エネルギートランジション‐欧州の現状を中心に‐(講演要旨)


一般社団法人 海外電力調査会 調査第一部長

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欧州では「気候変動対策としての脱炭素化」から「エネルギー安全保障のための脱炭素化」へ重点がシフトしてきており、ロシア産化石燃料からの脱却を目指した「REPower EU」からの流れを汲みつつ、その後の地政学的変化を踏まえて、エネルギートランジションの現実的な意味合いが一層増大してきている。あわせて 、エネルギー価格の安定が指向されており、産業界、有識者からは、グリーンバブルから現実路線になったとの声が聞かれる。

国際天然ガス市場は2022-2023年の供給ショック以降、段階的リバランスのフェーズに移行しており、これから2030年に向けて、米国、カタールを中心に供給能力が大きく増加する。これらネクストウェーブ・プロジェクトは、供給のセキュリティーと価格のアフォーダビリティーに貢献することが見込まれる。中長期的には、エネルギー全体バランスにおける天然ガスの位置づけの低下が想定されている欧州にとっては、価格ボラティリティーの可能性は残しつつも、量的には充足された環境が実現する。

一方で、再エネが系統電力の50%を超えた状態となっている欧州では、「イベリア半島での大規模停電」、わずかな気象予測のズレによって、数百万kW単位の需給ギャップが突如として発生するドイツでの「暗い凪」など、電力系統に関わる課題も顕在化している。寧ろ、インフラ(電力系統)の課題が先のような政策方針のもとでの脆弱性とレジリエンスの問題としてクローズアップされる。

出典:ENTSO E, Grid Incident in Spain and Portugal on 28 April 2025 Factual Report

欧州では、「中国との補完的な経済関係、米国による安全保障と良好な経済関係、ロシアからの安価なエネルギー供給」から、「中国、米国による経済依存を盾にとった外交圧力、安定・安価なエネルギーの確保の切実な問題」に変化してきた外部環境に加え、「電化・脱炭素化の進展と電力系統制約の顕在化」や「既存の系統整備スキームの限界」、「データセンタービジネスの成長と供給力の確保」など、将来の成長と現在直面する課題のジレンマを抱えている。

欧州の抱える課題を最も顕著に表しているケースとして、ドイツでは、「エネルギートランジションに対する幅広い支持」から「エネルギー或いは電力価格のアフォーダビリティー」、「国際競争力回復」へシフトした政策、気候・変革基金(KTF)からの財政出動を伴うエネルギーコスト低減に向けたアクションがとられている。

出典:ドイツ連邦政府、連邦財務省プレスリリースをもとに海外電力調査会作成

さらに、前出の「エネルギートランジションに伴う系統ニーズへの対応」という課題への技術的対応について、インテリジェント・グリッド、ITとOTの融合が提唱されるが、サイバーセキュリティー対策に加えて、IT/OT組織文化の違いなど乗り越えるべき課題は多い。我が国にも起こり得るこれらの課題に先行して直面する欧州の動向に今後も注目していきたい。