グリーン電力国家中国という見当違い
印刷用ページ監訳 キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹 杉山大志
訳 木村史子
シーバー・ワン、テッド・ノードハウス、ヴィジャヤ・ラマチャンドラン 2025年12月13日
Greenwashing With Chinese Characteristics
https://www.breakthroughjournal.org/p/greenwashing-with-chinese-characteristics
を許可を得て邦訳。
第2次トランプ政権と共和党議会が、インフレ抑制法とバイデン政権の「政府全体としての強く一貫した理念を基にした」気候政策の解体を、断固として目指していることが明らかになってから約1年、中道左派の論評家の大半は、世界が気候変動にどう取り組むべきかについての見解を一変させた。IRAの成立が米国による新たな地球規模のグリーン産業政策時代の幕開けとなる歴史的転換点であると繰り返し主張されていた見解は、記憶から消し去られた。今や世界の気候変動問題の救世主は中国だ。新興の「グリーン電力国家」として、世界のエネルギー経済のルールを急速に書き換えている、というのだ。
歴史家ニルス・ギルマンは『Foreign Policy』誌で、中国・欧州による「グリーン合意」と米国主導の「石油ブロック」が対立する「エコイデオロギー的」冷戦の可能性を予測してさえいる。ビル・マッキベンは、中国主導のグリーンエネルギー革命が進めば、米国が時代遅れの技術の博物館と化す可能性がある、と警告している。ジェームズ・ミードウェイは「『気候変動問題は中国が原因であり対策は不可能だ』という言い訳が、中国によって完全に葬り去られた」と冷笑しているし、ノア・スミスは中国が「静かに世界を救っている」と高く評価している。
中国は経済を電気に依存する形に転換し、クリーンエネルギー技術における支配力を拡大し、世界の脱炭素化への道筋を拓くことで、エネルギー転換の新たなページを開いていると、さまざまな関係者が主張している。将来的に、中国は世界的超大国になり、それはクリーンエネルギー、とりわけ太陽光発電で生み出された電気で支えられるようになるだろう、と多くの専門家は予測しているのである。
これらの主張は、いくつかの期待の持てる動向によって支えられてはいる。中国の製造能力は太陽光パネルとバッテリーのコストを急激に押し下げ、風力・太陽光発電の年間設置容量は世界のどの国をも圧倒している。電気自動車の登場により、中国の自動車産業はわずか10年ほどの間で世界における競争力の最先端へと躍進した。そして現在、総エネルギー消費に占める電力化比率において、中国はノルウェー、スウェーデン、日本、台湾のレベルにまで到達し、米国、ドイツ、その他大半の先進国経済を上回っているのだ。
しかしながら、こうした傾向は「環境に優しい電力国家」を形作るには程遠い。2024年時点で石炭は依然として中国発電量の59%を占め、中国は世界の石炭消費量の実に56%という驚異的な割合を消費してきている。中国で廃止された石炭火力発電設備はごくわずかである。
中国では現在、新車販売の過半数をバッテリー式電気自動車とプラグインハイブリッド車が占めているが、中国の道路を走る自動車のうち電気自動車は10台に1台に過ぎない。交通部門の完全な電動化を実現するには、中国は推定4億台の化石燃料自動車を置き換える必要がある。そして、中国が輸入液体燃料への依存を減らすための手段の一つが運輸部門の電動化である一方で、もう一つの手段は国内におそらくは膨大な埋蔵量を持つであろう天然ガスの掘削である。中国は、気づかれぬうちに、もうすぐイランを抜いて世界第3位の天然ガス生産国となる軌道に乗っている。2023年には生産量の40%が従来の石油やガスではない非在来型資源に由来する見込みである。
中国を台頭する「グリーン電力国家」として位置付けること—トランプ流のアメリカの石油国家との対比として—は、政治論争において、様々な言説的目的を帯びている。しかしこのエネルギー地政学の解釈は、中国の現実と意図の両方を誤って伝えている。その産業経済は、今後数十年にわたり石炭とガスに依存した電力・熱供給をほぼ確実に維持すると同時に、中国のニッケル、アルミナ、金属シリコン、プラスチックは、クリーンエネルギーの利用ではなく安価な化石エネルギーを基盤としながら、海外生産者を引き続き価格面で圧倒し続けるだろう。
欧州や北米といった地域が貿易関係や産業競争力を検討する上で、中国の輸出が強力たる所以は、中国が多くの完成品・最終用途向けグリーン技術で世界をリードしつつも、産業部門では環境面でじつは遅れを取っている点にある。政策決定者や評論家が、この戦略を台頭する「グリーン電気国家の戦略」だと誤解するのは、自らの判断ミスでリスクを負うことにほかならない。












