「強い経済・強い日本」 の実現のためには
盤石のエネルギー政策に裏付けされた成長戦略の成功が決め手です!
印刷用ページ(「日本原子力学会シニアネットワーク連絡会 ホームページ」より転載:2025年11月20日)
(本稿執筆者 エネルギー問題に発言する会有志 針山日出夫(取り纏め)、石井正則、松永一郎)
以下は、高市総理宛に発出した書簡のエッセンスを紹介するものです。
【総理宛書簡抜粋】
総理は、従前より我が国の発展には「経済安全保障とエネルギー安全保障」の同時強化が不可欠であり、このためにはエネルギー自給率の抜本的改善が重要であることを強調されています。さらに、自給のエネルギーによる安定供給を最優先とするとともに、再生可能エネルギーについては国益に資する範囲で最大限活用することが肝要であるとのお考えを示されており私どもはこうした総理の方針を高く評価し、心より賛同申し上げます。
以下私どもの提言の要諦を簡潔に申し述べます。盤石のエネルギー政策の実現に向け総理の強固な信念と力強いリーダーシップの発揮をお願い申し上げます。
【提言骨子】
(1)盤石のエネルギー政策が日本の生命線です
世界は現在、戦後80年間に築かれた国際秩序の再構築が求められており、我が国としてはエネルギー安全保障上のあらゆるリスクを精査したうえで自主・自立技術による電力安定供給を最優先することが肝要です。2050年には革新軽水炉を主体とする原子力発電による発電量を30%程度(毎年1基~2基新設するペース)まで引き上げ、再エネ(水力、地熱、太陽光、風力、バイオ)を30~40%程度として脱炭素電源(=原子力+再エネ)を60%程度以上とする電力安定供給構造の確立が望まれます。また、一定の低炭素火力発電(最先端の石炭火力、LNG火力)の活用も命綱的役割があり引き続き必要であると思料します。(補足1参照)
(2)原子力の最大限活用のための事業環境整備が喫緊課題です
現下の原子力を巡る諸課題(原子力への国民理解の促進、再稼働促進、六ヶ所再処理施設の稼働、高レベル放射性廃棄物最終処分地の選定等)への迅速な処置並びに原子力発電所新規建設に向けた事業環境整備(原発新設敷地の確保、初期投資への公的支援、事業採算の予見性付与、規制改革による合理的規制活動の担保)等を総合的に解決するための制度設計と法制化が急がれます。
このためには、原子力に対する国のコミットメントを政治面・行政面で一層揺るぎないものにするための政策パッケージや関連法規の改正、並びに新規法制化などを束ねたいわゆる束ね法案(仮題:原子力事業環境整備法案)を整備することが実効性ある手法と考えます。これらを最速・確実に実現するには国民理解を大前提として、危機管理能力と戦略的発想を備えた総理大臣直轄の司令塔機能の設置が有効と思料致します。(補足2、3、4参照)
【添付:補足資料】
【補足1】2050年エネルギーミックスと原子力発電の規模について
<2050年の発電比率ベストミックス>
昨今の大規模太陽光発電による環境破壊の弊害や、洋上風力発電の技術的、経済的成立性の困難さに鑑みると、エネルギー起源の温室効果ガス排出量ゼロを目指すとしても、太陽光と風力発電の伸びは期待出来ません。これらを踏まえると、以下の発電比率が現実的な最適比率と考えます。
再生可能エネルギー:約30~40%
原子力:約30%
低炭素火力:約30%
<2050年の原子力発電の規模>
原子力発電量を年間総発電量1.4兆kWhの30%とした場合の原子力発電の規模は以下の通りです。
原子力発電の年間発電量:約4200億kWh
原子力発電設備容量:約6000万kW(稼働率80%を想定)
原子力発電炉の基数:約50基(120万kW/基として算出)
原子力発電所の運転期間を60年とすると2050年における運転可能な既設炉は21基、新規投入が必要となる原子力発電炉は30基程度となります(他律的要素による停止期間のカウント除外は勘案せず)。新規建設には15年~20年程度のリードタイムが必要で、2035年以降は年2基程度のピッチでの完成を目標とした計画が必要です。新規原子力発電所建設計画を速やかに立案し、官民が総力を挙げて強力に進める必要があります。
【補足2】原子力最大限活用に係わる国民理解促進について
