地震で繰り返される、原発危険デマを止める

ー 志賀原発の状況 ー


経済記者。情報サイト「&ENERGY」(アンドエナジー)を運営。

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地震で必ず起きる原子力批判

 1月1日に発生した能登半島地震で、北陸電力の志賀原子力発電所の安全性をめぐり、デマ、不安をあおる情報が流れている。3週目に入ってそれらはSNS上でようやく目立たなくなった。しかし大規模自然災害のたびに、原子力をめぐって同じことが繰り返される。今回の災害の情報流通の問題点を検証し、何が起こっているかを確認してみよう。

 今回の地震で二つの原子炉を持つ志賀原発は災害で被災し、少し設備が破損した。しかし、人体に影響のある放射能漏れのような重大事故が起こる可能性はない状況だ。

 それなのに、騒ぐ人々のリスク感覚のずれを、筆者は不思議に思う。北陸電の七尾太田火力発電所(石炭、総出力120万kW)の被害は大きく、現時点で復旧のめどは立っていない。電力供給の観点からすれば、この損害の問題の方がはるかに大きく、復興への悪影響も懸念される。

 原発ばかりを問題視する一部メディア、一部政党は、リスク感覚がおかしい。被災地に関心がなく、自分の反原発の主張のために、志賀原発をことさら問題にしているようだ。強く批判されるべきであるし、実際にSNSでは大変な批判が出ている。

 どのような施設であろうと、強い地震に見舞われたら、何らかの損傷が発生する可能性がある。それを回避し、どんなに強い地震でも傷一つ負わない施設を構築しようとすれば、膨大なコストや労力、時間が必要になってしまう。被害を受けたとしても、重大事故の発生を防ぐ仕組み、対策をしっかりと講じることが大切なのではないか。そして現実の地震の試練に、現時点で志賀原発は耐えている。

 つまりリスクと対策のバランスを、原子力の災害対策で主張し続けることが必要だ。一部の人と違って賢明な日本国民の大半はその状況をわかっていると思う。その少数者の声が、状況を支配しないようにさせなければならない。

確認すべき情報源

 正しいリスクの判断のためには正確な情報が必要だ。北陸電力、電気事業連合会は、志賀原発をめぐる情報を積極的に公表している。北陸電力はホームページでトップに「令和6年能登半島地震について」、「志賀原子力発電所の現状について」を設けている(以下、北陸電資料)。また電事連も「特設サイト:能登半島地震による各原子力発電所への影響について」を公開している。

 しかし当事者であるために「情報を信じられない」という意見があるだろう。そこで行政が積極的に正しい情報を公開してほしいが、原子力規制委員会、その下部機関である原子力規制庁の動きは足りないように、筆者には思える。

 同委員会は、10日の会合で「令和6年能登半島地震における原子力施設等への影響及び対応」(PDF)を審議、公開している(以下、規制庁資料)。

 ただしウェブサイトで、簡単にたどり着けない場所にこれらの情報が置かれている。天災が起こった場合に、規制委・規制庁は、原子力施設をめぐって、いつも国民に安全・安心を積極的に広報する意欲を感じられない。批判されることを恐れているためだろうか。これは責任逃れに見えるし、問題のある態度だ。

多い質問とその答え

 これらに書かれている情報を、より短く、読みやすいよう、ネットで見られる疑問に沿って整理する。

Q:地震で志賀原発に何が起きたのか。放射能漏れは起きていないのか。

 志賀原子力発電所は現在、新規制基準の審査中で2つの原子炉は停止している。今回の地震では原子炉本体に異常はない。外部への放射能漏れなどの事故は起きていない。

 1号、2号機は新規制基準の適合性審査を申請し、再稼働に向けた準備中だ。発電能力の大きい2号機の審査を優先している。いずれも原子力燃料は装填されていない。

 今回の地震では発電所内の電流の電圧を変える変圧器が2つ破損した。そこから取水溝を通じて油が海に漏れた。これを注視する人がいるが、海に漏れた油の量は推定6リットル前後とごくわずかで、回収されている。


