AI時代のエネルギー革新 ~電力需要と脱炭素の挑戦~


東京大学大学院医学系研究科 総合放射線腫瘍学講座 特任教授

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【放射線治療装置(医療用リニアック)】AIによる医療画像診断が進む

AI普及と電力需要

 2024年10月、ノーベル賞の発表がありました。物理学賞は人口知能(AI)の基礎技術を開発した研究者が受賞、化学賞でもたんぱく質の立体構造を予測するAIを開発した研究者が受賞しました。AIは私たちの暮らしやビジネスの場で存在感を増しており、医療の世界でも、米オープンAI社が開発した最新版のAIが、日本の医師国家試験の合格ラインを超えました。

 がん医療の分野でも、AIの活用が進んでいます。たとえば、「深層学習」によって医療画像を解析し、がんの早期発見を支援するシステムが実用化されています。先日、私も胸部レントゲン写真を撮影した直後、AIから「白判定」を頂きました。
 私の専門の放射線治療の分野でも、AIによる「自動最適化」が実用化されつつあります。そもそも、近い将来、電子カルテの詳細な情報から、AIが治療方法を決定する時代が間違いなく来ます。もとになる『教師データ』が乏しいケースでは、AIも間違うことがありますが、時を追うごとに、がん治療の高度化に確実に寄与するでしょう。学習に必要な教師データは増え続けるからで、「AIがん治療」が普及するほど、精度が高まります。

 しかし、AIには大量の電力が必要です。これまで国内の電力需要は人口減少と省エネの普及により減少すると言われてきましたが、この流れが大きく変わる転換期を迎えています。とくに、AIに不可欠なデータセンター(DC)の新増設が相次いでいることの影響は甚大です。
 DC集積地として注目されるのが千葉県印西市です。都心への近さ、地盤の固さ、空港へのアクセスの良さなどが人気の理由のようです。東京電力パワーグリッド(PG)管内では、DC向けの電力契約見込みが10年後に最大で現在の12倍にもなるとされます。東京電力PGは電力インフラ増強に向け、千葉印西変電所を新設した他、送電ケーブルの整備も急いでいます。東京電力PGが275kV級の超高圧変電所を新設するのは実に24年ぶりとのことです。最先端デジタル技術を駆使して設備保全の運用効率化・高度化を実現した、超高圧変電所としては国内初のデジタル変電所であることも特徴ということです。

米国巨大テック企業と原子力

 米マイクロソフト社は近接する同社のDC用に、スリーマイル島原子力発電会社と20年間の長期電力供給契約を締結し、全量を買い取ると発表しています。同発電所では、1979年に2号機に事故が発生しましたが、1号機はその後30年以上にわたり発電を続けました。2019年に採算悪化を理由に廃止されましたが、同社DCの電力需要を満たすため、2028年の再稼働に向けた準備をしています。
 また、アマゾンは次世代型原子力発電所である小型モジュール炉(SMR)への投資を、グーグルは新設されるSMRからの電力購入をそれぞれ発表しました。
 DCは24時間365日の絶え間ないデータ処理を維持する必要があるため、太陽光や風力発電のような天候に左右される再生可能エネルギーだけでは安定供給を達成できません。大量で安定した電力を脱炭素電源で確保するために原子力を選択したと言えるでしょう。

第7次エネルギー基本計画

 国は昨年12月に第7次エネルギー基本計画の原案を公表しました。3年前の第6次策定後の状況変化として、DX(デジタルトランスフォーメーション)やGX(グリーントランスフォーメーション)進展に伴う電力需要増加が見込まれることや、ロシアによるウクライナ侵略や中東情勢緊迫化による経済安全保障上の要請の高まり等を挙げています。これらを背景に、「再エネ最優先の原則」と「原発依存度の可能な限り低減」の文言が削除されました。また、DCのエネルギー効率改善に向けた取組強化が重要とも記載されています。
 エネルギー政策は私たちの暮らしに密接に関わるものであり、国の経済成長や産業競争力を左右します。エネルギー自給率の低い我が国で、高まる電力需要を低廉で安定した電力で支えながら地球温暖化を食い止める。このためには、安全性の確保を大前提に、原子力を最大限活用していくことが必要だと考えます。

 本コラムのタイトルは、「『AI普及』『電力需要』『脱炭素』に関するコラムのタイトル」と指示し、AIが導き出した複数案から最も適当なものを採用しました。