ツバルの訪問で環境関連の報道に思うこと
長谷川 仁志
株式会社 i4h Corporation 代表取締役社長
私は、総合商社で主に化学品分野全般の情報戦略と医療分野の事業開発にそれぞれ10年以上携わり、その後独立してヘルスケアやエネルギー、環境分野に特化したM&Aのアドバイザリー会社を設立し約10年間この会社を経営しております。弊社の特徴の一つは、クロスボーダーの案件が多いことです。このため、業務の特性もあり現場・現物・現実を重視していることから交通の脆弱な辺鄙な海外でも積極的に出張って行きます。
そうしたなか、シンガポールのファンドの友人に誘われツバルへ訪問した時の話をさせて頂きます。
ツバルは「温暖化で沈む国」というセンセーショナルな報道が世界中に駆け巡ったことで、僅か1万人強の小国でありながら認知度はかなり高い国となりました。これに加え、資源も少ない国ですが、2012年の実質GDPは3,022万ドルに対して2022年の実質GDPは4,528万ドルとなっており、10年で約1.5倍になっています。経済成長が先進国の中でも突出しているアメリカの同じ時点と期間の実質GDPは約1.26倍ですから、間違いなく経済は大きく成長しています。このような背景もあり、この夏、現場を見てみたいという好奇心で夏のバカンスを兼ねて訪問してきました。
訪問二日目、友人とお昼時に現地視察していた時の話です。たまたま食堂で隣に座っていた陽気な現地の男性3人が食事をしていたので、少し世間話をして打ち解けたところで、生活で何が困るのか聞いてみると、ゴミと塩害の話をしてくれました。
島にはゴミの処理場がなく、島から出る全てのゴミは島の北端に野晒しのまま山積みされているそうで、分別もされていないようでした。冗談で島が無くなる前にゴミの山の上で生活するようになると笑っていたのが印象的でした。また、地下水の塩害が進んでおり、農産物や飲料水にも影響があるそうです。
これを聞くと大変そうな話ですが、一方で「温暖化で沈む国」に対する善意から世界中から多くの支援の手が差し伸べられており、インフラの整備や立派な建物も建設され、生活は徐々に改善されているそうです。ちなみに、これも冗談かもしれませんが、島が沈んでいるのではなく、道路や建物に必要なセメント作りのために砂利を砂浜から採取しているため、陸地が削られているとも言っていました。
数日間、地元の住民と触れ合ってみましたが、国が無くなるかもしれないというのに、総じて住民には悲壮感は感じられず、寧ろエネルギッシュで外国人にも気さくに応じてくれます。この明るさは単に南国特有の国民性だけではなく実際に改善されている生活環境も一因ではないかとも思った次第です。
少し話が飛びますが、実は、同伴したファンドの友人の目的の一つはツバルの塩害の状況を見分することでした。友人が務めるファンドは海水の淡水化技術をもつ企業にも出資しており、この会社の装置をツバルに寄贈することで世界的な認知が期待できることを想定した調査の一環でもありました。年々、メディアが多様化し複雑化するなかで広告効果も広告料とリニアに相関しなくなり、広告戦略も企業の重要な経営戦略となっています。
ツバルは環境破壊の課題もあり、国連や先進国の公営企業、世界中の環境団体などの関心は高く訪問もあるため、これらは淡水化装置の需要家となることから、淡水化装置を無償提供しても世界中の需要家に向けてピンポイントで認知させることができ、十分ペイできると考えているようです。競争力のある製品や技術があれば、ツバルは宣伝効果を十分に期待できる場所なのです。
更に言うと、多くの国の官僚や企業の幹部などの来訪者に実際に現物の製品を見てもらえる「展示場」として、また、出稼ぎが少なくなり戻ってきた労働者を雇用し修練した上で海外でのオペレーションを担う「人材育成の場」にもなります。
こうして、善意の名の下になされる様々な活動の裏にある意図を隠して情報は世界に流布されていることもあるのです。
ツバルの訪問を通じて、ツバル報道のみならず、「国家存亡」「異常気象」「食糧問題」などなどの事案のように、国民全体の利益に資するという大きな善行の前では、目を瞑っていることや多少の誇張や修飾は是としているように感じます。また、世界的に注目を集める話題が集まり、報道やメディアが活況なところから発信される情報の中には様々な思惑を含んでいるとも感じています。ただ、論外なのは、莫大な数の視聴が見込まれる環境問題というようなテーマを前に、報道やメディアが安易にPV稼ぎや一部の受益者に忖度することだと思います。