放射線廃棄物の処理処分は循環型社会の活動。
できる・できないではなく義務のようなもの(後編)
岡 芳明
東京大学名誉教授、前・内閣府原子力委員会委員長
3.3 フランス、スウェーデン、フィンランドの原子力施設の廃止措置と放射性廃棄物処理処分
これらの国においても、原子力施設の廃止措置と放射性廃棄物処理処分が着実に進んでいる。フランスは1970年代に石油危機を機に、軽水型原子力発電所(軽水炉)を多数建設した。その大部分を定期的な改修を行いつつ現在も利用している。原子力発電は新規建設に必要な費用が巨額だが、初期投資を償却した後は、安価に発電できる。これは水力発電所と類似である。フランスの電力は約70%が原子力発電で供給されており、大部分の原子力発電所の建設費用は償却が進んでいるので、発電コスト・電気料金は他の国に比べて極めて安価である。フランスの原子力発電所で廃止措置が行われたものは、軽水炉以前に使われていたガス冷却型原子炉と高速炉の原型炉や商業炉である。フランスは再処理事業も他国に先駆けて行った。初期の再処理施設とUP2-800と呼ばれる日本の日本原燃の再処理工場のモデルになった再処理工場は廃止措置中である。UP2-800の廃止措置を見学したが、社長が自らスケジュール管理をしながら、整然と行われていた。前倒しで廃止措置が終了すると、国営企業なので政府から報奨金が出るとのことである。配管などの金属も主な元素ごとに分類されて回収されていた。
日本では半減期の長い放射性廃棄物の半減期を短くする核変換が、消滅処理とか有害度低減と称されて、いまだに世間の注目を集めているが、フランスでは検討済みである。核変換はイタリア系フランス人の親友が提案し検討したので、その経緯は最初から知っている。フランスの地層処分は、地層処分、核変換、長期貯蔵の3つにオプションを1990年代から15年間研究させ、2006年に地層処分が良いとの結論を得ている。この結果は地層処分担当機関Andraが、ホームページでASN(フランス原子力規制委員会)の報告を引用して述べている。フランス中部で、地下の厚い粘土層までトンネルを掘って、試験が行われている。日本では知られていないが、再処理した廃液をガラス固化した高レベル放射性廃棄物の定置試験だけではなく、使用済み燃料を直接処分する定置試験も行っている。後者の定置試験は、著者が2019年に訪問した時に目にしたパンフレットに記載されていた。見学を希望したら、別の場所で行っているとのことだった。フランスの政策は頑健である。処分場は100年後に閉鎖の計画で、処分体は閉鎖までは取り出せるように定置される。処分場を閉鎖するかどうかは、現世代ではなく、100年後の世代が決める方針である。粘土層が地下水の侵入を防ぐ。さらにベントナイトと呼ばれる粘土の粉末を処分孔の周囲に充填し処分する計画である。ベントナイトは天然の粘土で、水を含むと膨潤し、土木工事の止水材として使われている。ベントナイトを処分孔と処分体の間に用いる試験は日本の地層処分の研究開発でも行われている。フランスは、処分体を取り出そうと思ったら取り出せるように処分孔に定置し、処分場を閉鎖するかを100年後に決めることにしているので、最終処分場が決まっていると、日本では報道されないが、地層処分計画は着実に進んでいる。
スウェーデンは、第一次石油危機後、1970年代に12基の原子力発電所を建設した。現在は6基の原子力発電所が稼働し、約30%の電力を供給している、水力発電を加えると、約70%の電力を供給している。スウェーデンは原子力施設の廃止措置と放射性廃棄物の最終処分で、世界で最も進んだ計画を持つ国の一つである。2025年1月には世界で2番目となる使用済み燃料の地層処分場が着工されている。スウェーデンは廃棄物のレベルに応じた出口戦略が明確に決まっており、すでに稼働している施設も多い。
ストックホルムの北、約150kmのバルト海沿岸部にあるフォルスマルクでは、中・低レベル放射性廃棄物処分場が1988年から稼働しており、2025年1月には拡張工事が開始されている。スウェーデンは使用済み燃料を再処理せず、直接処分する方針で、その高レベル放射性廃棄物処分場(最終処分場)もフォルスマルク地区にあり、2025年1月に正式着工している。2030年半ばから処分を開始し、2080年代まで拡張を続ける計画である。最終処分場受け入れに対する地元住民の支持は80%と、極めて高い。極低レベル放射性廃棄物処分場は、原子力発電所や材料試験炉があった複数の地点に設けられ、埋設処分が行われている。
スウェーデンでは各発電所の所有者が廃止措置の責任を負い、SKB(スウェーデン核燃料・廃棄物管理会社)が廃棄物管理を一括して担当している。極低レベル放射性廃棄物は、原子力発電所等の廃止措置や運転に伴って発生した廃棄物等で、原子力発電所等の施設区域の中で浅地中処分されるか、基準以下のものは、通常の廃棄物処分場で処分あるいは再利用される。スウェーデンでは廃止措置等で発生する放射性廃棄物でない廃棄物(クリアランス物)の一般処分場での処分や再利用も進んでいる。非原子力発電分野(研究開発やイラジオアイソトープ利用等)で発生する廃棄物を担当するスタズビック社には、大型の溶解炉があり、外国の廃棄物の溶融も受け入れている。
