トランプ政権の「安全保障政策」と中間選挙への見通し


環境政策アナリスト

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米国トランプ大統領による1月3日のベネズエラ攻撃は多くの識者が指摘するとおり、マドゥロ大統領が麻薬密輸・密売テロリストに係わったというのは口実に過ぎない。攻撃は昨年11月に発表された国家安全保障戦略における西半球重視戦略を実行に移すものであった。これによってトランプ政権は西半球における米国の軍事的優位性を見せつけ、他国への侵略野心を明らかにした。ベネズエラの石油資源アクセスに対する行動は米国のグローバルなエネルギードミナンスを確立しようとする目的が中心にあり、これに付け加えるようにして中国への石油供給の低減を図るものであった。今後米国はベネズエラの米国の付属国化を着実に進めるためにまずは事態を鎮静化するように行動し、ルビオ国務長官が示した「安定化」「復興」「政権移行」の3フェーズを3年から5年をかけて進めていくとみられている。

しかしながら米国では公にあるいは内々には、そういかないとする見方も根強くある。すなわちベネズエラの新体制と米国の関係の将来の不確実性、またベネズエラに関連する石油タンカー拿捕が国際的緊張を高めるというリスクがあるというのである。さらにそれ以上に注意するべきは、国内的にトランプ政権がベネズエラ攻撃およびマドゥロ大統領逮捕に際して議会との調整を行わなかったことである。特に上院議会は通告を受けなかったことでトランプ政権に対する政治的チャレンジを強めている。最近の世論調査をみると攻撃から1週間後、米国民の3割しかトランプ政権を支持していない。そのなかにはかなりの数の共和党支持者もいるはずである。これに呼応して上院は、共和党から5人の同調する動きもあり、今後のベネズエラへの軍事行動を制限するとの決議をしたが、トランプ政権はこれによって政策を変えることはないとみられている。一方、下院は上院決議と同様の議決をすることはなさそうである。

しかし重要な点はいわゆるトランプ支持層MAGAグループ内の分裂の可能性、共和党内部のアメリカファーストのアメリカ孤立主義のもとに集まった人たちの間にきしみがある点にある。トランプ政権はベネズエラ攻撃を米国の安全保障の目的のためと位置づけようとしているもののMAGAグループ内の疑問をもつ人たちに対して、他国へのさらなる軍事的関与をしようというものでないとは説得できていない。こうした人たちはまたトランプ政権はもっと国内問題に対応してほしいと感じている。医療費増、インフレ、雇用などの対策である。実際これらが今年11月の中間選挙でより重要な論点になってくるはずである。

マドゥロ大統領の逮捕に続いてトランプ政権はグリーンランドに目を転じた。トランプ大統領はグリーンランドの周辺をロシア・中国の船が航行しており、米国安全保障において重要な地域であると繰り返し、さらにスティーブン・ミラー大統領次席補佐官はテレビのインタビューで、北極海および北大西洋の安全保障確保のためには米国は「支配的な国家」である必要があるとして、グリーンランドにおけるデンマークの主権を疑問視し、グリーンランドは米国の一部であるべきと発言。また、同次席補佐官はグリーンランドの将来に対して米国は軍事力を使用することを排除しないが、米国と争う国はないだろうと述べた。

しかしながら、ベネズエラに対して人権の回復が目標ではなく石油であったように、グリーンランドについてはレアアースであることを欧州の指導者達は当然のこととしている。グリーンランドにはエネルギー資源も豊富であり、中国の影響力を排除するために、レアアースも米国のサプライチェーンの保障のためには必要であり、それが米国のハイテク産業、とりわけ半導体、防衛、AIにとって不可欠であるとみていることを専門家は指摘している。欧州はトランプ政権の脅しに強く反発しており、ミラー次席補佐官の軍事力を排除しないとする発言には怒り、懸念を示している。デンマークのフレデリクセン首相は、米国にデンマークに敬意を欠く態度で脅迫するのをやめるように申し入れ、グリーンランドは300年来デンマークの領土であり、これに対する米国の行動は両国の関係を終わらせるものだと公式に発言している。同首相は、米国のグリーンランドを支配する発想はばかげており、米国にはデンマークの3つの構成国のいずれも属国化する権利はないと述べている。

米国議会でも共和・民主両党とも主要な議員はトランプ政権の武力を行使するとの考えに反対している。特に共和党ティリス上院議員は強くミラー次席補佐官の発言を批判しており、「ミラー次席補佐官は余計なことには口を慎むか、この仕事から手を引くべきだ」と述べている。NATO加盟国もトランプ政権にはNATOへの脅迫をやめるべきと一致している。こうしてトランプ政権のグリーンランドへの野心の表明は米国と欧州の同盟国の間の信頼をおおいに悪化させている。グリーンランドに関しトランプ政権が説明する西半球の安全保障、すなわち北極海および北大西洋における中国・ロシアのプレゼンスが問題であるというのも真の理由ではない。昨年11月の米国国家安全保障戦略は単にベネズエラのような腐敗した独裁国家に武力を使うためだけでなく安定した長年の友好国であるデンマークにも適用されている。ルビオ国務長官はグリーンランドを得るためには、武力ではなく購入を提案することにより両国の緊張を緩和させようとしている。デンマークはその主権保持は交渉の余地はないので、この提案はグリーンランド代表者も同席させ、交渉するにはいい環境を作ることができると評している。

ふたつのトランプ政権の行動は、共和党内にあるもともとの反トランプ陣営はもちろんのこと、他国への武力行使に際し議会をないがしろにしたことに反発する議員、MAGAグループ、アメリカファーストに集まった人たちの中にあるトランプ政権への疑問、などが入り混じってトランプ大統領への支持率の低下につながっている。上院の3分の1が改選される11月の中間選挙において共和党が過半数を取れるかどうかは微妙であり、全議員が改選される下院も議会が大きく変わるか、まだ予想は難しいところであるが、州知事選を含む地方選挙への影響は大きく結果が注目される。

また西半球での米国による武力行使は東半球での中国の台湾など他のアジア諸国への侵攻を正当化する口実を与えることになるかもしれない、ロシアのウクライナ侵攻を正当化させることにもなりかねないという指摘も米国では出ている。