竣工に向け最終段階、日本原燃の六ヶ所再処理施設-今度は大丈夫か?


経済記者/情報サイト「withENERGY」(ウィズエナジー)を運営

印刷用ページ

青森県六ヶ所村にある日本原燃(株)(増田尚宏社長)を、2025年4月末に取材した。中核となる再処理工場は2026年度中の竣工を目指している。厳重なセキュリティチェックを経て、サイクル施設の現況を取材することができた。延期は27回にもなっている。しかし日本の原子力発電を持続するために、その竣工を実現してほしい。

再処理工場等の全景。工事の進捗によって状況は日々変わる。
多くの設備の近影は安全対策のため、公開されていない(原燃提供)

再処理工場の竣工は延期

筆者は同所を2023年3月末に訪問し、それを「完成目指す青森県・六ヶ所の核燃料再処理施設、現状を取材」という記事にまとめ、IEEIで報告した。ここには、日本の国策である核燃料サイクルのための重要な施設が集まる。

再処理工場は、使用済み原子力燃料からウラン、プルトニウムを抽出し、高レベル放射性廃棄物を分ける。プルトニウムは、それを使うプルサーマル発電向けのMOX燃料(ウラン・プルトニウム酸化物混合燃料)の材料となる。

前回の訪問の際に、日本原燃は2024年の再処理施設の竣工を目指していた。しかし24年8月に同社は竣工を「2026年度に延期」を決定、公表した。それを含めて27回の延期となっている。遅れは残念で、原子力関係者の期待を失望させるものだった。

再処理工場は1993年に着工した。2011年の福島原子力事故の後、翌年に原子力規制委員会、原子力規制庁が設置され、規制体制が一新した。2013年12月に施行された新規制基準では、巨大地震や津波など大規模な自然災害への対策や重大事故対策が追加された。それに基づく再処理施設でのルールづくりや工事に時間がかかった。また同社の事業管理能力の力不足もあったという。

今回は遅れが続くことを反省し、大会議場に社長以下、各部門の管理者を集めて、横のつながりを良くした。そして規制当局との打ち合わせを密にしている。「現時点で工事は順調に進んでおり、特段のトラブルなどがない限り、予定通りの竣工になる見通しだ」(日本原燃広報)という。

核燃料サイクルを実現する重要施設

この再処理施設の意義は大きい。原子力発電の運用を持続的に行えるようになるためだ。日本には2023年12月末時点で約1万9000トン(ウラン分)の使用済み原子力燃料がある。これらは原子力発電の事業者 10電力の保有分だ。この六ヶ所の再処理工場は、年間800トン(同)の処理を行う能力を持つ。これまでの試運転で425トン(同)を再処理済みだ。

日本は、原子力基本法に基づき原子力の研究、開発及び利用を厳に平和の目的に限っており、使用済み燃料の中に含まれるウランやプルトニウムといった放射性物質を厳格に管理することを国際公約としている。特に核兵器に転用可能なプルトニウムについて、それを減らす意向を示している。核燃料サイクルが動き始めると、使用済み原子力燃料が再利用されることに加え、プルトニウムも減らせる。

再処理工場は国内では茨城県東海村に日本原子力研究開発機構の小規模な施設があるだけだ。世界でも現時点では商業炉向けには、フランスのラ・アーグ工場でしか運営されていない。それが日本国内で行われることは、コスト、輸送や管理の安全などを考えると、非常に大きなメリットがある。

「化学工場」の集合施設、安全対策は一層強化へ

今回の視察で改めて印象に残ったのは、再処理工場は「化学工場」の集合ということだ。使用済み燃料を受け入れ、剪断(せんだん)、溶解する。それを化学反応でウランとプルトニウムとその他の物質と分離して、MOX燃料の材料を製造する。放射性物質を扱うものの、核分裂反応を引き起こして発電する原子力発電所とは全く構造が違う。

そして前述のように世界でもこの事業の類例が少ない。日本原燃が独自でその安全対策、規制のルールを当局と作り、設備を建設して稼働することは大変なことだと理解できた。

再処理工場では、安全性を一層強化するための工事が行われていたことは前回のルポで述べた。それに加えて、人の面でも、安全を高める訓練が行われていた。自然災害や火災対応などに備えるためだ。

一例として日本原電は行政の消防・防災に加え、自社で消防班を作っている。取材当日、社内の消防班による放水訓練が行われていたので見学した。重装備をつけた男性社員たちが、短時間で消防車を配置し、給水・放水を始めた。安全性が社員の努力によって高められていた。

新規制基準の対応工事に加え、2027年度中の竣工を目指しているMOX燃料工場の建設も本格的になっている。MOX燃料はウラン・プルトニウム混合酸化物で、その専用炉で使うことで、プルトニウムを消費できる。社員も含め毎日約8000人の人が集まって、建設作業に従事する。

さらに日本原燃の事業には青森県民の期待も大きい。1985年4月に同社の前身の事業者と県、六ヶ所村が立地基本協定を結んで今年で40年になる。青森県での日本原燃グループの投資による地元企業の受注額は累計で約1兆円となった。「日本原燃さんの施設がなければ、六ヶ所村は本当に衰退していたと思いますよ」。乗車したタクシーの運転手は雑談の中で、こんな感想を述べた。

原子力を持続可能にするために「これ以上遅らせない」覚悟で

日本で原子力発電の運用が続く限り、それを支える核燃料サイクルの仕組みは必要だ。その技術が集約される日本原燃の施設はどこもその巨大さ、新しさが印象に残るものだった。設備や技術は日々進化し、安全性も向上している。

再処理工場の竣工は、これまで27回も延期された。そのためにエネルギー業界内外やメディア関係者の多くが、完成が間に合うか不安を抱いている。日本原燃は「これ以上、竣工を遅らせることはできない」(2月27日の会見で増田社長)との覚悟だ。

原子力発電所の立地が集中する福井県の杉本達治知事が再処理施設の工事現場を今年4月に視察した。知事は会見で、「核燃料サイクルの重要な鍵を握る施設であり、関電の使用済み燃料の搬出計画を踏まえ、増田社長には事業者が協力しながら(竣工の)目標を守るよう全力を尽くすことを強く申し上げた」と強調していた。関係者の期待も強い。

今回の下北半島の現地取材を通じ、核燃料サイクルが本格始動する時期が確実に近づいていることを実感できた。予定通りの竣工を期待したい。