太陽光発電施設の除去債務の会計
藤枝 一也
素材メーカー(環境・CSR担当)
前回、太陽光発電や風力発電などの再エネ事業者が環境債務を把握・開示していない点についてChatGPTに整理してもらいました。
鉛、セレン、カドミウムなどの有害物質を含む太陽光パネルの処理は将来必ず発生することが分かっているため、本来は事業開始時点で環境債務として開示すべきなのです(2022年にようやく始まった処理費用の積み立てではなく、会計処理として)。また、森林破壊を行った場合の自然回復費用も同様です。
さらに、事業活動に伴って土壌汚染や地下水汚染などが発生した場合には、速やかに引当金として計上すべきです。
特に、SDGs、ESGなどを謳っている再エネ事業者であれば倫理的な問題も絡んでくる一方、SDGsなどと言わずに多様なエネルギー源のひとつとして事業を開始していれば法令の枠組みに従うだけでよかったのではないか、という点についても言及しました。
今回は、本件に関連する書籍として植田(2023)をご紹介します。植田敦紀専修大学商学部教授は本書の中で会計学の立場から太陽光発電施設の環境債務計上について以下のように指摘しています。
太陽光発電設備は産業廃棄物であり、廃棄の際は法律に則り適切に処分しなければならない。したがって太陽光発電施設を取得、建設、開発した所有者、発電事業者が廃棄の際の法的義務を負っており、会計的には資産除去債務の対象となる。
植田(2023)、pp142
太陽光発電施設の除去は、企業会計基準第18号「資産除去債務に関する会計基準」の適用対象である。また環境省が2014年度に実施した太陽電池モジュールの撤去・運搬・処理に関する費用対効果分析によると、設定した全てのケースで太陽電池モジュールの撤去・運搬・処理の費用が便益を上回る結果となった。以上より、企業会計において太陽光発電施設の除去債務および除去費用の適切な会計処理の必要性を見出す。
植田(2023)、pp147
太陽光発電施設は取得時に、耐用年数終了時の除去費用を資産除去債務として全額負債計上する必要がある。つまり取得時に、除去時に発生する環境汚染に対して法に則り安全に処理しなければならない債務を負っている。このような除去債務は太陽光発電施設の正常な稼働に起因し、当初取得時点で予測可能である。したがって支払時期および方法が確定し、将来キャッシュフローが測定可能であるならば取得時に全額負債計上すると同時に、除去費用を太陽光発電施設の簿価の一部として全額資産計上する。また取得時以降も太陽光発電施設の稼働に伴い除去に際しての債務が新たに発生することも考えられ、追加債務は各期において資産・負債の増額として認識する。
植田(2023)、pp150
国の政策として、また国際的にも今後ますます再生可能エネルギーの開発と、火力発電からのシフトが進められていくであろう。しかし近視眼的にGHGの削減という一側面のみを捉えて推進するのではなく、太陽光発電施設全体のライフサイクルを考え、特に廃棄時における環境負荷およびコストを見積もり、法整備ならびに適切な会計的対応をしていかなければならない。
植田(2023)、pp151
まさに我が意を得たり。筆者も100%同意します。本書は、原子力発電施設の廃炉に関する会計、排出量取引の会計など興味深い論考が満載のため、企業家の皆さんにお勧めいたします。
本件について、植田教授に質問を送り何度かやり取りを行いました。前述のアカデミックな内容に加えて、実務家である筆者にとって大変示唆に富むご意見をいただきましたので、ご本人の了承を得て以下にご紹介いたします。
拙著について、ご意見ありがとうございます。
何となく埋もれていきそうな話題であると思いつつ、不十分な点も残していますが、スピードも必要なので、思い切って刊行しました。
環境債務について
環境法に則って対策することが義務付けられているものは、全て企業にとっての環境債務といえます。なお、環境法は何百とあります。
(ただしそれが会計上の環境負債になるかどうかは負債認識要件に合致するかで決まります)
環境債務を認識し会計対象とするプロセス
step1. 環境問題が起きる
step2. 環境問題に対して環境法が制定される
step3. 環境法に則って対策を行わなければならない→費用、損失、負債、引当金等が発生する
step4. 実務レベルで行われる対策を適正に認識・測定する太陽光発電施設の撤去やパネルの処理については環境問題を多く含んでいるにもかかわらず、このstepで環境法及び会計基準が制定されるに至っていないのが問題です。
現状太陽光発電施設が除去債務の対象となっていないのは、太陽光発電に特化した廃棄の法律が制定されていないためだと考えられます。
以前の私自身の指摘では、もっと大きなくくりである「産業廃棄物の廃棄」という規則に則って処分しなければならないと、現状存在するものから法的債務の要件を絞り出していますが、産業界は自社にとって財務的不利となる解釈はしないはずですから、これだけだと太陽光発電施設には資産除去債務の認識要件である「法的債務(legal obligation)」は存在せず、認識対象ではないという解釈になってしまうのでしょう。
しかし実態は明らかに有害物質が含有されており適切に処理しなければならないのです。かつ太陽光パネルの8割超が安価な中国からの輸入であり、有害物質の正確な情報さえ明確ではないという困難な状況になっています。
これは政府が再生可能エネルギーの導入を性急に推し進めたいという入り口にのみ重点を置き、そのパネルの有害性や安全な廃棄には対応していなかったことが大きな問題です。
また近年では、メガソーラーによる森林伐採や生態系破壊がより広大な環境問題として懸念されていますが、買い取り制度にのって開発した設置業者がこれらに責任を負うことはさらに難しいと考えています。
報道等ではあまり目にしない、会計学の見地から貴重なご意見をいただきました。IEEI読者諸兄の参考になれば幸いです。
僭越ながら筆者の私見を加えると、昨年度も太陽光パネルのリサイクル義務化法案が見送られたことも含め、法律の整備が進んでいない点は植田教授のご指摘の通りです。他方、SDGsやESGを謳うのであれば、企業の社会的責任として環境債務の把握・開示に真摯に取り組むべきと考えます。
参考文献
植田敦紀(2023) 「太陽光発電施設の除去債務の会計」『環境財務会計各論』専修大学出版局、pp109-151













