次世代地熱発電技術への取り組み

―わが国のポテンシャルを活かすことができるか-


国際環境経済研究所理事・主席研究員/東北大学特任教授

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(「産業環境管理協会 機関誌「環境管理」2025年12月号vol.61 No.12」より転載:2025年12月)

わが国は、化石燃料資源だけでなく、再生可能エネルギーの主力となる太陽光発電や風力発電に適した自然条件にも恵まれていない。平坦な土地に乏しく、日照や風況などは他国に大きく見劣りする。しかし、数少ないアドバンテージの一つが、地熱資源の豊富さだとされる。

とはいえ従来型地熱発電は、温泉事業者との調和の難しさや、地下を開発する事業リスクの大きさなどから開発が進みづらく、現状はわが国の電源構成の0.3%程度を賄うに過ぎない(2022年度実績)。

太陽光発電や風力発電の変動性がもたらす、系統安定化コストの大きさが見えてくるにつれて、世界的にも、安定電源たる次世代型地熱発電に対する関心が高まり、スタートアップの参入も相次いでいる。2025年9月に視察に訪れたドイツでの次世代地熱発電の実証事業の紹介も含めて、次世代地熱発電技術の全体像と展望について論じる。

従来型地熱発電技術の課題

従来型の地熱発電は、地下から取り出した蒸気でタービンを回して発電を行う。地下のマグマだまり周辺の岩石の熱で、亀裂から浸透した地下水が温められ高温の熱水となる。そうした熱水とそこから発生した蒸気が、キャップロックと呼ばれる層によって閉じ込められたのが「地熱貯留層」である。ここをめがけて生産井と呼ばれる井戸を掘り、噴出してくる蒸気でタービンを回すのだ。地熱貯留層は地下1~3kmの地点に多く存在することから、生産井の深さは主に1,500から2,000mとされる*1

わが国は火山帯に位置し、米国、インドネシアに次ぐ世界第3位の地熱資源に恵まれるが、現状、地熱発電の設備容量は合計約52万kWだ(2025年4月時点)。大型の火力発電所0.5基分にしかならない。特にわが国では、1990 年代後半以降20年以上開発が停滞したこともあり、社会からの認知の高さと比較して、導入が十分進んでいるとは言い難い状況だ。その背景には、地熱発電の課題がある。

まず事業リスクが他の発電方法と比べて圧倒的に高いことだ。十分な蒸気が噴出するかどうかは掘削して確かめなければならず、初期調査だけでも10億円以上かかるとも言われている。成功率は2~3割程度だ。技術が進歩しても、人類は地下の様子を目で見て確かめることはできないので、高い事業リスクを負うことになる。加えて、リードタイムが通常10年以上と長いことも事業者にとって負担となる。FITやFIPといった支援策が講じられたとしても、発電を始めなければ収入はないので、体力の大きな事業者でなければこうした投資に踏み切ることはとてもできない。

また、地中の蒸気が井戸の中を通るため、経年により井戸の壁面にスケールが付着してしまう。井戸を掘りなおししなければ運転を継続できないことも起こり得る。また、地熱発電資源が期待されるのは、山岳地帯である。送電網などの設備も脆弱であることが多く、発電した電気を「運ぶ」ための投資が必要になる場合もある。

他の発電技術と比較すると、難易度が高い事業であるため、政府は、環境影響評価の手続き期間短縮や、国立・国定公園内の規制緩和(建物の高さ制限の緩和や、第一種特別地域については地表に影響を与えないこと等を条件に、地下に斜めに掘削することを認める)、JOGMECによる地熱資源ポテンシャル調査の実施や助成金・地域理解活動の実施など、さまざまな支援策を講じてきた。しかしまだ、導入が加速するという状態にはなっていない。

