原子力政策、福井県に蓄積される不信
石井 孝明
経済記者/情報サイト「withENERGY」(ウィズエナジー)を運営
「福井県は、原子力問題で国に一種の『安全カード』に思われている。好き勝手をしても、福井は認めてくれると政府関係者は思っているのではないか」。ある福井県の政治家は、国への不信感をあらわにした。
福井県に関係する、原子力をめぐる重大な国の決断が次々と行われている。それなのに、その決定で国は福井県をないがしろにしたように見える行動をする。原子力関係者はこの不信の蓄積を知り、その解消を目指すべきだ。
2023年10月に策定された関西電力の「使用済み燃料対策ロードマップ」の見直しの問題が起きている。福井県は、これまで原子力発電所から出る使用済み燃料の県外搬出を求める方針を示してきた。ところが関西電力は中間貯蔵施設の建設の見通しが立たず、また今年8月に青森県の六ヶ所再処理工場の竣工時期が延期となった。そのためにロードマップに狂いが生じた。それ以前にも、使用済み燃料の県外持ち出しは、何度も見直された。
今年9月に福井県、同県県議らが資源エネルギー庁と関電の幹部らとの意見交換会を行った。そこでは自民党県議が「『もう一度出すから信用してくれ』では信用できない。3基(40年超運転となる美浜3、高浜1、2号機)を直ちに止めていただきたい」と、エネ庁、関電に迫るほどの不信感が示された。
2011年の東京電力の福島第一原発事故の後で、日本にある原子力発電所は政治的に停止させられた。2012年に新組織の原子力規制委員会が作られ、新規制基準に基づく安全審査が行われた。関西電力が福井県の嶺南地方(若狭地方と呼ばれることも)に持つ高浜(高浜町)、美浜(美浜町)、大飯(おおい町)の3つの原子力発電所は新基準による適合性審査に合格し、他社に比較して原子力発電所の再稼働を早めに実現した。
しかし、稼働すると次に使用済み核燃料の問題が出てきた。現在は各発電所の建屋内にそれを保存している。今後5年以内に、各発電所の収容施設が満杯になる予定だ。関電は発電所内に乾式貯蔵施設の設置を検討するとしているが、福井県の杉本達治知事は「今回の話に決着がつかなければ、乾式貯蔵の事前了解はない。乾式貯蔵はつなぎにすぎない」との姿勢だ。この厳しい態度に、与野党共に県議会も同調する姿勢だ。
権限別れ、国の姿勢が混乱
関電はおよそ20年前から中間貯蔵の実現について福井県を説得し、それがうまくいかなかった。また福井県外の搬出地を探しきれなかった。さらに山口県上関町で中国電力と中間貯蔵施設の建設に向けた地質調査を合同で行うことを2024年に発表したが、建設はかなり先になる見込みだ。同社の判断が甘すぎた。
しかし国にも大きな責任がある。関電を指導し、問題解決に協力し、この問題が大きくなる前に、対応をすればよかった。しかし国は解決できなかった。
また原子力政策が、エネルギー政策を担う経産省、高速増殖炉開発の研究と開発を行う文部科学省、原子力の安全規制を行う原子力規制委員会・原子力規制庁、国策の原子力を活用するGX(グリーントランスフォーメーション)政策の所管は内閣府と担当と権限が分かれ、別々に動いている。その間の調整不足も目立つ。
使用済み核燃料の搬出先である青森県六ヶ所村の日本原燃の再処理施設の完工が遅れている。それが関電の計画見直しにも影響した。遅れの一因は、規制当局による審査の長期化だ。前述の意見交換会で、福井県側が経産省の担当者に「再処理工場を早く動かしてくれ」と求めたが、「それは規制委マターなので…」と、おかしな答えが返ってきたという。
福井県自民党筋は、「国のチグハグな政策に関電だけではなく、県も振り回されている。私たちにとって、『日本国』が相手なのに、その内部事情で問題が送れるのはおかしい」と憤っていた。
作られない避難道
問題はそれだけではなかった。現在、東京電力の柏崎刈羽原子力発電所の再稼働が問題になっている。国は9月に原子力関係閣僚会議を開いた。そこで再稼働支援策の一環で、経産省主導で、避難道路を整備することを決めた。再稼働を支援するためだろう。
ところが、この決定を福井では、「福井がないがしろにされている」と受け止める関係者が多かった。福井でも避難道の問題がある。特に美浜原発の避難道路の問題だ。美浜町の東には敦賀市、西にはおおい町、高浜町という原子力施設の立地地域がある。美浜町から原発を避けて避難するには、南方向の滋賀県高島市へとつながる避難道路が必要だ。
その道を作ることを、福井県と美浜町は、東電の福島事故の直後から、国に求めている。しかし、いまだに何も進まない。担当省庁もあいまいなままだ。「再稼働の難しい新潟は優遇され、再稼働が楽な福井が差別されている」。ある福井県民は怒っていた。
敦賀2号機廃炉、なぜ地元が怒らない?
気になる動きがある。日本原電敦賀2号機(福井県敦賀市)が、今年11月に原子炉の下に活断層があるとして、原子力規制委員会により規制基準に不適合と判断された。廃炉に追い込まれそうな状況だ。この判定にはさまざまな問題がある。ところが、福井県からも、地元敦賀市からも、この判断への批判は出ているが、それほど強いものではない。
原子力発電所とは大規模な工場である。この問題について福井県の大きな工場が一つなくなるのは大変なことなのに県民の関心は薄い。福井県民は、原子力を必要な存在と思っていないのか。そうした疑問を持って、福井県の自民党関係者に聞くと、「そうだ」と返事が返ってきた。
「原子力は福井県東部の嶺北地方の人々にとっては、『嶺南の問題』と見られてきた。さらに原子力産業に直接関わる人以外は、福井県民にとって原子力は必要なものではない。そこで作られる電気は福井県以外の場所、関西の都市圏で使われる。1970年代には、最先端の技術である原子力発電を受け入れる県全体の歓迎ムードがあったが、今はなくなっている。そうした状況なのに国は福井県に配慮しない。敦賀2号への県民の冷たい態度は、原子力がなくてもいいという不信感の表れなのではないか」。
「福井の原子力の終わり」が始まった
福井県選出の滝波宏文参議院議員(自民党)は、敦賀2号機への不合格の判断のおかしさを批判した上で、この決断が「福井における原子力の終わりの始まりになりかねない」と影響を懸念する。国の対応への不信が福井県に集積している。原子力の立地を福井県に国がお願いしてここまで運営してきたのに、敦賀2号機を勝手に国の権限で使えなくしてしまった。それが、さらに福井県民の不信感を強めかねない。これをきっかけに、福井県の人々が原子力発電の運営に協力をしない動きが、始まりかねないというのだ。
立地地域福井県の不信感を、国、そして原子力に関係する人は、深刻に受け止めなければならないだろう。特に経産省と規制委がチグハグな行動をする。これが関係者すべてに混乱を広げている。その是正が必要だ。