人によるミスを無くす

- 東電・柏崎刈羽原発の取り組み -


経済記者/情報サイト「withENERGY」(ウィズエナジー)を運営

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朝のあいさつを続ける東京電力柏崎刈羽原子力発電所の稲垣武之所長

人に配慮した東電の安全対策

 東京電力の柏崎刈羽原子力発電所を視察した。そこで見た同原発の設備面での対策は、IEEIへの寄稿「進化する安全対策を見る-東電・柏崎刈羽原発の今」(10月25日)で紹介した。それに加えて、東電の「人に配慮した取り組み」を紹介したい。今は同発電所7号機の再稼働が問題になっている。それを判断する参考にしていただきたい。

 製造業の管理などで、「ヒューマンエラー」という考えがある。「人間が起こした行動によって起こるミスや事故のこと」だ。具体的には、誤入力や誤操作、認知ミスなどが原因となって、意図しない結果、最悪の場合に事故となる失敗を指す。

 これを避ける対策は、作業の機械化・自動化、マニュアルや手順の整備などだ。しかし人間の関与を工場などの生産の現場で完全に無くすことは難しく、ヒューマンエラーの可能性は残ってしまう。事故防止や安全対策の専門家に話を聞いたことがある。その人によると、ヒューマンエラーの姿は千差万別だが、起きる現場には共通点があるという。それは、「意思疎通(コミュニケーション)が悪いこと」だ。

 「ギスギスした職場は、取りつくろっても見えてくる」と、その専門家はコンサルの経験を話していた。ヒューマンエラーは「確認不足」「伝達不足」「思い込み」の3つの原因が多い。当然、働く人の意思疎通が良くないと、これらの問題は発生する可能性は高くなる。

 「安全対策に終わりはない。検証し、問題があれば工程を直す行為を繰り返していかなければならない。そのためにコミュニケーションがよく、現場の人々が高め合う、現場の雰囲気が安全性向上の前提になる」。

 「昔から言われることの繰り返しだが、働く人々の責任感を、どのように作り出し、維持するかが、ヒューマンエラーの防止の課題だ。『自分がこの組織に属し、その目指す目的を大切にし、自分が積極的に関わる』という当事者意識を作り出すことは生産性の向上だけではなく、事故防止にも役立つ」。このように対策を述べていた。

安全のために人間関係まで配慮を重ねる東電

 2011年の東京電力福島第一原発事故の後に原子力規制委員会による規制行政が強化された。そのために、どの原子力発電所も規制に対応する装備だらけになっている。原子力規制委員会による規制は装備を増やせば「合格」という、かなりおかしな姿だ。一見すると、それによってさまざまな設備が増えて、対応が大変になっているように見える。こうした規制は、人間のミスに配慮した安全対策をしているとは思えない。対策が複雑になり、ヒューマンエラーは起きやすくなる。

 当然、東電側もそれは分かっていた。私を案内してくれた林勝彦副所長は「設備を取り付けて終わりではない。災害や運用の訓練を重ね、さらに安全性を高めて進化するためにどうすればいいか、発電所全体で考え努力をしていく」と話していた。

 この発電所で働く人は約6000人、東電社員はその中で約1200人いて、残りは他の企業の人々だ。その中で、一体感を作ろうと努力を重ねていた。前の記事で紹介したように、2022年秋に赴任した稲垣武之所長は昨年4月から毎日、出張以外では必ず早朝から正門に立ち、入構するすべての人に「おはようございます」と挨拶し、毎日、発電所の問題などを取り上げたブログを書く。また発電所に役立つことをした人に、会社を問わず、所長自筆のメッセージカードを届けている。カードの数は5000通以上になった。

「顔を出し、決意を語る」広報の意味

 そして職場の雰囲気も変えようと工夫があった。人の集まる場所では所長のブログ、発電所側のお知らせ、注意喚起事項がモニターで共有されるようになっていた。小さな事故、「ヒヤリ・ハット」を含め、関係者が集まって検証、情報を共有する。こうしたイントラネットで、関連会社と東電社員は、それらを閲覧できる。また発電所内では、関連会社や東電の社員が顔を出し、自分の仕事への抱負を述べたポスターが貼られていた。

 広報資料でも、東電や関連会社社員が名前と顔を出し、説明と決意を述べる形に変わっていた。以前の東電の資料は「福島事故の反省」が延々と書かれていた。広報資料や説明用パンフレットが、明るい雰囲気になっている。こうした個人を出して広報をするというのは、読み手、情報の受け手に親しみを持たせるためという目的がある。そして働く人に責任感を持ってもらう意味もあるという。

 「写真や映像で顔を出して抱負を語るのは恥ずかしいとか、幹部が一生懸命挨拶やカードを出してもヤラセっぽく見えるなどの意見もあった。それでも実行を続けると、ためらいの声が消えて、コミュニケーションが良くなるプラスの面が出てきた」と東電社員は話していた。

 筆者が構内を見学するとみんながあいさつを交わし、訪問者である私も「明るさ」「コミュニケーションの良さ」を感じられた。

東電の真面目な態度を知る

 現場でのコミュニケーションを良くする。改善の努力を続ける。そうしたヒューマンエラーを無くす愚直な努力を、東電の柏崎刈羽原子力発電所では続けていた。短い訪問ではあったが、その取り組みの真面目さはうかがえた。

 柏崎刈羽原子力発電所の7号機について、東電の安全対策工事は終わった。再稼働のためには新潟県知事、新潟県議会、地元自治体、その背後にある国民と新潟県民の同意が必要だ。

 「東電は信用できない」。そんな声がまだ多い。そのために新潟県と、県議会は現時点(2024年10月)で再稼働を認める動きをしていない。東電は福島第一原発事故を起こした以上、不信があることは理解できる。

 しかし前回紹介した設備の対応に加え、「ヒューマンエラー」まで配慮した対策を東電は行っている。この事実を、多くの人に知ってほしい。私はこの努力をみて柏崎刈羽原発の再稼働を認めていいと考える。読者の皆さんはどうだろうか。