原子力の長期に亘る最大限活用のためには国民理解が大前提です。しかし東電福島第一原子力発電所事故から14年が経過した今もなお国民の反原発センチメントはリセットされず、行政・事業者に対する不信は払拭されたとは言い難い状況です。
この状況を改善するには、①国が原子力に対する不退転のコミットメントをすること、②国は原子力が日本にとって必須な電源であることを明確に示すこと、③国は原子力が安全に運転される要件が整備されている実態を分かり易く説明すること、が肝要と考えます。
具体的には、成長戦略の一環としてのエネルギー計画と原子力の最大限活用計画を国会で幅広く議論し、国民への「見える化」を図ることが求められます。革新炉の計画状況や進捗状況の広報・広聴に努め、原子力利用による国民生活及び国内産業への恩恵についても官民協力して適切な情報発信に取り組むことが望まれます。さらに、小中高生を対象にエネルギーに対する関心を醸成し理解を深めるために、学校教育の現場でエネルギーに関する知識を学習する機会を設けることも重要です。
【補足3】原子力事業環境整備について
安定したエネルギー供給は、豊かな国民生活、持続的な経済産業活動並びに社会インフラ機能に不可欠な生命線です。国産技術による自前の安定した大容量発電方式で一番頼りになる優等生は原子力発電です。原子力を巡っては現下の諸課題(既存原発の再稼働最速促進・六カ所再処理施設の稼働と安定操業・高レベル放射性廃棄物最終処分地の選定等)の解決に向け事業者等が奮闘努力中ですが、国のより一層の強力な支援が必要です。
一方、2050年を見据えて脱炭素電源を60%程度に持ち上げるには、総発電量に占める原子力の比率は30%程度が望ましいと言えます。原発の建て替えの他に新規立地による120万kW級の新規原子力発電炉が総計30基程度は必要になると想定されます。一方現実は、原子力発電建設用の敷地の確保は十分出来ておらず、また電力事業者の経営体力は著しく低下し資金余力はない状況です。したがって、敷地の確保と初期投資へのファイナンス環境整備などへの政府の力強い支援が必要であり、これらを含めた原子力事業の環境整備のための法制度の整備が喫緊課題です。これらを「我が国のエネルギー安全保障のリスク」を払拭する危機管理政策として強力に推進する必要があります。
【補足4】原子力の活用推進に係る司令塔設置について
原子力利用を遅滞なく力強く推進するためには、国として確固たる司令塔が必須です。東電福島第一原子力発電所事故以前は原子力委員会が原子力産業界、研究機関、大学、立地地域自治体等の協力の下、その任に当たっていましたが、事故後その権限が大幅に縮小され、以降、長期的な見通しのある原子力政策を立案し、遅滞なく原子力の利活用を推進する常設の司令塔が存在しません。これらの諸課題を一元的に計画し、推進、管理・監督するためには総理大臣直轄の司令塔が是が非でも必要です。
司令塔の役割としては、国として国内外の情勢を見極めつつ、既設炉の再稼働推進、新設炉の計画立案・財政を含む事業環境の整備、国民・立地地域住民の理解促進等が重要であります。さらに、使用済燃料の中間貯蔵施設の設置あるいは発電所ごとの乾式貯蔵、再処理工場の早期の立ち上げ、高レベル放射性廃棄物の処分場の確保など解決すべき課題が山積しており、広く原子力利用に関して国民の理解と信頼を得る方策を立案することも重要な課題です。この中でも、高レベル放射性廃棄物の処分場の確保は諸外国と比較しても立ち遅れており、これまでの山積する廃棄物の処分は原子力発電の恩恵を受けた現世代の責任であり、是が非でも国会において適切な処分場の確保を決めていただくことが国民の理解にも通ずることであると確信しますので、司令塔の下での重要課題とされることを期待します。
さらに、現在の原子力の置かれている状況は、既設炉の再稼働は徐々に進んでいますが、東電福島第一原子力発電所事故以前の活力に満ちた原子力発電所の新設、30%以上の原子力発電比率を築いた状況の再構築には程遠く、産業界は活気を欠いています。この影響は技術者も将来に希望を持てず職場を変え、サプライチェーンの断絶や若者の原子力離れをもたらしています。原子力再興の時期を失すると原子力の開発・建設技術が消滅することが危惧されます。本件も司令塔でしっかりと扱っていただきたい課題であります。