地熱発電は、太陽光発電や風力発電と異なり、発電電力量が安定的で設備稼働率が高い。一般的には70%を超える稼働率が期待されており、政府の発電コスト検証WGが令和7年2月に公表した報告書では、稼働率83%を前提としている。太陽光発電や風力発電といった変動性再エネ導入が拡大した場合の系統安定化コストの大きさが明らかになるに伴い、水力発電と並んで安定的な自給エネルギーであり、脱炭素電源である地熱発電の導入拡大を期待する声は高い。第7次エネルギー基本計画では、2040年の電源構成の1~2%を地熱で賄うとしている。1~2%では大きなインパクトではないと思われるかもしれないが、現状が0.3%程度であり、さらに、電力需要が伸びる方向であることを考えれば、今後15年で相当程度の開発を進める必要がある。そこで期待されるのが次世代型の地熱発電技術だ。

次世代地熱発電技術への期待

従来型地熱発電が直面する、地下リスクの高さや温泉事業者との調整負担といった構造的課題を踏まえると、より革新的なアプローチによって地熱利用可能域を拡大する次世代型地熱発電技術への期待が、近年急速に高まっている。特に注目されるのが、(1)クローズドループ地熱、(2) EGS(Enhanced Geothermal Systems:拡張地熱システム)、(3)超臨界地熱の三つである(図1参照)。それぞれの技術を簡単に紹介したい。

図1 次世代型地熱発電の種類
(出典:資源エネルギー庁「次世代型地熱推進官民協議会」令和7年10月31日事務局資料)

1. クローズドループ地熱(密閉循環型地熱)

クローズドループは、地下に掘削した密閉型のパイプの中で水などの流体を循環させ、周囲の地熱で加熱された流体を地上で回収して発電に用いる方式である。蒸気そのものを取り出すわけではなく、流体を媒体として、熱だけを取り出す。従来型地熱は水、熱(マグマ)、亀裂という3要素を必要とするが、この方式であれば熱しかなくても発電が可能だ。

メリットとして、地下水系に干渉しないため温泉との競合が生じにくいことや、探査リスクの低減、また人工的に亀裂を作るEGSでは誘発地震のリスクが指摘されるがそれがないことなどが挙げられる。一方、デメリットとしては、回収する熱の量を増やすためには、坑井の距離を伸ばしたり、流体の熱交換率を向上させることなどが必要で、発電コストの低減に課題が残る。

中部電力や鹿島建設など日本企業が出資したことで話題になった、カナダのスタートアップEavor(エバー)はこの方式での開発を進めており、ドイツのゲレッツリードで建設中のサイトは筆者が訪ねた2025年9月時点で、もう数カ月以内に運転開始が期待されるとのことであった。

2. EGS(拡張地熱システム)

EGSは、透水性の低い高温岩体に人工的に亀裂を作り、水を循環させて蒸気を得る方式である。従来の「自然の地熱貯留層を探し当てる」手法から、「人工的に地熱貯留層をつくる」技術へと発想を転換する点が特徴だ。

メリットは、火山地帯に限定されないため資源活用のポテンシャルが拡大すること、従来型の“自然任せ”の蒸気発生に比べ、安定電源になり得ることなどが挙げられる。一方、デメリットとして、人工的に亀裂を入れる際の微小地震誘発リスクが挙げられる。実際、スイス・バーゼルでは、規制当局が地震のリスクが大きすぎるとしてプロジェクトを中断した。また、循環井の維持管理や長期的なリザーバー性能の予測など技術的課題も残る。

それでも、深部地熱の利用拡大を目指す多くの国で実証が加速しており、米国ではFervo Energy(ファーボ・エナジー)が油井開発技術を活用した実証に成功、Googleが24時間再エネ調達の一環として出資している。石油メジャーのシェルも同社と15年にわたる電力購入契約を締結するなど、注目が高い。次世代型地熱発電技術全般に言えることだが、従来の化石燃料掘削技術を活かせる領域として、グローバル資本が流入し始めている。

