温暖化問題20年 国際ルール移行
山本 隆三
国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授
(「環境市場新聞 2025年(令和7年)春季第80号(季刊)」より転載:)
「環境市場新聞」が発刊された20年前から今まで、地球温暖化を取り巻く世界では、大きな変化がありました。最大の転換は京都議定書からパリ協定への移行でしょう。
1997年に京都で開催された気候変動枠組み条約第3回締約国会議(COP3と呼ばれますがCOPは当事者の会議という意味なので、生物多様性に関する国際会議などでも用いられます。)で合意されたのは、先進国が取り組む具体策いわゆる京都議定書でした。
内容は2008年から2012年の間の温室効果ガス排出量に上限を設けること。1990年の排出量を基準にして、EU(欧州連合)と先進国の排出量に上限を設けました。
1990年が基準になった理由はEUに都合が良かったから。その時期は旧ソ連邦の崩壊で中東欧の国が市場経済国に移行しています。共産国の旧式設備が入れ替わりエネルギー効率は上昇するため、以降の排出量は大幅に減ります。つまり政治的駆け引きで、EUはあまり努力しなくても数値上の排出量を減らせる年が選択されたのです。
そしてアメリカも強制力のある国際条約の議定書批准には上院の3分の2の賛成が必要であり、当初から参加しないと見られていました。その予想通り最終的には議定書を批准しませんでした。
そんな中で日本は、1990年比6%削減の目標を負います。結果的にこの目標は達成できたのですが、それを海外の途上国で技術支援して生み出した削減量を加算して可能になったものでした。先進国が自国技術を使い途上国で削減した量を、目標達成に利用できる制度を用いたのです。
この制度に基づき、中国、インド、東南アジア諸国を中心に官民で多数の事業が実施され1兆円を超す費用が投入されました。これに対して空気の購入にお金を使ったとの批判が出たほどです。
京都議定書で削減目標が課されたのは全地球の排出量の3割にも満たない国だったので、最大排出国の中国、急激に排出量を増すインド、さらにはアメリカが参加しない制度には意味がないとの声が上がりました。そこで、罰則を設けず各国が自主的に目標値を設定するパリ協定が2015年に採択されました。(トランプ政権は協定からの離脱を発表しています。)
パリ協定でも、先進国が関わった途上国での削減分を目標達成に利用できる制度があります。途上国との間でどう配分するかは両国で合意する必要がありますが、日本の省エネ技術などを使い海外で削減を進めれば目標達成が容易になるでしょう。
政府も途上国で削減を進める日本企業を制度で後押ししています。企業にとって温暖化問題への取り組みがビジネスの機会につながります。
環境市場新聞については、次のリンク先をごらんください。
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