構造的危機に直面するドイツ
―右派ポピュリズム拡大はエネルギー問題も一因
三好 範英
ジャーナリスト
世界の先進諸国で右派ポピュリズム政党の拡大が続いている。ドイツでは「ドイツのための選択肢(AfD)」が昨年(2025年)の連邦議会(下院)選挙で第2党となり、最大野党となった。これらのポピュリズム政党が伸長する最大の理由は、有権者の多くが抱く外国人によるテロや犯罪への不安感に対して厳格な対策を訴えるからだが、ドイツでは、エネルギー価格高騰や税制に対する不満もAfDへの支持につながっているという。昨年12月、ベルリンで、政権与党キリスト教民主同盟(CDU)系の調査研究機関「新社会的市場経済へのイニシアチブ(INSM)」のシュテファン・シェーンケ経済部長(39歳)にインタビューする機会があったので、その内容を紹介したい。
――ドイツの現状をどう見るか。
ドイツは厳しい状況に陥っている。社会は分断化し、さらにこの間、AfDはますます過激化し、AfDとの連立はますます難しくなっている。10年前にAfDはナチ(アドルフ・ヒトラーが率いた国民社会主義ドイツ労働者党)といわれたが、その時はまだそうではなかった。それから5年、10年たち、AfDの一部は確かにナチになった。
同時にAfDは勢力を拡大したが、その結果、下院議席の4分の1が(他党が協働しない)局外者となり、CDUは左派政党と協働しなければならなくなった。そのため左からの圧力を受けやすくなり、「右」の政治よりも「左」の政治を行うようになっている。そのことがさらにAfDを拡大させている。
5年前にAfDと協働すべきだった。そのころはまだAfDは比較的穏健だった。AfDに有権者を駆り立てている問題を解決することができ、AfDは縮小していたかもしれない。しかし、AfDは過激化し、その機会はもはやない。それがドイツが今陥っているジレンマだ。
現在のCDU主導のフリードリヒ・メルツ政権は、政策転換を掲げているが、外交・安全保障、移民政策での転換はできるが、経済、社会政策での転換はできていない。しかし、経済、社会政策が外交・安保政策、移民政策の基礎となるものだ。ドイツは経済強国であるからこそ国際的な比重を持つことができる。しかしそれは与党として連立を組む社会民主党(SPD)との協力では不可能だ。SPDは(社会的平等を優先し)経済強国を志向していない。メルツ氏は有権者を非常に失望させている。
メルツ氏はこれまで、改革は夏に行う、秋には行うと言っていて、今は来年(2026年)に行うと言っている。人々はもう信じていない。メルツ氏は大きな信頼性の問題を抱えている。
――メルツ政権の失敗は、ドイツ民主主義にとって危機ではないか。
そのとおりだ。このままでいけば2026年、いくつかの州で行われる議会選挙でAfDが勝利し、旧東ドイツの州であるザクセン・アンハルト州ではAfDの州首相が誕生する可能性がある。
連邦政府は非常に不安定で、いつでも瓦解する可能性がある。もし前倒し選挙が行われれば、AfDは30%を得票し第1党になるだろう。CDUの少数与党の政権になるかもしれないが、危険な道だ。もしCDUがAfDと協力して何か決定すれば、メディアは竜巻状態だろう。AfDとの協力はナチが政権に着いたのと同じだ、CDUは民主主義を裏切ったとの批判が巻き起こるだろう。
ただ少数与党政権になれば、法案を通すために議論は実際的になる可能性もある。
今の議論は極めて分極化、感情化、イデオロギー化している。世界観を問題にし、何を発言していい、よくない、何がナチで、ナチでないか、何が民主的で、反民主的かといった議論だ。つまりこれは文化闘争だ。今求められているのは、実際的な、具体的な解決を求める議論だ。左派政党は、あらゆることをブロックし、相手をナチと批判することで、分極化をたきつけている。
――移民難民政策については、メルツ政権も国境管理の厳格化や送還の促進を進めており成果も上がっている。それでもAfDの支持が減らないのはなぜか。
成果が上がるまでに時間がかかりすぎたことがある。そうこうしている間に、AfDは多くの国民の不満を掬い上げた。官僚主義、エネルギーや気候変動政策などへの不満だ。エネルギー転換は(エネルギー価格の高騰により)ドイツの産業をダメにしたが、ドイツは小さい国だから、気候変動対策はグローバルな気候、環境には何も貢献しない。
