航空の脱炭素、解決策か?バイオ燃料の今(上)
-トランプ大統領のテコ入れ、新産業への期待に湧く米国―
石井 孝明
経済記者/情報サイト「withENERGY」(ウィズエナジー)を運営
「SAF」(Sustainable Aviation Fuel(持続可能な航空燃料))を使い、燃料の面から航空産業の脱炭素を進めようという動きが世界各国で始まった。米国ではトウモロコシ由来のSAFの製造業を政府、民間が育成しようとしている。そして重要な顧客として、日本が期待されていた。米国現地を訪ねて関係者の話を聞いた。
筆者は、2025年6月にSAFの原料となる米国産バイオエタノールの現地取材のリポートをIEEIに掲載している。米国のSAFはバイオエタノールを加工して作るものが中心になる。
・バイオエタノール、大統領から農家まで日本への輸出に期待【米国取材報告 上】
https://ieei.or.jp/2025/07/ishii_20250704/
・バイオ燃料、「食糧を燃料に使うな」批判をどう乗り越えるべきか?【米国取材報告(下)】
https://ieei.or.jp/2025/07/ishii_20250707/
「トランプ案件」になったSAF
「SAFはトランプ大統領自ら関わる重要な政治問題になっています」。首都ワシントンで農業団体のロビイストは現状を説明した。ロビイストとは、企業や団体などの利益代表として議員や政府関係者に働きかける専門家のことで、米国の場合は登録制だ。このロビイストは弁護士・法務博士で弁が立ち、政治の裏表に詳しかった。
2025年のトランプ政権が発足した後で、このロビイストは戸惑ったという。バイデン政権と民主党の議員らは、「エコ」という言葉に飛びつく傾向にあり、バイオエタノールを巡る要請では「脱炭素」の面を押し出した。一方でトランプ大統領と与党の共和党議員の多くは、「エコ」という言葉が嫌いで、「トランプの言葉でバイオ燃料を語るようにした」という。トランプ政権のスローガンである「アメリカ・ファースト」という言葉に対応し、「バイオエタノール、SAFは米国農家の利益になる」と強調している。そして今は、SAFへの支援、制度作りにも、現政権は協力的で、「大統領の関心も高い」という。
米国では、トウモロコシ由来のバイオエタノールが自動車向けの混合燃料として定着している。その製造で、全国で10万軒以上の生産農家、直接雇用約5万5500人、間接雇用約26万人に収入をもたらす巨大な産業になっている。これを再加工するSAFによって、この産業はさらに発展する可能性がある。当然、政治影響力も強い。「共和党、民主党の政治的な立場に関係なく、バイオ燃料の拡大と政治の支援は続く。米政府からの日本への購入のお願い、ビジネスの売り込みも続くだろう」とこの人は述べた。
日本政府、世界の航空業界も
そして日本は、政府としてSAFの購入を米国に約束している。米国は主要国と関税交渉を行なっているが、日本との間で2025年7月にそれは大筋合意した。米側が出したファクトシートには次のように書かれている。「日本は、大豆、トウモロコシ、バイオエタノール、SAF(持続可能な航空燃料)などの農産物を80億ドル規模で購入する」。(ホワイトハウス発表文リンク)https://www.whitehouse.gov/fact-sheets/2025/07/fact-sheet-president-donald-j-trump-secures-unprecedented-u-s-japan-strategic-trade-and-investment-agreement/
日米両政府は合意を意図的にあいまいにしているようで、SAFやバイオエタノールの購入期限、その購入の形などは、25年12月になっても決まっていない。ただしバイオ燃料の購入は、25年2月の石破茂前首相との日米首脳会談でトランプ大統領が自ら議題にしたという。トランプ大統領は他国でも、このバイオ燃料の売り込みに熱心だ。前述のロビイストの指摘の通り、SAFの販売拡大は大統領案件になっている。
SAFの拡大は全世界的な流れだ。国際民間航空機関(ICAO、イカオ)は、温室効果ガスの削減で、2050年までにカーボンニュートラルを達成する目標を掲げている。その目標を達成するため、「国際航空のためのカーボン・オフセットおよび削減スキーム」(Carbon Offsetting and Reduction Scheme for International Aviation、CORSIA、コルシア)」という国際的な枠組みが作られた。2021年から、その規制が始まっている。その主な削減方法はSAFの使用だ。航空機エンジンは、燃料を燃やして推進力を得るためにどうしても二酸化炭素を排出してしまう。だから燃料を脱炭素して、カーボンニュートラルを目指そうとしている。
日本政府はSAFの使用拡大を計画している。経産省と国土交通省、そして石油会社、航空会社は、「持続可能な航空燃料(SAF)の導入促進に向けた官民協議会」
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/saf/index.html
を2022年に立ち上げた。この中で2030年までに、国内航空会社の燃料使用量の10%をSAFに置き換えることを目標としている。そして経産省はGX経済移行債で予算を確保し、供給体制の整備支援を行う姿勢を表明している。
SAFの値段を下げたい、航空業界の願い
日本の場合は、料理や工業の廃油、ゴミから、SAFを作ろうという動きがある。しかしまだ実証研究や、試験的製造の段階で、その規模や供給体制がどのようになるか、完全に見通せない。SAFの商業生産が始まった米国とは差がついている。
米国取材ではワシントンで、米国主要航空会社で構成する航空業界団体の幹部と話した。米国の航空会社は、温室効果ガスの削減に協力することに異論はなく、その中心はSAFの使用になるという。しかし、割高なSAFの値段を運賃になかなか転嫁しづらいという。各社は試験的にネット予約で、航空運賃に、SAFの追加料金を自ら支払える仕組みを作ったが、割増料金を自分で支払う顧客はほとんどいないという。
2025年12月時点で、航空燃料の値段は1リットルあたり0.6〜0.9ドル程度だ。SAFは米国でその1.7〜2倍程度する。航空会社の経費の2~3割が燃料費という。経営のためにSAFの価格の低下がどうしても必要になる。「SAFの需要と供給が共に増えれば価格は安くなり、また安定するだろう。SAFの使用を各国の航空会社に働きかけたい。日本の政府や航空会社にも協力を期待している」とその幹部は話した。
それでは、アメリカの生産の状況はどうか。「(下)米国でSAFの商業生産始まる」では、その現状を伝える。
なお公平性のために言うと、この取材は、米政府と業界団体に、一部支援をいただいている。ただし、それに配慮することなく、取材で私の見た事実とそれにより抱いた筆者の感想を示す。