3. 超臨界地熱

超臨界地熱は、地下深部(一般に4~5km以深)で超臨界状態(高温・高圧)となった流体を利用する方式で、理論上は従来比10倍規模の圧倒的なエネルギー密度が得られる可能性がある。まさに“地球内部の巨大エネルギー源”を直接利用する構想だといえる。メリットは、高出力・高効率で、1地点あたりの発電能力が飛躍的に拡大することや、既存の地熱発電所の寿命延長や発電量増強にも応用可能なことなどが挙げられる。

一方、デメリットは、超高温・高圧の環境に耐える掘削技術や坑井材料が確立していないことである。井戸内の温度は400℃以上に達するとされ、従来の掘削設備では対応が難しい。また、高深度掘削には巨額のコストがかかり、商用化には時間を要すると見込まれる。

実証事例としては、アイスランドのIDDP(Iceland Deep Drilling Project)が世界的に有名で、5,000m級の掘削で超臨界条件の達成に成功している。日本でも産総研やJOGMECが技術研究を進め、国内火山地帯でのフィージビリティスタディが開始されている。マサチューセッツ工科大学発のスタートアップであるQuaise Energy(クエイズ・エナジー)は、ミリ波掘削技術を活用して深部の高温岩体での地熱開発に挑戦しており、三菱商事が2024年2月に同社に出資している。

ドイツにおけるクローズドループ実証事業視察

こうした状況において筆者は、2025年9月、欧州出張の機会をとらえて、ドイツのゲレッツリードまで足を伸ばし、Eavor社が取り組むクローズドループ方式の地熱発電を視察した(図2、3参照)。上記に紹介した次世代型地熱発電技術はどれも革新的技術として期待されるものの、EGS水圧破砕法を用いた場合の化学物質による地下水の汚染や大量の水使用に伴う水不足、微小地震を惹起する懸念がある。シェールオイル・シェールガスの掘削でその技術利用に対して許容度のある米国以外では、なかなか受け入れられづらいのではないかと考えられる。また、大深度の掘削を必要とする超臨界は技術の実装が若干先になるのではないかと考えており、筆者は次世代型地熱の中ではクローズドループ方式に最も高い関心を寄せていた。

ミュンヘン郊外の実証サイトは、のどかな農村地帯の集落からほど近い場所に突然現れる。ここでは、地下約5,000mまで掘り進み、その後水平方向に24本の水平坑を通してそれを循環型にする。これを1ループとして、最終的にはここで4ループを設置する計画だ。

図2 設備構成図
(出典:資源エネルギー庁次世代型地熱推進官民協議会第1回 中部電力提出資料)

試運転が始まる直前であったので、運転開始以降とは状況が異なるだろうが、筆者が訪問した当時は極めてサイト内は極めて静かであった。最も近い住宅は、サイトから1.5キロほどのところにある農家だそうだが、工事中の騒音等に対する苦情もなかったという。

集落から近いところにサイトがあることで、発電事業だけでなく、熱供給事業が可能となる。このプロジェクトは、EUのファンドから9,200万ユーロの資金支援を受けているし、発電が開始すればFITにより20年間約250ユーロ/MWhでの買取が決まっているが、開発コストが極めて大きいことから、電気だけでなく、熱も売るということが経済性向上のためのカギとなる。わが国でも次世代型地熱発電の導入を進めるのであれば、熱利用も併せて進められるかがプロジェクト成立の一つのカギとなるだろう。

図3 森に囲まれたゲレッツリードのサイト

集落の近くで大規模施設の開発・運転を行うことは地域理解の観点から難しいことが多いが、このサイトの特徴として、以前、従来型の地熱発電所の開発が進められたもののそれがとん挫した経緯があるという。そのため地域住民の地熱発電導入に対する理解や期待があること、また、送電線などは既に設置済みであることなどが有利に働いているとのことだ。