生活水準を向上させねばならない。2019年から生活は同じ水準にとどまっている。人口は増えているので、一人当たりの国内総生産は低下している。調査をすれば、6人のうち5人が経済状態は悪いと感じている。3人のうち2人が向こう3年間でもっと悪くなると心配している。特に旧東ドイツで顕著な悲観主義が見られる。
――旧東西ドイツの違いがいつまでも解消されず、むしろ顕著になっているのはなぜか。
まず、経済的な格差が大きな役割を果たしている。旧東の経済は旧西の経済に比べ依然として弱い。さらに人口の問題がある。若い、教育を受けた人間は旧西に行き、年取った、教育水準の高くない人間が旧東に残る。
さらに文化的な問題として、東ドイツには1968年の運動(日本でいえば全共闘を中心とする学生運動)がなかった。それゆえに旧東では緑の党や(環境破壊などに反対する)対案提唱運動の存立は極めて難しい。したがって一般的に旧東の人間は保守的だ。
また旧東では東ドイツ時代の社会主義統一党(SED、事実上の共産党)の経験があるので、国家に保護者面されることに対して拒否反応を示す。政治家が来て、「この言葉は使ってはいけない。その言い方は政治的に正しくなく、ジェンダーの観点から適当ではない」などと言われて議論の自由が制限されると、旧東の人は旧西の人より強い拒否反応を示す。東ドイツの体制が思い出されるからだ。
移民に関していえば、ドイツ統一の後、旧東ではたくさんの人が失業した。失業手当をもらい、それまでの経歴が無価値となりながらも、難関を切り抜けた。だから旧西の人のようには、外国から来て仕事もせず、社会福祉を利用する人を認めることができない。
――AfD党員に話を聞くと、ドイツの社会福祉制度に依存して生きている外国人と、きちんと働き、税金を納める外国人とは区別し、後者は歓迎というのだが、真に受けていいのだろうか。
AfDは党としては過激で排外主義的だが、支持する国民の25%が全てが排外主義者ではない。AfDの支持者の言い分を信じていいのではないか。ドイツが労働力を必要としていることは自明だ。ドイツは老齢化し、縮小している国だ。外国からの熟練労働者を必要としている。しかし、ドイツの社会福祉制度に入り込む人々は必要としていない。
私は経済学者だが、経済学的に両者を区別することは非常に重要だ。過去10年、あまりに多くの不適格の移民を受け入れた。中東のイスラム教文化圏からの移民は、統合(Integration)に関して多くの問題がある。2015年大晦日にケルン大聖堂前広場で起こった女性に対する集団暴力事件や相次ぐテロ事件など、ひどいできごとがあった。
これらの移民は性的マイノリティを尊重せず、イスラエルを地図上から抹殺すべきと考える文化圏からきている。反ユダヤ主義の傾向は広がっており、2023年10月7日にイスラム組織ハマスがイスラエルを攻撃した時には、この文化圏からの移民が多数住むベルリン・ノイケルン区の通りで祝宴が行われた。ひどい話だ。こうしたことは、やはり全く違った文化圏から来ていているインド移民では起こらない。
首都であるベルリンでユダヤ人が危険を感じることなしに、ユダヤ人であることを示すことができない、キッパ(男性ユダヤ教徒が着用する小さな帽子)をかぶって街を歩けないことは、(ユダヤ人弾圧の過去がある)ドイツ国民として心が締め付けられる。
ホロコースト(ユダヤ人大殺戮)を繰り返さないというのが、第2次世界大戦後の道徳の中心だったが、それがもはや集団意識の中では存在しない。ドイツの歴史にとって一つの節目が来るかもしれない。
シェーンケ氏は、以前はあるCDU有力下院議員の政策秘書をしていた。ベルリンを訪問するたびに話を聞いているが、現実主義的な分析は常に参考になる。
今回のインタビューでは、ドイツの現状にたいする強い危機意識が印象的だった。ドイツ経済は、2023、24年ともにマイナス成長で、25年も0.2%と予想されている。経済指標だけを見ても事態は深刻だが、重要なのはこうした不調が単に経済に限られた一過性のものでなく、構造的な中長期的な問題であることだろう。
イデオロギー過多のドイツ政治が原発廃棄を実現し、電気料金の高騰、産業の国外流出の一因となった。それは多数の移民流入と相まってAfDの拡大を許し、旧東西ドイツの分断、政治の分極化を生んでいる。さらにそれは決められない政治をもたらし、政策遂行を妨げる――といったそれぞれ相互に関連した負の連鎖が続いているのである。
ナチの歴史に対する贖罪意識という戦後ドイツの道徳の中心にも変化が生じているというから、今ドイツは歴史的な転換点にある、というのもあながち誇張ではないかもしれない。














