石油備蓄問題、正しい情報が伝わらない -政府とメディアに頼らない方法とは?


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中東情勢に関する関係閣僚会議で発言する高市早苗首相
(4月30日、首相官邸ホームページより)

無警戒な日常が日本で続く

「日本は6月に詰むんですよ」。4月4日放送のTBSの「報道特集」でホルムズ危機と日本の石油事情について、専門家が断言した。ナフサ供給がなくなるという。高市早苗首相は翌日、自らSNSのXで番組名を出さなかったものの「ナフサは国内需要4ヶ月分を確保」と具体的な数字を挙げて反論した。同番組も「趣旨を適切にお伝えすることができなかった」と公式Xで認めた。

日本のSNS、ネット言論は保守派や右派が元気だ。メディアのリベラル色が強いため、それに対抗するためであろうか。その人たちは政府批判を行うTBSと報道特集を目の敵にしているので、この発言を執拗に攻撃した。確かに煽り気味の報道でいわゆる「ネット炎上」は仕方ないだろう。しかし、この騒ぎで政権のエネルギー政策に異論を挟むことに、ためらう空気が生じてしまったかもしれない。「まず政府を批判」という報道特集の姿勢は事実認識をゆがめ、情報の流通をおかしくする。罪深いことだ。

政府のエネルギー政策に、私は不安がある。今年4月の花見、5月のゴールデンウィークで日本では例年と同じように車の渋滞が起きた。昨年末のガソリンの暫定税率の廃止、3月から行われたガソリン・軽油の補助金という政策で自動車の燃料価格の上昇が抑制され、誰もが積極的に車やエネルギーを使う。

国民生活に悪影響が出ていないのは良いことだ。しかし、それが政府による見通しの甘さや、無理にその状況が作られているのなら危険だ。多くの非産油国では、エネルギーやガソリン・軽油価格に政府が補助を出す一方、給油量の制限、割り当て、冷房温度の引き上げ、在宅勤務、出張抑制などにより消費抑制にも踏み出している。

アジア、欧州などの一部の国も上限価格を設定するなど補助金の投入をしているが、報道や各国政府の広報から見る限り、「石油を無駄に使わないで」というメッセージが政策で強調されている。それを積極的に言わない日本政府の姿勢と対照的だ。日本の石油事情は大丈夫なのだろうか。

楽観情報に首相と政府は飛びついていないか

高市首相は4月の国会で「心配しなくていい情報をお伝えできる」などと、石油問題について、楽観的な情報を並べた。そして自らSNSを使い、この問題の広報を積極的に行う。その姿勢は適切だが「良い情報」ばかりに飛びついているように見える。実際には状況は流動的で、情報は良いものと悪いものが入り混じっている。

資源エネルギー庁の推計によると5月1日時点の推計で、日本では官民合わせて石油の備蓄は211日分あるという。イラン攻撃の始まった2月末には241日分だった。輸入が激減したので、着実にその量は減っている。5月初頭の段階ではホルムズ海峡でイランによる民間船舶の攻撃は行われていない。しかしそこでの交通の状況は完全に戻っていない。日本は25年に原油の9割以上を、ホルムズ海峡を経由して輸入していた。

日本政府の行うべき政策は、原子力など石油以外のエネルギーの活用、省エネ、状況が悪化した場合の石油使用抑制の準備だ。そして海上交通線の安全対策の強化だ。ところが、それらは国民生活に負担を加え政治的に実行が難しい。そのために目先は楽な補助金の支給に政府は逃げているようだ。何も起きないことを願う高市首相の意向に、予想も担当の省庁もなびいてしまっているように思える。さらにメディアも、その正論をなぜか伝えない。

政府は信じられず、メディア報道は頼りない

実際のところ石油供給の現状はどうなのか。メディアの報道で、全体像がわかるものはない。「ナフサ不足で調達リスク、製造業3割『影響』 帝国データ調べ」(日経、4月18日)は調査会社の報告をまとめ、流通は止まっていないものの、将来の不足や価格の上昇懸念が出始めたことを伝えている。しかし実態が今一つ不透明だ。その理由は、状況が流動的で先が見通せないためかもしれない。また石油関連製品の流通は裾野が広いため記者が実情を追いづらいのかもしれない。メディア不況の中で現場の記者が減って取材ができないと知人の記者が嘆いていた。

問題をめぐる新聞・メディアの報道も歯切れが悪い。「ガソリン補助金2カ月で枯渇か」(毎日、同6日)など、月5000億円と見込まれる補助金の継続支出を危ぶむ報道がある。しかし国民がガソリン・軽油の値上げを受け入れるべきかという、価値判断の視点がない。それは他社の報道でも見られる。エネルギー補助金は、今のところは生活に役立つ。そのために社会の多数派と対立しかねないために、積極的にそれを批判しないのだろう。

また海上交通線は容易に切断できることが、今回のホルムズ危機で明らかになった。イランは安価なドローンで攻撃をし、被害を恐れて世界の保険会社はホルムズ航行の船舶への保険から手を引いた。これは台湾有事の時に、敵になりかねない中国が、日本の海上交通線を容易に切断できることを示している。しかし政治もメディアも、この問題についても積極的に取り上げない。中国との問題で波風を立てたくないようだ。

政府の行動に巻き込まれる必要なし

今回の石油の供給問題は、状況が動き続け、未来を完全に予測するのは難しい。ただし危険な方向に状況が転がった場合を考えた方が良い。現政権は、事実を直視していないように思えてしまう。さらに、それを監視、国民に事実を伝える役割を果たすメディアが頼りない。

一般人には石油流通の奥の事情まではなかなか把握できない。どのように情報を取れば良いのか。有効な指標がある。価格だ。

原油、また主要石油製品は重要物資であるため、国際的にも、国内的にも、市場が整備され、価格という重要な指標が常に示され続けている。価格は未来を示す指標になり、人々の行動を変えていく。

私はマーケットの担当記者として株、為替、金属、原油を見てきた。その物資をめぐる需給が変わる場合には、大抵の場合に数ヶ月前から、市場に予兆が現れる。今回の米国のイラン攻撃のように突発的な事件が起きて、市場価格が乱高下することはある。また現在の補助金が出されている日本の石油製品のように、価格がゆがめられる場合がある。しかし、長期的には需給が価格に反映する。需要が多ければ価格は上がり、逆の場合には下がる価格メカニズムが働く。そして価格を人為的に、そして無理にいじろうとすると、激しい反動が必ず出る。

私たち一般国民の石油問題でできることは、価格の動きを注視しながら、原油やその精製品が遮断されることを想定し、できる対策を自分の仕事、そして身の回りの生活で進めることだ。代替製品探し、価格上昇を想定した準備や製品備蓄が考えられる。

ただし配慮しなければならないことがある。前回のオイルショックで、流通の各段階での溜め込み、便乗値上げによって、混乱が拡大した。また何も危機が起こらずに準備が損になってしまう可能性もある。社会の混乱を起こさず、個人の損をしないように配慮することは難しいが、状況とそれぞれの事情に合った対策をしたい。

石油問題で、高市首相と日本政府の失敗に、またメディアのおかしな煽りや取材不足に私たちが巻き込まれる必要はない。