破損した変圧器の一つ。破損部位はブルーシート部分(北陸電資料)

 放射能が漏れているかどうかは、モニタリングポストで確認できる。「図1」で示された通り、放射能漏れは起きていない。


図1 モニタリングポストの数値。1月9日時点。石川県内の放射線の状況はすべて薄青で、自然放射線レベル。何も危険はない(規制庁資料52)

Q:地盤が崩壊していないか。

 一部の地面が揺れ、舗装などに割れ目ができた。しかし、いずれも数センチレベルのズレの破損で、発電所の運営や所内の交通や作業に支障はない。発電所内の基幹道路は破損していない。地面の破損は構内では以下の通りだ(図2)。


図2 志賀発電所の地震の影響で生じた主な道路の破損箇所。いずれも数センチのずれ(規制庁資料13)


物揚場(港湾の物資揚陸に使う場所)で生じた段差(規制庁資料24)

Q:津波が不安だ。福島第一原発事故は、津波で設備が壊れたことで発生した。

 津波の高さは、気象庁によると志賀町付近では1月1日の地震で約3メートルだった。志賀原発では、外部から冷却のために取り入れる取水槽の水位が、それに連動したためか、3m上昇したことが観察されたが、そこからの水の構内設備への漏れ、浸水などはない。

 志賀原発は、海面から高さ11mの場所に主要設備が作られ、その11mの場所に高さ4メートルの防潮堤が作られている。つまり海面から15mの高さの余裕がある。3mの津波で影響はない。


図3 水位上昇の説明図(規制庁資料22)

Q:外部電源がなくなったと報じられた。

 なくなっていない。外部電源は5回線ある。そのうち、変圧器の破損で2回線が使えなくなったが3回線は維持されている。非常用電源は1号機に3台、2号機に3台あり、いずれも使える。また、それとは別に大容量電源車が2台、高圧電源車が8台あり、それらも使える。必要な電源は喪失していない。また火災も起きていない。


原子炉2号機の非常用発電装置の写真。損傷は1月10日時点でない(北陸電資料)

Q:想定外の揺れの地震があった。

 地震は想定内である。設計上は旧規制基準の600ガル(ガル:揺れのエネルギー)に耐えられる。新規制基準で1000ガルに耐えられるように工事を行う予定だ。今回の地震では発電所はそれ以下だ。構内の一部施設で局地的に揺れが想定上限近くになった可能性があるが、主要機器では想定以上の振動は観測されなかった。

Q:使用済み核燃料の保管プールが心配だ。水が漏れたと伝えられた。

 どの原子力発電所でも使用済み核燃料を原子炉建屋内に保管し、プールで水中に入れて冷却をし続ける。志賀原発では1号機の冷却ポンプが地震直後に停止したが、すぐに復旧した。2号機では揺れにより推定57リットルの水がプールの周辺に漏れた。微量の放射線を発する水だが、直後に拭き取った。外部への放射線漏れはない。またいずれのプールでも破損はなく、冷却は維持されている。

 1号、2号とも運転停止から10年以上が経過しているため、燃料の温度は100度以下に下がっている。水を冷却しなくても、水が蒸発する可能性はほとんどない。


2号機の使用済み核燃料の保管プール。安全に燃料は管理されている。1月10日(北陸電資料)

Q:石川県に地震の可能性がある以上、原発を作るべきではない。

 今回の地震の全体像が解明されていない状況で乱暴な意見だ。日本の原発は、堅固な岩盤の上に原子炉が建てられ、活断層が重要施設下部にないとの条件で建設されている。「活断層でない」とは直近12万年動いた形跡がない断層のこと。そして志賀原発の主要設備の下に、活断層は確認されていない。今回の地震の影響を分析することは必要だが、安全が確保できるならプラントを潰す必要はない。