バイオエタノール、大統領から農家まで日本への輸出に期待【米国取材報告 上】


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(写真1)輸送手段の脱炭素のため注目されるバイオエタノール(イメージ iStock より)

 

注目される米国産エタノールの状況を取材

トウモロコシから作る燃料のバイオエタノール。米国で自動車向けのガソリンとの混合燃料として定着し、航空機燃料などにも用途が広がっている。トランプ大統領はこの輸出拡大を目指し、2月の日米首脳会談で自ら日本の購入への期待に言及した。継続中の日米貿易・関税交渉で、両政府はその対日輸出拡大を協議している。

このバイオエタノールに関わる米国の人々の考え、そして利用の課題はどのようなものか。それを6月初旬に現地取材した。関係者はそろって日本への輸出拡大に期待していた。一方で日本が向き合う課題も見えた。その情報を基に、日本には目新しいこのエネルギー商品の先行きを読者と共に考えてみたい。

この記事の公正さのために述べると、米国の穀物業界団体による日本のメディアを案内するプレスツアーに参加した。

攻めの経営をする米国農家

 

(写真2)イリノイ州で視察した農場、2240ヘクタールもあった。(エネルギーフォーラム提供)

 

地平線で見えなくなるまでトウモロコシが植えられていた。秋の収穫に向けて元気に育ち、地面が緑一色だった。ここは、イリノイ州にあるトウモロコシと大豆を生産するポール&ドナ・ジェッキー農場だ。名前の通りポールさんとドナさんの夫婦が、2240ヘクタール(ha)の農場を経営している。4代続く農家だ。日本の農家の面積の平均は3.1ha、東京ドームの面積が4.6haであることを考えると、その広大さは印象的だ。

隣の甥の家族、もう一家族の3家族で、農機具をシェアし、また繁忙期に手伝いあうことで、効率化を実現しているという。機械化が進んで昔のように農場労働者を大量に雇う必要はあまり無くなった。栽培するトウモロコシの大半は人間の食用ではなく、飼料とバイオエタノールのいずれにも使えるデントコーンだった。

収入は明確には言わなかったが、同行した米国の業界団体の人は「この規模なら200万〜300万ドル(2億9000万円〜4億3500万円)を超えていてもおかしくない」と話していた。家も豪邸で、農業器具も最新のものだった。米国は先進工業国では珍しく、農業大国でもある。多くの収入を得られるから、優秀な人が集まるのだろう。

農地では密集してトウモロコシが植えられていた。「品種改良で、密集して植えても風水害で倒れず、病気にもかかりづらくなっている。遺伝子組み換え、ドローンや衛星写真による農地管理など、最新の農機具や技術を使い、単位面積あたりの収穫を増やし、労働力を節約している」とポールさんは話した。

ポールさんはやり手の経営者という感じだ。自らサイロ(貯蔵倉庫)を持ち、シカゴで運営される穀物相場の値段を見ながら、一番高く買ってもらえる穀物商社や、エタノール工場に売っていた。「政府や穀物商社は必要だけど、口出しは最小限にして自由に商売させてほしい」という。

そして国際情勢にも敏感だった。トランプ大統領が日本をはじめ、多くの国にエタノールを売ろうとしていることは歓迎していた。しかし貿易戦争で輸出が停滞することも警戒していた。「中国も日本も、重要なお客様だ。ただ私は外交を動かせない。私が一生懸命作っているトウモロコシを、日本の人々が飼料やエタノールで使ってくれると励みになる」と述べていた。

安さが魅力、消費者が自分で燃料を選択

それではバイオエタノールは、どのようにアメリカで売られているのか。エネルギー小売り事業を営むパワー・グループが経営する、シカゴ近郊のガソリンスタンドを訪ねた。アメリカでも日本と同じように、エンジンの効率化や自動車の電化でガソリンの消費量が伸び悩み、スタンド経営は厳しいという。ここでは給油所だけではなくホームセンター、コンビニ、レストラン、EV充電所などを併設し、売り上げを伸ばしていた。

ここのスタンドでは、アメリカらしく自己責任で使う燃料を自分で選び、混合できる状況になっていた。ステーションの地下には、オクタン化とエタノール混合率を変えた、複数のタンクが置かれ、顧客がそこから混ぜて、燃料を購入できる。普通のガソリン車のエンジンでは、10%以上の混合燃料による長距離の走行では、ノッキング、不完全燃焼が起き、エンジンが故障しやすくなる可能性があるという。

 

(写真3)ガソリン・エタノールの混合燃料の販売機。割合を顧客が自分で調整できる。

 

取材時点(2025年6月)のここでの燃料価格だが、1米ガロン(約3.8リットル)で無鉛ガソリンは3.35ドル(1リットルで約128円程度)、ディーゼル3.55ドルと日本に比べるとかなり安い。そしてE30(エタノール混合率30%)が3.05ドル、E50が2.85ドル、E85が2.55ドルと、さらに安くなっていた。原油、そしてトウモロコシの市場価格次第だが、エタノールはガソリンよりも安くなる傾向にある。

給油をしている人に話を聞いた。この人は愛車のジャガーを改造し、E85(エタノール含有率85%)を使えるようにしていた。バイオエタノールを「ハイパフォーマンス。エンジンは長持ちするし、よりクリーンだ」と話していた。

この小売グループのサム・オデイ社長は、次のように述べた。「エタノールは地産地消エネルギー。環境性もあり、石油燃料の削減につながるだけではなく、消費者の負担も節約する。いいことだらけのエネルギーだ。日本もぜひ買ってほしい」。

脱炭素にも貢献できる期待のエネルギー

脱炭素に貢献するかが、今のエネルギー選びで重要な論点だ。バイオエタノールのその面について、イリノイ大学シカゴ校エネルギーセンターのステファン・ミューラー氏に話を聞いた。エネルギーのライフサイクルの専門家だ。

植物由来のバイオエタノールは温室効果ガスの排出が、カウントされない。カーボンニュートラルという考えで、生育の途中で取り込んだ二酸化炭素を、また大気中に戻すと判断するためだ。製造工程での二酸化炭素排出量が問題になる。それは栽培や工程の効率化が進み、過去20年で大きく低下した。ライフサイクルで見ると、バイオエタノールの近年での二酸化炭素の排出量は同じエネルギー量を出すガソリンのそれの半分以下になったという。

また供給も問題ないそうだ。「米国農業の強さ、品種改良やITの利用で面積あたりのトウモロコシの収穫量は毎年増えている。需要が増えても、不足する可能性は少ない。バイオエタノールは過渡期の燃料ではなく、脱炭素の手段として輸送を支え、脱炭素化を進める主要なエネルギー源になれる」とミューラー氏は分析した。

もちろん売りたい人たちの提供する情報ではあるが、取材ではバイオエタノールをめぐり良い話ばかりとなった。価格は安く、脱炭素に貢献する。それでは、政策からの後押しはどうか。

「バイオ燃料、「食料を燃料に使うな」批判をどう乗り越えるべきか?【米国取材報告(下)】」に続く