フィンランドでは、現在2つの発電所で、合計5基の原子炉が稼働している。1970年代に作られた4基に加えて、2023年にはEPRと呼ばれる世界最大級の原子炉が稼働している。総発電量に占める原子力の割合は約50%である。フィンランドでは、廃止措置を行っている発電用原子炉はない。中低レベル放射性廃棄物処分場は2つの発電所の近傍に建設され1992年と1998年から稼働している。使用済み燃料は高レベル放射性廃棄物として直接処分する。世界最初の最終処分場(地層処分場)がオルキルオト発電所近傍の地下450mに建設された。今年【2026年】から処分開始予定である。フィンランドには原則決定と呼ばれる制度があり、事前に地元自治体と国会の承認を得て政府が許認可の決定をする。その後は、政府による建設許可と 運転許可のプロセスがある。国民全体をカバーするフィンランドの世論調査では2019年に初めて、地層処分への国民の信頼が37%と懐疑的な見方(36%)を上回った。チェルノブイリ事故や東電事故の年を除いて、1980年代から徐々に信頼が増加してきている。見方を変えれば、懐疑的な国民が多かった時代に、地層処分場の計画がすすめられたことになる。処分計画やその安全性の理解のためには、対話(双方向の意見交換)が必須で、対話できる住民の数には限りがある(参考文献3)。フィンランドでは、県や国全体ではなく、処分場が立地する地元自治体の住民との対話によって進められた点が成功の要因であることに注目すべきである。
3.4 日本の原子力施設の廃止措置と放射性廃棄物処理処分
日本には、廃止を決定したものを含めて合計60基(商業用と研究開発用)の原子炉が存在し、そのうち廃止措置中あるいは廃止決定済みのものは27基、運転中または再稼働可能なものは33基である。建設中のものがこのほかに3基ある。図3に廃止措置中の原子力発電所を示す。
日本で最初に原子力発電を行ったのは日本原子力研究所の動力試験炉で、1963年である。1976年に運転を終了し、1996年に解体を終えている。放射性廃棄物は遮蔽付き容器に保管し、放射能レベルの低いコンクリート廃棄物は、研究所内の浅地中に埋設する実地試験が行われた。建屋の解体で発生した廃棄物の大部分は、放射性ではないコンクリートで、粉砕して建屋の解体で生じた窪地の埋め戻しや、構内の道路や構築物の地下として利用された。
中部電力浜岡発電所の1号機と2号機は2009年に運転を終了し廃止措置に移行している。発電タービンなど原子炉周辺機器の解体撤去は既に行われ、2024年度から原子炉容器などの解体撤去作業が行われている。原子炉建屋とタービン建屋の解体撤去は2036年度以降の計画である。東電福島事故以降、初期に作られた出力の小さい発電所を中心に多くの原子力発電所が廃止措置に移行した。
日本の放射性廃棄物は高レベル放射性廃棄物と低レベル放射性廃棄物に大別される。低レベル放射性廃棄物は、処分方法によって、中深度処分、ピット処分、トレンチ処分対象の廃棄物に分かれる。これらは中レベル放射性廃棄物、低レベル放射性廃棄物、極低レベル放射性廃棄物に対応する。放射性廃棄物は、廃棄物を発生させた事業者が責任をもって処分する必要がある。原子力発電の場合は電力会社である。ピット処分は電力会社が出資して設立した日本原燃(株)が、青森県六ケ所村の低レベル放射性廃棄物埋設センターで、1992年より埋設を行っている。高レベル放射性廃棄物処分の実施主体は原子力発電整備機構(NUMO)で、立地に向けた活動を行っている、研究機関、大学、医療機関、民間企業で発生した低レベル放射性廃棄物(研究施設廃棄物という)の埋設処分の実施主体は、発生量の大部分を占め、処分に関する技術的知見を有する日本原子力研究開発機構とすることが、2008年の法令改正で定められている。高レベル放射性廃棄物の地層処分のための研究開発は北海道幌延町の日本原子力研究開発機構の幌延深地層研究センターで、地下深くまで立坑を掘って行われている。
東京電力福島第一発電所では、3基の原子炉が炉心溶融事故を起こした。溶け落ちた燃料(燃料デブリ)の取り出しは、放射線量が高いために、遠隔操作が必要で、廃炉作業の中でも困難な工程である。2号機で試験的な取り出しが行われ、1、3号機では内部調査が継続されている。汚染水が溶融した核燃料を冷やした水に、地下水や雨水が混ざることで発生している。汚染水の発生を抑え、たまった水を処理する対策がなされ、処理水を海水で希釈して海洋放出が行われている。使用済み燃料プールからの燃料の取り出しは3、4号機では完了し、1、2号機で進行中である。
まとめ
放射性廃棄物は、原子力発電の未解決で大きい課題と日本では考えられているが、欧米ではその処理処分が進んでいる。使用済み燃料など、高レベル放射性廃棄物の処理処分についても、欧米では進んでいる。放射性廃棄物は産業廃棄物の一形態であり、その処理処分は、できる・できないではなく、循環型社会における義務である。
「使用済み燃料管理と放射性廃棄物管理の安全」に関する国際条約がある。条約の締結国は3年ごとに報告書を国際原子力機関に提出している。これによって各国の廃止措置や放射性廃棄物の発生や処理処分の状況を知ることができる。その付録には、各国の使用済み燃料と放射性廃棄物のインベントリー(在庫量)が報告されている。日本のインベントリーもこの報告書で知ることができる。
参考資料
- 3.
- 岡 芳明「原子力発電はなぜ最も危険と考えられるようになったのか?」、国際環境経済研究所 2024年4月
https://ieei.or.jp/2024/04/oka_20240423/
※(前編)もあり。