同じ場所で複数のループを掘るため、技術の習熟が進みやすく、このサイトでも1ループの最後の水平坑掘削時間は最初のそれに比べて半減したという。

石灰岩の単純な地層を持つこの地域と異なり、わが国の地層はより複雑であること、また、化石燃料を産出しないわが国では、石油やガス掘削の技術に強みがあるとは言い難く、近年利用されるようになった斜め掘の技術も育っていない。今後こうした実証事業により技術が成熟し、発電コストが低減することが前提であるが、加えて、わが国においてこの実証事業の経験を活かしてクローズドループ方式の地熱発電を実装するには、さらなる課題解決が必要とされるであろう。しかし実際に中部電力株式会社の技術者がサイトに常駐して、この経験を共有していることは将来極めて大きな糧になると期待される。

次世代型地熱がもたらす可能性と日本の戦略的意義

次世代型地熱は、従来型が抱える「資源調査リスクの高さ」「適地の限定性」「社会受容性の壁」といった課題を根本から乗り越える潜在力を持つ。従来型地熱発電のタービン製造においては、日本企業が世界シェアの7割を占めるなど、強みもある。次世代地熱は単なる電源拡大策を超え、国内産業の新たな成長領域としての意義も期待される。

石油・ガス産業が既存の掘削・貯留層管理技術を再生可能エネルギー分野に転用する流れができつつあり、海外ではスーパーメジャーがこぞってスタートアップと提携し、地熱を“次の巨大市場”として位置付け始めている。

日本でも、火山国としての優位性を活かして実証を行い、技術の習熟とコスト低減を急ぎ、海外の開発案件にもわが国が技術を供与できるようになることが求められる。過度な期待は禁物だが、次世代地熱は、従来型地熱の課題に対する「代替策」ではなく、地熱資源の利用可能性を飛躍的に引き上げる「ゲームチェンジャー」になり得るかもしれない。事業リスクが高く、開発期間が長いという導入のハードルを乗り越えるには、規制緩和や支援の制度設計を含めた官民連携の強化が必要であり、それが地熱大国・日本の潜在力を現実のものとする鍵となるだろう。

*1
環境省[2011]によれば、我が国の事業用地熱発電所の生産井の深さは350m~3,250mとされ、開発地域の状況によって幅が大きい。

参考文献

1)
独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)ウェブサイト“地熱発電とは?その仕組みからメリット・デメリットまで解説”
2)
日本地熱協会 ウェブサイト図
3)
NDO 再生可能エネルギー技術白書第2版 第7章「地熱発電」
4)
NEDO TSC Foresight 地熱発電分野の技術戦略策定に向けて
5)
竹内[2017] 国際環境経済研究所ウェブサイト掲載「再エネの現場を歩く-再エネ全量固定価格買取制度(FIT)4年半を総括する-」
6)
環境省[2011] 「平成23年度 地熱発電事業に係る自然環境影響検討会資料」一部修正 参考資料1
7)
資源エネルギー庁[2024] 第96回 調達価格等算定委員会 日本地熱協会提出資料
8)
資源エネルギー庁[2024]「地熱発電の開発促進に向けて」
9)
資源エネルギー庁[2025]「次世代型地熱推進官民協議会 中間取りまとめ」
10)
JOGMEC[2025]資源エネルギー庁次世代型地熱推進官民協議会 第1回 JOGMEC提出資料
11)
三菱商事[2025]資源エネルギー庁次世代型地熱推進官民協議会第2回 三菱商事提出資料
12)
中部電力[2025]資源エネルギー庁次世代型地熱推進官民協議会第1回 中部電力提出資料
13)
九電みらいエナジー株式会社[2025]資源エネルギー庁次世代型地熱推進官民協議会 第1回九電みらいエナジー株式会社提出資料
14)
Google cloud[2021]新しい地熱プロジェクトで、24時間365日のカーボンフリーエネルギー化に全力前進(2021年6月7日)
15)
読売新聞2024年11月9日「地熱発電の開発促進へ、国が掘削調査し支援…多額の費用や地元との調整を肩代わり」