与党過半数割れ、エネルギー政策はどうなるか?
石井 孝明
経済記者/情報サイト「withENERGY」(ウィズエナジー)を運営
10月27日に行われた衆議院選挙で、自民党・公明党の連立政権が同院の過半数割れとなった。原子力・エネルギー問題で活動してきた自民党議員の落選が目立った。これまでの政策が停滞する可能性がある。半面、エネルギー政策の新しい取り組みを訴える政党が力を増し、影響を与えるかもしれない。何が起きるのかを考える。
柏崎刈羽原子力発電所の再稼働に影響か
新潟県では、小選挙区5つ全てで原子力に批判的な立憲民主党の議員が当選した。自民党、同党系の候補は全敗した。同県では東京電力の柏崎刈羽原子力発電所の再稼働が問題になっている。同発電所の立地する柏崎市、刈羽村を含む新潟4区は立憲民主党の議員が当選した。
ここの7号機の新規制基準に対応した安全対策工事は終わり、あとは県民の同意を待つだけになっている。同県の立憲民主党議員らは、「意思確認は住民投票で行うべきだ」と言う意見を示している。彼らはこの見解を以前から示していた。新潟県の各種世論調査では現時点で、同発電所の稼働の賛成、反対は拮抗している。
東日本大震災の後に原子力規制委員会が作られ、原子力発電所は新規制基準の対応が必要となり、その対応工事が終わった後に再稼働をしてきた。そこで民意の同意が必要になっている。これは法制化された形で方法が決まっているわけではなく、慣例化しているものだ。地元県知事、立地した自治体の首長、県議会、立地自治体議会が同意を表明することが行われてきた。
立憲民主党議員らの提案はアイデアの段階だ。しかし一定の支持を背景に形になる可能性がある。再稼働否決となれば、発電所の存続にまで影響が出かねない。民意を無視することもできず、また原子力発電所を事実上廃止することもできず、難しい問題になっている。
選挙で消えた自民党の原子力活用派
ここ数年のエネルギーをめぐる政治情勢は、次のような状況であったと私は理解している。岸田文雄首相と前政権はGX政策(グリーン・トランスフォーメーション)、つまり脱炭素経済への転換を経済政策の柱にした。ここでは原子力の活用が主張された。これは経産省が主導したが、その政策の肉付けが自民党で議論された。
また自民党の一部議員からの原子力活用の強い要請があった。そして厳格すぎて審査が長期化、混乱した原子力規制制度の改革の提案が行われた。行政機関として独立性を与えられた原子力規制委員会が日本原電敦賀2号機について、活断層がある可能性があり、事実上廃炉という決定を11月に下した。これに一部の自民党議員から強い批判が出ていた。
一方で自民党内の再エネ派の議員の動きは、この1年は目立たなくなっていた。中心となる河野太郎氏が内閣府の特命担当大臣として入閣していた。加えて洋上風力発電事業を巡り事業者側から約7200万円を受け取ったなどとして、23年9月に受託収賄と詐欺の疑いで逮捕された前衆院議員秋本真利氏の問題があった。自粛ムードが出ていたようだ。こうした状況が変わる可能性がある。
今回の選挙では、原子力活用を主張する立場の自民党議員が軒並み落選してしまった。また新潟県や福井県、茨城県の立地地域の自民党議員が落選してしまった。この人たちは、原子力の規制改革を主張していた人々だ。
ある落選した大臣経験者の自民党議員は、11月取材に応じ「党側でエネルギー政策を支える同志議員が減ってしまい、改革の停滞を懸念している。石破茂首相の周りに、エネルギー問題に関心を向けるブレーン、議員が少ない」と、彼の進めた政策が停滞することを懸念していた。
読めなくなった政治の影響
しかし野党もエネルギー政策でまとまっているわけではない。野党第一党の立憲民主党が勢力を伸ばしたが、ここは以前からの脱原発・再エネ振興の政策は変えていない。一方で新しい動きがある。原子力の活用を唱える国民民主党が勢力を伸ばし、参政党も2議席を獲得。また原子力については政策を明確にしないが、再エネ支援の縮小を訴える日本保守党も3議席を得た。
与野党が過半数割れをした現状では野党の発言力が強くなる。政府・与党側は過半数を取れなかったために、考えを同じにする一部 野党と政策に応じた同意取り付けを重ねていくだろう。少数政党も影響を持つかもしれない。その議論対象の政策の一つに、エネルギー問題がなりそうだ。
現在は発電の電源割合、そして二酸化炭素排出量やエネルギー需給の将来目標を定める第7次基本計画が策定中だ。2024年内の骨子公表、25年初頭の閣議決定を目指している。岸田前政権はGXの中で原子力発電の「活用」を政策にした。一方で、原子力規制改革には手をつけなかった。
21年に閣議決定された第6次エネ基では原子力を「可能な限り低減」という文言を残し、再エネの主要電源化の方針を掲げた。私は、第7次エネ基では、GX政策を反映して原子力活用に舵が切られると予想していた。しかし、11月末の現時点で先行きは分からなくなったと思っている。
首相の持論は「原子力の可能な限り低減」
石破茂首相はもともと、原子力について「可能な限り低減」との持論だった。しかし9月の自民党総裁選、10月の総選挙ではそれを言わなかった。選挙後は、GX政策を継続することを表明している。
しかし過半数割れの後では、どのように動くかは見えない。自民党からの原子力を活用しろとの圧力が、その立場の議員が減ったために弱まりそうだ。持論と一致する立憲民主党と連携の可能性もある。石破首相が、エネルギー問題で立憲か、国民民主党のどちらの野党と協力するかで、エネルギー政策の方向は変わる。
私は個人的には柏崎刈羽原子力発電所の再稼働、原子力の活用、原子力規制の見直し、エネルギー自由化政策の問題点の検証と是正が進むべき方向と考えている。それに進むことを期待したいが、さまざまな政治的駆け引きの中で紆余曲折は続きそうだ。
ビジネスは政治・政策の動向が不透明であるとやりづらくなる。エネルギー産業は、福島原発事故の後で、その政治と政策の先行きの不透明さに振り回された。それが残念ながら続きそうだ。動向を読み切ることはできないが、注視していきたい。