX投資による脱炭素電源などに触れた程度だ。温暖化対策にはあまり関心がないのだろう。日本の温室効果ガスの排出量は、十年以上にわたり減少しているが、その理由のひとつは、先述のエネルギー多消費型産業の衰退だ。

日本の一次エネルギーと電力消費量は波を打ちながら減少を続けている。政府は、2030年に2013年比マイナス46%の温室効果ガス削減目標に向けてオントラックで減少が進んでいると説明するが、その原因を見れば、製造業の衰退があり、平均給与の減少がある。決して喜ばしいことではない。

温暖化対策を進めればエネルギー価格の上昇を招く。例えば、化石燃料に代わり、水の電気分解など二酸化炭素を排出しない方法で製造した水素の利用が進められているが、発電コストが劇的に下がらない限り、化石燃料の数倍高いエネルギーを利用することになる。

水素から製造するアンモニアの発電での利用も進められているが、電気から作ったものを発電に使えば、そのエネルギー効率は大きく落ち込む。

再生可能エネルギーのコストが下がっているとの主張もあるが、統合コストと呼ばれる、空間(再エネ設備は消費地から離れた場所にあるので送電が必要)と時間(発電できない時のためのバックアップ設備)のコストを考えると高コストの電源になる。

高市首相は、設備の大半が輸入品になる太陽光発電については、安全保障の観点から疑問を呈していたが、12月23日に関係閣僚会議を開催し、メガソーラー(メガワット1000キロワット以上の設備)には自然破壊、災害リスクもあるとし、新規事業の支援廃止や、監視体制の強化などの政策を決定した。

屋根置き型太陽光、ペロブスカイト電池などの開発を進めるとしているが、設置可能な電源の容量には限度があり、第7次エネルギー基本計画で想定されている2023年度発電シェア9.8%の太陽光を2040年度に22%から29%に引き上げる目標は未達になる可能性が高い。

高市首相の目標は、安価、安定的な産業向け電力供給であり、再エネを進めても目標には寄与しないこともメガソーラー支援を打ち切る理由の一つだろう。それでは目標達成の具体策はあるのだろうか。

安価、安定的な電力供給に向けての高市首相の施策

自民党と日本維新の会の連立合意文書にはエネルギー政策の項目があり、次の記載がある。

「電力需要の増大を踏まえ安全性確保を大前提に原子力発電所の再稼働を進める。また次世代革新炉及び核融合炉の開発を加速化する。地熱等わが国に優位性のある再生可能エネルギーの開発を推進する。国産海洋資源開発を加速化する」

さらに、高市首相の赤沢亮正経済産業大臣への指示書には、次の記載がある。「日本が潜在力を持つ再エネの最適なエネルギーミックスを実現し、日本経済をエネルギー制約から守り抜く。エネルギー安全保障と脱炭素を一体的に推進する中で、産業競争力の強化、新たな需要・市場創出を通じた成長を目指す。原子力発電の推進や、次世代革新炉・核融合発電の早期実現などを通じて、エネルギー自給率を引き上げる。太陽光発電に関しては、ペロブスカイト太陽電池の早期普及を目指す。再エネ関連の補助金を見直し、本当に役立つものに絞り込む」

石原宏高環境大臣への指示は次だ。「2050年カーボンニュートラル及び2030年度の温室効果ガス排出削減目標を実現するため、GX実行推進担当大臣など関係大臣と協力して、地球温暖化対策を推進する」

再エネについては、ペロブスカイト、地熱を進めるものの、メガソーラーなどへの支援を見直すとの方針であり、これは先述の通り、既に12月23日の関係閣僚会議で政策が打ち出された。原子力発電の再稼働を進める一方、新型革新炉、核融合を進め、自給率を向上させることも目標としている。しかし、やはり全体像、例えば短中期のエネルギーミックスをどう考えるのか、脱炭素の道筋をどうするのか明確ではない。電力需要増に対処可能だろうか。

具体策に欠けるエネルギー政策

今後電力需要は、大きく増加することが予想されている。第7次エネルギー基本計画は、2040年度の電力需要量が最大2割増える可能性があるとしている。一方、2016年の電力市場自由化を受け、石油火力発電設備を中心に採算性が不透明な老朽化した火力発電設備の閉鎖が続く。火力発電設備のリプレースがない限り、需要が大きく増えないケースでも発電設備が不足する懸念が指摘されている。

高市政権が掲げる地熱、ペロブスカイトは明らかに大きな供給力を提供可能な発電設備ではない。革新型原子炉、小型モジュール炉については、ロシア、中国、米国、カナダが先行しているが、これからの技術であり、日本でどの程度導入が進むか不透明だ。

米国では30年代の導入が予想されている核融合だが、社会に実装されるには、10年単位の時間が必要だろう。

そうすると、高市首相が掲げるエネルギー供給では、短期間に必要な電力需要の大きな増加に対処が難しいように思える。

12月23日に「AI基本計画」が閣議決定され、世界で最もAIを開発・利用しやすい国を目指す方針が打ち出されたが、その前提は電力供給だ。潤沢な電力供給が可能でなければ、データセンターへ投資する事業者は登場せず、AI利用も日本の経済成長も難しくなる。

一方安全保障上、データセンターを国内に設置することが重要だ。バルト海では、ロシア船と中国船によるケーブル切断「事故」が続いており、重要な情報を処理するデータセンターを国内に設置することが重要になっている。

経済成長は無論のこと、安全保障上もデータセンターを支える電力供給の確保が極めて重要な課題になっている。そうであれば、脱炭素の目標を一旦離れ、安価、安定的な電力供給を優先する制度を整備し、小型モジュール炉のような革新炉の開発を急ぐ一方、既存の火力・原子力発電所の活用と共に、新設も支援することが重要になる。

安価、安定的な電力供給は、成長にも安全保障にも家庭にも極めて重要だ。実現のための具体策と制度を高市首相は一刻も早く明らかにする必要がある。

著者略歴
山本隆三 やまもと りゅうぞう
香川県生まれ。住友商事(株)地球環境部長、プール学院大学(現桃山学院大学)国際文化学部教授、常葉大学経営学部教授を経て、常葉大学名誉教授。経済産業省産業構造審議会、財務省財務総合政策研究所委員なども歴任。現在NPO法人国際環境経済研究所副理事長兼所長。
著書に『最新 間違いだらけのエネルギー問題』『間違いだらけの電力問題』(2024年エネルギーフォーラム賞普及啓発賞受賞)、『経済学は温暖化を解決できるか』など多数。